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Le Bateleur 後篇

相変わらず短く至らぬ点も多々有りますがよろしくお願い致します

2

 1907年 イギリス保護領 東部ホラーサンーン ホラーサンーン野戦軍司令部

 「エイブラムス・ハーパー、東部ホラーサーン野戦軍第二旅団所属第十八歩兵連隊、階級は中佐」

「十九混成連隊の第二歩兵中隊です、マデューク少将閣下」

「そうだったかな、まあ如何でも良い話だ」

野戦軍の司令官、マデューク・リヨンズ陸軍少将はそう言って年季の入っている節くれだった手で私の手を取った。

初陣をセポイの乱で飾り、クリミア戦争・ボーア戦争・マフディー戦争・義和団の乱と死線を潜って来たこの老将は堅実さという意味ではこの包囲作戦に最も適している将軍であるだろう。

「ところで将軍、私を司令部に呼ばれたという事はアレンの行き先が分かったのですか?」

テーブルの上には中東全域の地図と赤い木片、そしてそれを囲むように黄色い木片が並んでいた、恐らく赤い木片がロシア人、黄色い木片が英国軍なのだろう。

「そうだ、現在第一旅団の強襲偵察部隊が捕捉し追いかけている」

エスファハーン州、ガージャール朝イランにとっての最大の州、赤い木片はそこに置かれていた。

「ロシア人め、イランを横断しそのままモスクワに帰るつもりだ、大胆な事をしやがる」

ロシア兵がこのままバグダートから逃げ母国に帰るのならトルキスタン総督府の管轄であるブラハ・アミール国、ザカスピ州、フェルガナ州のどれかの州に逃げ込む公算が高い、その中でフェルガナ州、ブラハ・アミール国は私達が野戦軍の主力が駐屯しているホーラサワーン州の背後に位置しここの方面から逃げる事は無いだろう。

「だとしたら、ザカスピ州、それか距離を取りアゼルバイジャンという手も有るがな」

 そう言うと少将は黄色い木片を動かし始める

「トルキスタンのロシア軍はどうなっていますか?」

「動きはまだ無い、確かアレンの上官はトルキスタン軍管区のニコライ・ユデーニチ少将だ、何か行動を起こすかもしれん」

ニコライ・ユデーチ少将、日露戦争時に鴨緑江、奉天で負傷しその武勲により少将に昇格した勇将である、いくらロシア軍が喧嘩を仕掛ける気が無くとも、もしトルキスタン軍がここを襲撃して来たらロシア人捜索の為、広範囲に戦力を分散しているこの野戦軍はひとたまりもないであろう。

司令部の中に気まずい空気が流れる

「‘東方の博士’達の事はご存知ですか?」

私がその言葉を発すると、少将は私の耳を強引に引き寄せる。

「ここの司令部でそれを知っているのは恐らく私と君ぐらいだろう、うかつに口に出すべきでは無い」

どすの利いた声は流石将軍と言うべきであろう、ヴィツカーとはまた違う凄みを感じた。

「だからこそ君には十九連隊を率いてイワン共を直接抹殺する任について欲しい」

少将は私を掴んでいた手を放し、向き直ると先程とは打って変わった態度で私に語り掛ける。

「それとだ中佐」

そう言って少将は私に何枚かの紙を手渡す。

「この報告書を宿舎に帰って一人で呼んでもらいたい」

‘イブン・パルハームに関する報告書’ マデューク少将から手渡された報告書にはそう書いてある。

 イブン・パルハーム、マフディー教団軍の第二野戦隊の隊長・・・といえば聞こえが良いが2~30人の部下を引き連れ略奪を繰り返している、ならず者の頭目の様な物だった。バグダート駐屯地が襲撃された時に生き残ったこの男は、ロシア軍の銃弾を受け2~3日生死の境を挙句死亡したらしい。

 その2~3日の間にイブン・パルハームが残した言葉、その寄せ集めがこの報告書らしい。

「中佐、リン少尉です、バグダートからの電信が来ておりますがどうなさいましょうか」

部下のリン・ラッセル少尉が幕舎の中に入る為の許可を求めて来る、報告書を少尉の目の届かない所に隠すと少尉を幕舎の中に招き入れた。

「バグダート商館、アラステア・ヴイッカー様からの電報です」

「読み上げろ」

そう言うとリン少尉は大司教代理からの電報を読み上げた

「イシュタルの抹殺を最優先に変更、詳細は報告書を参照の事、です」

「イシュタル・・・?」

リン少尉が出ていった後、改めて報告書を読み直すと確かにイシュタルという名前が出ていた。

 報告書に書いてあるイブン・パルハームが発した途切れ途切れの言葉を拾っていくと、どうやら教団軍はイシュタルという子供を何処からとも無く非合法的な手段で入手しロシア人、恐らくカザコフに売り捌いたらしい。しかしその後ロシア人部隊に突如襲撃され教団軍は壊滅、イシュタルは何処かに連れ去られたらしい。確かにそれならヴイッカーら国教会がカザコフら正教会の面々が奪ったイシュタルを抹殺しようとする理由に納得が行く。

 それにしてもしかしよくそんなに情報を収集できる物だな・・・と私は嘆息した

「古来、スペイン帝国は異国侵略する際、宣教師を真っ先に派遣し当地の様子を探らせた、云わば我が国における地理学者のような存在だ」

バグダートの薄暗い礼拝堂でヴィツカーに教わったカンタベリー第45管区、存在する筈の無い幻の管区

「45管区の宣教師達は教派を超越している、ロシア正教会モスクワ聖遺物管理研究所の第4班にも45管区の人間が潜り込んでいる」

恐らくアレン少佐の位置も‘東方の博士’に潜入しているスパイが逐一知らせているのだろう。

「どうだ、ヴィツカーからの電報は」

司令部に戻ると少将がバグダートから届いた電報を手にしていた、恐らくヴィツカーから送られてきた物だろう。

「イシュタル・・・ですか?」

その名前は聞き覚えが有ったがどうにも思い出せない、すると思い出したかの様にマデューク少将が口を開いた。

「イシュタル、古代メソポタミア、ギルガメシュ神話に出て来る野人エンキドゥを誘惑した女神だ」

今回でイギリス軍パートは一旦中断です、次回からはロシア軍のアレン少佐パートになると思います

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