第5話 これで良いかな
それから二日後。
「・・・」
恵(歩)が、ベッドの上で。
ペッタンコ座りをしながら、ボンヤリと物思いに耽っていた。
その姿は、男と意識が入れ替わったとは思えず。
まるで、生まれながらの女の子にしか見えない。
”僕は、どうすれば良いのかな・・・”
女の子になってしまう事など、予想だにしなかった歩が。
これからの事に付いて考えていた。
幸い、女の子に関する知識は。
自然に流れ込んできた、恵の記憶のおかげで、なんとかなりそうである。
歩は、確かに世間で言う、男らしい生き方に付いて行けなくなり。
それどころか、自分の体にすら、違和感を持っていたが。
いざ、女の子になってみたら。
どうすれば良いのか、戸惑ってしまっていた。
*********
昨日、恵(歩)が両親と、会ったときに。
両親から、歩(の肉体)の葬式に、出席した事を告げられた。
その時、歩の両親は、恵の両親の事を責めず。
ただ、恵が無事だった事を喜んでいたそうである。
そして、歩の分まで、恵に生きていて欲しいと言われたそうだ。
その事を聞いた歩が、自分の両親の寛大さに驚き。
懐の深さに感動すると共に、そんな両親を残して先立った事を思うと。
恵(歩)は、次第に涙が流れ始め。
そして、ついには泣き出して、恵の両親を慌てさせた。
*********
自分の葬式が、行われた事を聞いて。
歩はもう、この体で生きなければならない事を悟った。
しかし、これからどうしたら良いか、分からないので。
ベッドの上で、悶々(もんもん)としていたら。
「(コンコン)」
「どうぞ〜」
「(シャーッ)」
「お姉ちゃん〜」
歩がそんな事を考えていたら、急にドアをノックする音がしたので。
歩が許可すると、スライドドアが開いた。
開いたドアにいたのは、優太であった。
「(タタタッ)」
「(ガバッ)」
優太は、恵(歩)を見るや駆け出し。
優太を迎える為に、ベッドから降りようとした恵(歩)に抱きついた。
「お姉ちゃん〜」
「もお〜、ダメじゃないの、優ちゃん。
そんなに、勢いを付けて来たら〜」
「えへへ〜っ」
優太は、恵(歩)に抱き付きながら甘える。
恵(歩)も、勢いを付けて抱き付く優太に。
一応、注意する。
「痛いんだから、もっとユックリ来てよね♡」
「うん♪」
しかし、抱き付いて来た事に関しては、何も言わなかった。
それどころか、満更でもないらしい。
・・・
この頃、優太は恵(歩)に甘える様になってきた。
最初、急に優しくなった姉に戸惑っていたのだが。
元々、甘えん坊の優太が、遠慮なく甘えてくる様になったのである。
「本当に、優ちゃんは可愛いなあ・・・」
「(なでなでなで)」
「(〜♪)」
自分に甘えてくる優太が可愛くて。
恵(歩)がハグしながら、優太の頭を撫でている。
優太の方も、目を細めて、恵(歩)の胸に甘えている。
そうやって、ハグしつつ優太の頭を撫でていると。
”これでも良いかな・・・。
どうせ僕は、元には戻れないんだから。
先の事を思い悩んでも、仕様が無いしね”
歩が心の中で、そんな事を考えていた。
”それに、元の体より生きやすいみたいだし。
第一、こんな可愛い弟が居るのだから”
恵(歩)がそう思うと、優太を抱く力を強め。
頭を頬ずりし出した。
「優ちゃん、可愛い〜」
「お、お姉ちゃん・・・」
急に愛情表現が濃くなった姉に、優太が困惑した。
がそれにも構わず、恵(歩)が優太を頬ずりし続ける。
「(すりすりすり)」
「・・・」
優太の頭に、頬ずりを続ける恵(歩)と。
顔を赤くして、恥ずかしがっているが。
それでも恵(歩)の胸に、顔を埋めるのを止めない優太。
こうして、一組のブラコンシスコン姉弟が、誕生したのであった。