表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

Le Bateleur 前篇

短めですがよろしくお願い致します

1

1907年 夏 オスマン・トルコ領バグダート イギリス人居住区礼拝堂

東部ホラーサーンに野戦軍が投入されたのは先年の1906年の冬、まだロンドンに陰鬱な雪が降る少し前だった。

 「エイブラムス・ハーパー、東部ホラーサーン野戦軍第二旅団所属第十九混成連隊第二歩兵中隊長、階級は中佐」

目の前の男_身長は私より少し高く黒いローブに銀のロザリアを首から垂らしている男が滔々と私の経歴を読み上げる

「お話は聞いております」

私はそう答えるとカンタンベリー大主教代理、アラステア・ヴイッカーは私の答えに鷹揚な笑みを浮かべた。

「所で貴君は何故、ホラーサーンに三個旅団もの戦力が投入されているか知っているか?」

東にアフガニスタン、北にロシアに接している東部ホラーサーンはガージャール朝との争いの後、イラクから英国が保護領にしている地域である、

「確か参謀部がロシア軍の南下する部隊を捕捉したとかいう話ですが・・・」

多少面喰いながら答えると、生臭い聖職者は軽蔑するように鼻を鳴らした

「馬鹿な話だとは思わんか、ロシア帝国は極東で戦力を消耗し内政もおぼつかない、いくら皇帝(ツアーリ)が領土拡張にご執心でも大英帝国に喧嘩を売れるような余力はロシア軍には無い、これは議会を黙らせる為の方便だ」

この目の前の主教代理は聖職者に似つかわしくない言葉を吐くと薄暗い礼拝堂の長椅子に腰かけ足を組む。

「だったらどうして・・・」

するとヴイッカーは不敵な笑みを浮かべた

「‘東方の博士’という言葉を聞いた事は有るな」

マタイによる福音書に記された博士、イエスの生誕時に馬小屋に現れ乳香・没薬・黄金を捧げた三人の賢者、パルタザール、メルキオール、カスパール。

私がそう言うとヴイッカーは驚いた顔をした

「本当にそれしか知らされていないのか」

「はい、国教会にはここ(バグダート)で起きた事件について調査しろとしか言われていないので・・・」

ヴイッカーは呆れた顔をする

「貴君は少し命令を疑うという思考を持った方が良いな」

そう言って生臭司教は続けた

「ロシア正教会、モスクワ聖遺物管理研究所第4班、彼らの設立された時期は1811年、表向きの理由は新たな聖遺物の収集、研究所の中では‘東方の博士’と呼ばれている」

その‘東方の博士’が問題なのだ、そう言うとヴイッカーは懐から一枚の写真を取り出す、それは一人の冴えないロシア人のポートレートだった

「東方の博士の一員、カザコフ・イワノフスキーだ、七日前バグダート市内で目撃されている」

「そのイワノフスキーを捕獲すれば良いのですか」

すると大司教代理は呆れ顔で、蠅でも払うかの様に手を振った

「早まるな、中佐、ここでもう一人登場人物が増える」

ヴイッカーはそう言うと写真を懐に戻し、足を組み直す

「アレン・オルゴヴェナ・アヴエーン、ロシア軍第1トルキスタン歩兵旅団18歩兵連隊の少佐だ、この少佐も六日前バグダートで目撃された」

「その少佐がカザコフを支援しているのですか?」

「そうだその少佐が問題なのだ、彼は日露戦争で歩兵分隊を率い鴨緑江から奉天まで転戦した勇者(イワン)だ、そしてその少佐とカザコフには領事が監視を付けた」

まあその三日後の夜、彼らは監視の目をかいくぐり失踪したがな、と付け加える

「そしてだ」

ヴイッカーがこちらに向き直る

「彼らが失踪したであろう時刻と同時刻貴君の調査すべき事件が起こった」

ワッハーブ派のマフディー教団軍バグダート駐屯地で起きた虐殺事件の調査、私が英国、国教会に依頼されここ(バグダート)に来た理由だった。

「一週間前、イスラム教の中でも厳格に聖典(コーラン)を保守すべきと唱えているワッハーブ派のマフディー(救世主)を自称するルーズベフ・サンジャルが率いるバクダート教団軍が襲撃を受けた駐屯地に居た600人の兵士たちは皆死亡し、辛うじて幹部の一人でイブン・パルハームという者が2、3日生きていただけでした」

「そうだ、しかし普通だったらそんな山賊崩れの異教徒が何人死のうと英国、ましてや国教会には何の関係も無い、しかしその基地を襲ったのがアレン少佐の率いる部隊だとすると話が違ってくる、もしかしたら彼らはカザコフら‘東方の博士’と組んで女王陛下に仇なす‘何か’をおっぱじめようとしているのかもしれない」

例えどんなに非科学的な事でもな、妙にどすの聞いた声でヴィツカーが付け加える

「そこでリュッシャ(正教会)共に対応する為に我々ライミー(英国教会)が出張っているという訳だ」

今までの話の流れから確かにアレン少佐が関わっている事は読めていた、しかし何故ロシア軍が直接、しかも山賊崩れの教団軍など襲撃する必要があったのだろうか

「しかし・・・ロシア人は一体何を・・・?」

私は恐る恐る訪ねた

それを調べるのは貴様の役目だ、そう嘯くとヴィツカーは長椅子から立ち上がり姿勢を正した、相変らず薄暗い教会の中に一種の緊張感が走る。

「女王陛下、及びカンタンベリー大司教の代理として命ずる、貴君はこれから東部ホラーサーン野戦軍第19混成連隊を率いそのロシア人を殺害しろ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ