第25話 姉と弟のクラスメート
それから数日後の夕方。
「〜♪、〜♪♪」
真奈美と駅で分かれた恵が。
買い物に、向かっていた所である。
恵は、気分が良いのだろうか。
ハミングを口ずさみ、軽くスキップしながら歩いていた。
清楚な女子高生が、長い髪をなびかせながら微笑み。
弾みように歩いている。
弾むたびに、短いスカートがヒラヒラと動き。
動くごとに、白くて健康的な太股が、チラチラと見える。
そして、その光景を見た何人もの男達が。
邪な目で、恵を追っていた。
しかし恵は、そんな男達の視線にも気付かず。
気分良く、スキップしながら歩いている。
元々が、男であったので。
恵(歩)は、どう言う行動をすれば。
男達の視線を集めるかに付いては、鈍感であった。
・・・
そうやって、気分良く恵が歩いていたら。
”あれ? あれは優ちゃんじゃないの?”
視界に文字通り、毎日の様に見るが。
何度見ても飽きない、可愛い優太の姿が写った。
”・・・と、もう一人、一緒にいるよね・・・”
優太を見ると、誰かが一緒に居たのである。
一緒に居るのは、スラリとしたスタイルに。
スカート部分が、白地に黒のチェック柄で。
上が黒地に白抜きの、プリント柄のワンピースを着て。
その上から、白いパーカーを羽織っており。
ツリ目がちな目が、特徴的な顔の。
肩までの長さのツーサイドアップの髪型をした、美少女であった。
「おねえ〜ちゃ〜ん!」
恵の存在に、気付いた優太が。
声を出しながら、恵に向かって駆け出した。
置いてけぼりにされた、その女の子が。
優太の後を慌てて追った。
「お姉ちゃんも、今帰る所?」
「うん、今から買い物に行く所だけどね」
「・・・はあ、もお、優太くん・・・ひどいよ・・・」
恵の所に来た優太が。
さっそく、恵にそう言って来たのに対し。
恵がそう答えた所で、女の子が息を切らしながらやって来た。
「あれ、優くん、この娘は?」
「あ、この娘は、美里ちゃんて言うんだよ〜」
「始めまして、美山 美里と言います。
よろしくお願いします、お姉さん(・・・・)・・・」
そう言って丁寧に挨拶をする、美里であったが。
恵を見る目は、挑戦的な目をしていた。
また、一見、丁寧に聞こえる”お姉さん”と言う言葉にも。
遠回しで、“優太くんは私の物ですよ”と言う意味と。
“そうなると、アナタは私の義理の姉になるんですね”と言う意味が。
含まれる様な感じがした。
その美里の態度を見て。
“ああ、この娘は、優ちゃんに気があるんだなぁ”と、恵が気付いた。
「ふふっ、美里ちゃんね。
私は恵って言うの、よろしくね美里ちゃん」
美里の挑戦的な態度にも、恵は目くじらを立てなかった。
美里は、ある意味、恵のライバルと言える存在であったが。
恵の中の歩が、元々、優しく穏やか性格な上。
恵の体の影響か、女性的な包容力が加わったのだ。
それに年齢差による余裕も加わり。
美里の態度が、必死で背伸びをしている様に見えて。
微笑ましく思えたのである。
*********
「(もお〜、折角、一緒に帰っていた所だったのに〜)」
恵に挨拶した美里は。
内心、恵に文句を言いたい気分であった。
何とか、優太と一緒に帰る事が出来たのに、トンだ邪魔が入ったのだ。
そんな美里は、目の前で微笑んでいる恵に、イラッとしていた。
シスコンの優太が、事あるごとに姉の事を持ち出すので。
優太に気がある美里が、いつもモヤモヤしていたのである。
そして、当の本人が、突然目の前に現れた上。
しかも、折角の所を邪魔されたので、イラついていたのだ。
「(む〜、私だっていつかは・・・)」
それと同時に美里は、恵の大きな胸を見て対抗心を燃やしていた。
・・・
「なあ、優太の姉ちゃんのオッパイ、デカいよなあ〜」
「ああ、ホント、デカいよなあ〜」
時折クラスでは、男子達が恵の大きな胸について話題にしていた。
そんな男子を女子達が、いつも冷やかな目で見ていたが。
打って代わった別の場面では、”絶対ああなってやるぞ”と、対抗とも目標とも言える事を言い合っていた。
なので美里も、”自分もああなってやる”と密かに思っていたのである。
・・・
「美里ちゃん、ウチの優太をよろしくね♪」
「こちらこそ、よろしくお願いします・・・」
一見すると、両者、平凡な社交的な挨拶を行っていたが。
両者の間には、明らかな違いがあった。
ニコやか、かつ年長者としての余裕のある態度で挨拶する恵と。
嫉妬の炎を、メラメラと背後で燃やしている美里。
両者の間には、見ためでも分かるくらいの落差がある。
隣で成り行きを見ていた、優太は。
両者の余りの落差に、思わず口を噤んでしまっていたのだった。