第24話 弟のファーストキス
ある日の夜。
二人は居間で、ソファーの座りながらTVを見ていた。
TVから流れていたのは、映画である。
”はあ〜っ、良いなあ・・・”
恵は、TVの画面を見ながらウットリとしていた。
数年前に流行っていた、アクション映画だが。
恋愛の要素も濃いので、男女問わず人気があった作品であった。
歩は、元々から割と恋愛物が好きなのだが。
恵に乗り移ってからは、その傾向に拍車が掛かり。
元々の女性と変わらなくなっていた。
ちなみに本来の恵は、猫を被る時以外は。
恋愛物を、好んでは見ていなかったのである。
元がアクション物であるので。
優太も見て、退屈はしないだろうと思い。
二人で一緒に見ていたのだ。
*********
そうやって、ノンビリとTVを見ていたら。
不意に優太が。
「ねえ、お姉ちゃん、キスって唇にもするんでしょ?」
「えっ!」
丁度、画面に写っていた場面は。
主人公と、ヒロインとのキスシーンであった。
それを見て、優太が好奇心で言ってきたのである。
「ど、どうして、急にそんな事を言うの?」
「だって、お姉ちゃん、いつも頬っぺとかにするけど。
唇には、全然しないみたいだから」
突然の事に、恵は動揺したが。
優太は不思議そうに、そう言った。
「・・・でもね優ちゃん、唇にキスするのは。
優ちゃんにとって、大事な人とだよ」
「でも、お姉ちゃんは。
僕にとって、大事な人なんだけどなあ・・・」
「優ちゃん・・・」
恵は優太の言葉を聞いて、”ジ〜ン”としてしまった。
恵は、優太の事が可愛くて仕方がなかったが。
それと同時に、恵にとって優太は大切な存在であるのだ。
だから、ファーストキスくらいは、大事にして貰いたかった。
・・・
「優ちゃん、後で後悔するよ・・・」
「僕は、お姉ちゃんとするのなら、後悔はしないよ」
恵が、色々言って、何とか説得を試みたが。
結局、優太は分かってくれなかった。
恵は、自分の思いを理解してくれない優太に、呆れると共に。
自分を、そこまで考えてくれる、優太の事を嬉しく思ってもいた。
「はあ〜、しょうがないなあ・・・」
「それじゃあ・・・」
「優ちゃんの言う通りにするよ♡」
「うん♪」
根負けした恵がそう言うと、優太が嬉しそうに答えた。
ちなみに、恵の中の歩は、男だった頃にはキスをした事が無かった。
また本来の恵自身は、中学の時。
札付きのヤンキーと、既に済ませていた。
なので最初、流れ込んできた恵の記憶を見た時。
まだ男の意識で見ていたので、男同士でしているような感覚の襲われたのと。
そのヤンキーの野郎臭さと下品さに、吐き気を覚えた物である。
「じゃあ、優ちゃん目を閉じてね」
「分かったよ〜♪」
恵の言葉に、優太は素直に従った。
しかし最近の歩は、恵の体に影響を受けたのであろうか。
心までも、かなりの部分が女性化していたので。
今では時々、自分が男だった事を忘れる事もあったし。
また、ムサい野郎とするのとは違い。
可愛い優太とでは、男の意識があったとしても。
心理的な抵抗は、それほど無かっただろう。
いや、それどころか、母性本能が芽生え初めていた恵にとっては。
優太とキスをする事は、歓喜すら覚える様になってしまっていた。
優太に、目を閉じる様に言った後。
恵も顔を、優太の顔に近付けると。
可愛い優太の顔が、眼前に迫る。
恵も目を閉じ、更に近付けて行く。
「(チュッ♡)」
優太の柔らかい唇が触れた。
そうやって、数秒の間。
恵は、優太の柔らかい唇に触れ続け。
それから、ユックリと優太の唇から離れて行った。
「お姉ちゃん。
お姉ちゃんの唇は、柔らかくて気持ち良ったよ〜」
「優ちゃんもね♡」
「へへへぇ〜」
「くすくすくす」
お互いの顔を見合わせて、恵と優太は笑った。
ひとしきり笑うと、優太が恵の胸に飛び込んで来た。
そして恵も、飛び込んで来た優太を受け止めながら、頭を撫でている。
・・・
そうやって、しばらくの間。
二人はソファーの上で抱き合っていた。
こうして、優太は大好きな姉とファーストキスをしたのであった。