01 宮家
「うぅ、美味しいです。ぐすっ。」
今、俺と机を挟んで対面に座る少女が母さんに出された茶菓子を食べながら涙ぐんでいる。
「落ち着いたか?」
俺がなるべく穏やかな声音になるように気を使いつつ声をかける。
女の子はこくこくと何度も頷いてくれるが、どうもそれがいっぱいいっぱいのようだ。
状況を説明しよう。
まず、事の起こりは1時間程前まで遡る。
俺は妹の冬華と一緒に風呂に入って体を洗っていたときのことだ。
浴槽が突然ものすごい光を放った。俺と冬華がびっくりしていると、浴槽からそちらもひどく驚いている様子の声が聞こえてきた。それが今目の前にいる少女だ。少女は金髪碧眼で、いかにも御令嬢といった風な簡素でしかし、気品がある薄桃色のドレスを着ていた。ずぶ濡れだったけれども。
その後、一悶着あってとりあえず今はずぶ濡れのドレスを母さんの服に着替え、ドライヤーで頭を乾かすなどしてとりあえず体裁を取り繕った状態になって、落ち着けるためと話を聞くために出された茶菓子をほうばっている。
「えーと、それじゃコレがどういう状況なか?」
「……はい。まず、私の名前はクーデリア・ハーレクインです。絶対知らないと思いますけどハーレクイン王国の第一王女です。」
「王女様⁉︎」
冬華が食いつく。父さんと母さんと俺はちょっと反応に困る。
「はい。王女です。違う世界にある国の……です。」
「ち、違う世界?」
「はい。こことは違う世界というものがある、ということを理解していただかないと説明できないのです。いいですか?」
「あ、あぁ。いいよ。続けて。」
ひとまず先を急がせる。違う世界ねぇ……。
「はい。その世界……私達の世界には魔王という凶悪な存在がいるのです。魔王は四百年ほど前に先代の勇者によって倒されたのですが、その圧倒的不死性のせいで倒し切ることができず、封印という手段をとらざるをえなかったのです。その魔王が此度復活を果たしてしまい、人類は再び滅びの危機を迎えいるのです。そこで、我が国はかつて魔王を討伐した唯一の存在である勇者を再び召喚せんとしたのです。それで……」
クーデリアがいいよどむ。俺はゲームみたいな話だなと思いつつ先を促す。
「……それで?」
「あぅぅ……その召喚のための儀式を行ったのが私なんですけど……その、失敗しちゃいましたです。そしたらこうなったのです。」
『こうなったのです。』のところで現状をアピールするように身振りが入った。その様子から見るにクーデリアもよくわかってないようだ。
「なんで、失敗してここに来るんだ?」
わからないのだろうけど確認だ。
「私は逆に勇者の方に召喚されたのではないか、と考えています。」
「へ?どゆこと?」
あれ?思いの外原因わかってた?
そして、どうもまたしても冬華の食いつく話題だったようだ。
「それって!お兄ちゃんが勇者ってこと⁉︎」
目をキラキラさせておれとクーデリアを交互に見る。
「そうだと思います。」
クーデリアが真面目な顔してこっちを見てくる。えーと?
おれが狼狽していると代わりに父さんが口を挟む。
「まぁ、その辺のよくわからない話は一旦置いといて、こっちも自己紹介ぐらいするべきじゃないか?」
「それもそうね。」
「はーい!ハイハイ!私から私から!いい?」
母さんが同意し、冬華が目を輝かせて猛烈にアピールする。
「私、冬華!呼び方はなんでもいいよ!お兄ちゃん達は冬華って呼ぶけど友達はフユとかユカとかミヤフユとかいろいろだから。クーデリアさんは長いからクーちゃんって読んでもいい?」
「は、はい。」
「やったー☆よろしくね、クーちゃん!」
冬華の元気に圧倒されるクーデリア。
「次、おれいいか?」
「だめー!まだ私クーちゃんに呼んでもらってない!」
「……クーデリア、なんでもいいから呼んでやって。」
「あ、はい。えと、じゃあ、フユちゃん?」
「うん!えへへ〜よろしくね!クーちゃん!」
「あ、はい。よろしくお願いします。」
いつもならおねむの時間なのに元気だな冬華……
「んじゃ、次こそおれが……」
「私は冬華とこっちの勇者(仮)さんの母親の夏海よ。専業主婦という名の冒険者をやっているわ。よろしくねクーちゃん。」
「え!?あ、はい。よろしくお願いします夏海さん。冒険者……?」
割り込まれた……。クーデリアもびっくりだよ母さん!
「えと、次こそ俺……」
「僕は冬華と勇者(仮)の父親で夏海の夫を兼任している自営業37歳、宮秋人だ。宜しく、クーデリアさん!」
「へ!?は、はい。よろしくお願いします。秋人さん。」
割りこんで来た父さんに握手されてブンブンされて目を白黒させているクーデリア。うん、ちょっと可愛いかもな。そんなことを考えていたら冬華の視線が厳しくなった気がする。気のせいだよね?
「それじゃ、今度こそおれの番だ。俺は春哉、ミヤフユ春哉だ。勇者とかよくわからないけど、よろしくなクーデリア!」
「はい。よろしくお願いします。春哉さん!」