00 プロローグ
「この賭けには俺が勝ったってことでいいのか?」
どこまでも白が続く不思議な空間の虚空に俺は問いかけた。
『まったく。呆れてしまいますよ、あなたには』
透き通った美しい声とともに金髪の背中に翼を生やした少女が頭上から降りてきた。
「……君は天使かな?」
俺はその少女に問いかけた。
『わたしは、どちらかと言えば神様ですね。天使を遣わせる方です』
神様は笑顔でそう言った。
神様相手に失礼だとは思うが、かわいいと素直にそう思った。
『それにしても、あなたは本当に無謀な人間なのですね。この仕事を任されて数百年たちますが、初めてですよ? あなたのような人間は』
「本当にその通りだよ。生まれ変わりが本当にあるなんて思ってる奴は、どうかしちまってる」
『あなたがそれを言いますか……」
「でも、生まれ変わりは本当にあった。それがすべてだ」
そう、生まれ変わり――転生は実在した。俺がこの身をもってそれを今、証明した。
もっとも、まだ生きている連中にはこのことを伝えることはできないが。
『本当に……転生が実在すると確信して自ら命を絶つなど、神であるわたしが許していいものなのかしら……」
神様は困ったように笑った。
「俺だって一から十まで信じ切っていた訳じゃないさ。だから言っただろう? 賭けって」
『……まあいいでしょう。では、あなたが得る【特殊能力】を選んでください』
神様がそういった瞬間、無数のパネルのようなものが目の前に現れた。パネルといっても半透明で、フィクションの近未来の世界でよく見かける宙に浮かんでいる画面を連想させる。
「これは?」
『【特殊能力】の一覧表です。一枚一枚に【特殊能力】の名称と詳細が記載されています』
「ちなみに、俺のスキルスロットはいくつあるんだ?」
『二つです。なにか特別なことがない限り、皆さんにはスキルスロットが二つ与えられています』
特別なことってのは、察するに、生きていた時に偉業を成し遂げたとかだろう。それかかなりの犯罪者とか。
『安心してください。犯罪を犯した人間は転生できないことになっていますので』
「ああ……そうか……」
この神様、俺の考えていることが分かっているのか?
怖い。今はその笑顔が怖い……。
「――これと、これに決めたよ」
数分考えてから、俺は答えを出した。
「【記録】と【鈍感】で頼む」
『……本当にあなたは変わった人ですね。普通の人間ならば【英雄】ですとか、ズルい【特殊能力】を選びますよ?』
「神様がズルいって言ったらダメだろ……。まあ、最初から圧倒的過ぎたって、面白くないだろ? 俺はコツコツと強くなる方が好きなんだ」
もう一度、神様は困ったように笑った。
『あなたはブレないのですね。いつだって、自分の考えを曲げない。どんな報酬を用意されていたとしても。たとえ周囲の人々から否定され続けても』
「現世でのことは話題に出さないでくれよ」
『これは失礼しました。では、最後に注意事項を』
神様は、こほんとかわいく咳払いをした。
『【記録】を発動できるのは一度きりなので、しっかしと考えて発動してください。もっとも、それを選んだ多くの人は幼少期に発動させて、もう一度人生をやり直すという使い方をするのがほとんどですけど』
「ああ、俺も早いうちに使わせてもらうよ」
『【鈍感】ですが……特にありませんね。なぜこんなスキルスロットの無駄遣いのようなことを?』
神様がきょとんとしながら尋ねてきた。
やっぱり、神様にはわからないよな。
あっちで生きてた奴にしか分かんないよな。
「なんでって、そりゃ――――」
俺は決め顔でこう言った。
「鈍感は、主人公の必須条件だからだよ!」