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L'Empereur 後編

「第三歩兵中隊はゴーメシュに急行、敵の小隊を釘付けに!砲兵小隊は第一歩兵中隊、工兵小隊と共同し、敵を砲撃しろ」

シクロフスキー小隊を葬ってから三日後の朝、野戦軍第十九連隊の野営地は喧噪に満ちていた、東ホラーサンーンの野戦軍司令部が45管区の人間から敵の動向を掴みロシアに面しているゴーメシュに展開する為に動きだしていた為である。

「今回、ザカスピ州付近にロシア兵が出現したのは由々しき事態だ、もしかしたら本隊はロシアに到着しているのかもしれない、それでだけにこの小隊を指揮するビティア・ロマネンコには聞きたい事が沢山有る、彼を必ず確保しろ」

リヨンズ陸軍少将の訓示が終わりエイブラハムとリヨンズ、そしてヘイズマン参謀長の三人が幕舎の中に残る

「どうでしょうヘイズマン大佐、ロマネンコは殿だと思いますか?」

エイブラハムがヘイズマンにそう言うとヘイズマンは不安げな顔をした

「再の挑戦を望むか?中佐」

「いえ少将・・・しかし」

「なんだ、ヘイズマンなら事情を全て知っているから遠慮は要らんぞ」

そう言って鷹揚な笑みを浮かべるとヘイズマン大佐も首を縦に振った

「いえ・・・実際の所今何が起こっているのかさっぱり分からないのです」

これを言う事は状況を理解していないという事であり連隊の指揮官としてあるまじき発言であろう、しかしこの一か月間に起こった事を頭の中で整理できていないのもそれはそれで問題だと思った。

「では情報を整理いたしましょう中佐」

そう言うとヘイズマン大佐が卓上に大きな地図を広げる

「まず発端は8月16日、この日、‘東方の博士’の一員であるイワン・カザコフスキーとアレン・アヴエーン少佐がバグダートで発見されました、公式的には商館の諜報員が発見したとありますが‘東方の博士’45管区の内通者の密告によるものらしいです」

「45管区の人間だったんですか」

それは45管区の元締めであるカンタンベリー大主教代理のアラステア・ヴイッカーからも聞いていないことだった。

「恐らくヴイッカーは我々の中に存在するスパイを警戒したのでしょう」

「しかし、その後彼は様々な情報を我々に与えた、その三日後バグダートの教団軍基地が襲撃された、更にしかしだ」

大佐の言葉を継いだ少将が問題を提起する

「しかし?」

「その教団軍はその三日前バグダート郊外の集落、ウトナピシュティムを襲撃、集落の人間は一人を残して全員殺害されました」

「その残った一人がイシュタルという訳か」

「ええ、そうです、その後ロシア人達はイシュタルを貰い受け教団軍を殺害した後逃亡、アレン少佐の上官であるニコライ・ユデーニチ少将を頼り我々の野戦軍が駐在している東部ホラーサンーンの後方にあるトルキスタン総督府に逃亡しようとしています」

「ロシア人達の規模は?」

「一個歩兵中隊程度、約500人だと思われます、しかしその内シクロフスキー中尉が率いる小隊は三日前にエスファハーン州 バルホヴァールの渓谷で壊滅、そして現在45管区の人間の報告によりロシアとの国境地帯にあるゴーメシュへあなた方の連隊を派遣する、という状況です」

「本題は何故イシュタルを‘東方の博士’・東方正教会はイシュタルを欲しているかだ」

「私見ですがもう一つ、何故ロシア人は一個中隊もの軍勢でわざわざここまで来たかという事です、隠密行動ならもっとやり方が有る筈です」

「それについてはどう思う少佐?」



1907年 ガージャール朝イラク ロシア国境 アルボルズ山脈

 ビティア・ロマネンコ中尉率いる100人規模の小隊がトブルスキー少佐率いる第二、第三歩兵中隊と戦端を開いたのはそれから八時間後の午前二時三十分頃、アルボルズ山脈付近の森林地帯だった。

「エイブラハム・ハーパー中佐、ゴア少佐からの伝令が到着致しました」

幕舎の中には次々と戦場から血塗れの歩兵が出入りを繰り返していた。眼下の森林地帯には次々と火の手が上がり、黒煙が噴き出している。

相手の指揮官はゲリラ戦を選択したらしく未だ敵の詳細や位置が掴めていない事は司令部の中に重苦しい空気を感じさせていた。

「彼は何と?」

「砲兵小隊と歩兵中隊の侵攻に二時間程の遅れが出ているそうです、砲兵支援には早くとも後四時間はかかるそうです」

「どの道このゲリラ戦では砲兵支援に意味は無い、それより工兵小隊の到着を急がせてくれ」

一際大きな兵士の絶叫が響く、恐らくどちらの兵士が殺されたのだろう、後味の悪い思いを噛み締めながらエイブラハムは大きな地図が載っている机を見つめていた



「少佐」

「なんだ」

「貴君はこれから如何する気だ」

「イシュタル、貴君を・・・」

「私を逃がし玉砕か、勇ましいな」

「・・・」

「貴様はそれが真の勝利と云う物だと思うのか、それが貴様の望む本当の勝利か?」

(暫く無言)

「私が元々着ていた服の右腕、そこに私達の集大成が詰まっている」

(アレンが驚愕する、イシュタルは相変らず平静を保っている)

「我々は古来より虐げられて来た、そして私はそこから逃げたかった、だから本来は貴様たちに感謝さえしているのだぞ」

あのウトナピシュティムという所から

「それを使うと・・・どうなる」

「さあな」

しかし

「手にある札を持ったまま死ぬのも馬鹿らしかろう、現にロマネンコ中尉の率いる小隊は危機に瀕している」

(そう言うとイシュタルは踵を返す)

「幕舎で待っているぞ」

(アレンが手を伸ばす、しかしイシュタルは砂となり崩れ消失する)

その瞬間アレンは覚醒した



1907年 夜 ガージャール朝イラク某所 第一猟兵中隊幕舎

 そこに‘彼’は居た、雪の様に白く長い髪で左目を覆い隠し、襤褸を纏った女の様な男

「‘エデンの亡霊(イシュタル)’」

そう呟くと目の前のエデンの亡霊はにっこりと微笑んだ、妖艶に。

回を重ねるごとに元々無かった文章力が落ちてきているような気がします(笑)

推敲は大事ですね

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