第33話 過去のツケなの?
今回の話には、児童への暴力シーンが含まれますので。
人によっては、気分が悪くなる可能性がある為。
そう言う物が嫌いな方、苦手な方は注意してください。
また、いつもより話が長いです。
そうやって歩が、恵の体にも。
かなり、馴染んできた、ある土曜日。
今日、二人は買い物にしに、外に出かけていた。
そうして、ある裏道への入り口に、差し掛かった所で。
「ねえ、近道して行こうよ〜」
「あ〜、優ちゃん、引っ張らないで〜」
優太は、ショートカットしようと、恵を裏道に引っ張ったので。
仕方なく、恵も一緒に行くことになったのだが。
しかし二人は、背後を密かに尾行する、影がある事に気付いていなかった。
*********
二人は、裏道を歩いていた。
そこは、狭くて薄暗くて。
当然、人の気配もない、怪しさ満点の場所であった。
しかし、小学生達はこういった場所を、冒険心で良く通るので。
優太も、いつもの癖で、ここを通ったのである。
「ねえ、優ちゃん・・・、大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、いつも僕は通っているし」
恵が、女性特有のカンで何かを感じて、そう言うが。
優太は、いつもの事だからと、特に警戒はしていなかった。
確かに、いつもなら大丈夫なのだろうけど。
運が悪いことに、この日は、恵を狙う魔の手があったのだ。
・・・
二人が、薄暗い路地を進んで行くと。
「よお、ちょっと待てよ!」
突然、前の曲がり角から男が飛び出し、二人を止めた。
どうやら、先回りした様である。
二人を止めた男は、鋭い目付きが印象的な。
髪を金髪に染め、ダボダボのストリートファッションに身を固めた。
典型的な、ヤンキーとかギャングとか言った、風体の男であった。
「へへへっ、久しぶりじゃないか、恵〜」
男は、鋭い目付きのまま、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながら。
恵に馴れ馴れしく言う。
「あ、あなたは・・・、誰・・・?」
「おいおい、冗談は止めなよお〜」
男の姿を見て、青ざめた恵が、思わずそう言うと。
男が、ケタケタと笑いながら言った。
「お前の彼氏だった、リョウだよ〜。
あれだけ愛し合った、仲じゃないか〜」
リョウだと言った男が、再び、ニヤけた笑みを恵に向ける。
”えっ? なんだって・・・?”
恵の中の歩が、そう思ったと同時に。
また恵の記憶が、歩に流れ込む。
そして、この男が。
かつて、恵が付き合っていた男の一人である事を、理解したのだが。
同時に、この男が。
見た目以上に、凶悪な人間であることも分かったのだ。
・・・
この男は、実は。
ヤクザ以上にタチが悪い、半グレと言って良いグループの、幹部であり。
裏では、知らない人間が居ない位の、有名人である。
初め、その事を良く知らなかった恵が。
付き合うにつれ、かなりヤバい人間である事に気付くと、次第に近寄らなくなり。
最終的に、相手に気付かれること無く、関係を断ったのであった。
それ以降は、元々から接点が少ない上。
恵も、会わないように警戒していた事もあり。
全く、顔を会わせる事も無かった。
がしかし、たまたま偶然に、恵を発見して男が。
恵の後を付けていたのだ。
「(ふらっ・・・)」
流れ込んだ、恵の記憶を知った、歩の目の前が暗くなる。
タダでさえ、男性恐怖症の恵(歩)の前に。
特に苦手で、かつ危険な人間が現れたのだから。
「なあ、もう一度やり直そうぜ〜。
丁度、良い具合に、近くにラブホもある事だしなあ〜」
「いや・・・」
男は、まだ恵に未練があるらしく。
ニヤけたまま、強引に関係を迫ってくる。
だが恵(歩)は、恐怖で声も満足に出なくなっていた。
男が、恵の手を強引に掴み、無理やり連れていこうとするが。
恵は固まってしまい、声を出す事も、振りほどく事も出来なかった。
「(ガブッ!)」
「イテーーーッ!」
恵がこのまま、男に連れ去られるかと思われたが。
突然、男が叫び声を上げ、恵を離した。
優太が、男の腕に噛みついたのだ。
「お姉ちゃんを離せ!」
「この・・・クソガキがあーーー!」
今までニヤけ顔であった男が、一転して凶暴な顔に変化した。
「邪魔するんじゃねえーーー!」
「(ドン!)」
「うっ!」
男の前に立ちふさがった優太が、恵を庇ったのだが。
そんな優太に男が近付き、大きく蹴りを入れたので。
優太が後方に飛んでいった。
「うっ・・・うっ・・・」
「死ね! 死ね! 死ね!」
「(ボコ! ボコ! ボコ!)」
「うっ! うっ! うっ!」
「やめてーーーー!」
後方に倒れ、起き上がろうとした優太を、男が蹴りまくる。
それを見た恵が、優太の元に駆け寄った。
「やめてーーー! お願ーーーい!」
「離せえ! 邪魔をするなあーーー!」
恵が、男の脚に取り付くが、男は恵をも蹴り出した。
「(ガン、ガン、ガン、ガン、ガン)」
「キャーーーーーー! 人殺しーーー! 人殺しーーー!」
裏通りから、すこし先にある、光が漏れる大通りの方から。
何かを叩く盛大な音と共に、絹を裂くような女の悲鳴が上がった。
「ちっ! クソっ!」
その悲鳴に、人が集まり出したのに気付いた男が。
舌打ちをしながら、その場を立ち去る。
「恵ーーー! 大丈夫ーーー!」
「あっ! 真奈美!」
悲鳴が起こった方を見てみると。
叫びながら真奈美が、駆け寄ってきた。
「一体、どうして?」
「うん、偶然、路地に入った二人の後を。
柄が悪い男が、付けているのが遠くで見えたから。
心配になって、追ったのよ」
どうやら、二人を付けていた男を見つけて真奈美が。
後を追ったらしい。
「それより、優太くんは大丈夫!」
「はっ! 優ちゃん! 優ちゃん!」
恵が、懸命に声を掛けるが。
優太は、グッタリとしたまま動かなかった。
「優ちゃん! 優ちゃん! 目を覚まして!」
「恵! そんなに動かしたらダメだよ〜!」
半狂乱になった恵が、救急車が来るまで。
優太に、すがり付いていたのであった。