プロローグ
10月中旬頃になり、葉は紅に染まるこの季節。
街の街灯にもたれ掛かり、スマホを握り締める。上を走る高速道路の音に掻き消されないように着信を待ち続ける。
プルルルル……
「もしもし」
「もしもし! 私だよ」
彼女からの電話を楽しみに待っていた俺は、待ち合わせ場所に1時間程早く来てしまった。
「優沙、久しぶり」
「さあ、私はどこでしょう!」
突然のナゾナゾに動揺しながらも微笑みながら探す。
しかし見当たらない。
「困ったな。見つからないよ」
笑ながら話していると、ふと雨が降り出した。
「あらら、雨降ってきちゃったね」
「ああ。早く見つけ出さないとな」
「じゃないと私、風邪引いちゃうよ?」
互いに冗談を言い合うと、突然上空にある高速道路から軋む音がした。きっと何かがあったのだろうと適当に脳内処理をしてしまった事が、後になってあれほど後悔したことは無い。
「優沙? どこにいるの?」
「えっとね、ここだよ!竜二くーん!」
不意に背後から身体を触られ驚いたが、それが彼女だということは肌の感触ですぐに分かった。
「やあ、こんにちは」
「こんにちは!!」
だがしかし、彼女だと分かった瞬間に大きな衝撃音が地響きとなり伝わった。
戦慄を覚えた俺は改めて目の前で起きた出来事を確認する。
そこには、大型トラックの下敷きとなり携帯を握り締めたまま横たわる、数秒前まで存在していたはずの彼女の姿があった。
「ごめん……ね……」
彼女は精一杯の声を振り絞り、一言呟いた途端に息を引き取った。