第23話 親友と弟
ある日の夕方。
「(ピンポ〜ン、ピンポ〜ン)」
「どちらさまですか〜?」
「こんにちは優太くん〜。
恵は帰って来ている?」
「あ、真奈美お姉ちゃん。
ちょっと待ってて〜」
「(ガチャ)」
チャイムが鳴っているので、優太がドアカメラで確認すると。
そこに居たのは、制服姿の真奈美だったので、優太がドアを開ける。
「お姉ちゃんはまだ、帰ってないよ」
「そうなの? しょうが無いなあ。
試験範囲で聞きたい事があったけど。
スマホにも繋がらないし」
「じゃあ、上がって待ってて良いよ」
「良いの? じゃあ、お邪魔させてもらうよ」
優太の誘いに、真奈美が従う事にした。
*********
真奈美は、優太と共に居間にいた。
居間で、二人はソファーに座っていた。
「相変わらず、恵は家の事をしているみたいね」
綺麗な部屋を見て、真奈美は感心した様に呟く。
真奈美は、歩が乗り移る以前の、荒れた恵の姿を知っていた。
その当時は家の中も、優太が必要最低限の事はしていたとは言え。
小学二年生には、出来ることは限られるので。
どうしても、手が届かない部分も出ていた。
それを見かねて、真奈美が代わって家の事をしてくれた時もあったのだ。
その頃の事を思い出して、事故後、人が変わった様に。
家事や優太の世話をする恵の思い出しながら、感慨深く部屋を眺めていた。
「ねえ、まだ恵は、優太くんにベタベタしているの?」
「うん、僕もお姉ちゃんにギュッてするけどね〜」
「えっ?」
「それに毎日、一緒にお風呂に入ったり、寝たりしているんだよ」
「そ、そうなの・・・」
「うん」
「・・・でもね優太くん、いつまでも一緒に、そう言う事は出来ないんだよ。
それ所か、いつまでも一緒に居られると言う訳でも無いからね」
「嫌だもん。
僕、お姉ちゃんとずっと一緒に居るんだもん」
「はあ〜」
真奈美は、恵のブラコンに付いて聞いてみたけど。
優太のシスコンにも呆れてしまっている。
だが、優太の場合は、甘えさせてくれる相手に甘えているから。
他の人間に可愛がられたら、少しは緩和されるのではないかと思い付く。
「ねえ、優太くん、いつも恵からどうされているの?」
「こうされているんだよ〜」
それにはまず、いつも、どうされているかを聞かないとイケナイ。
真奈美が聞いてみると。
優太は、そう言いながら、ソファーに座っている真奈美の膝の上に登る。
「こうやってね、僕をギュッてしてくれるんだよ〜」
「こ、こうかな・・・」
真奈美は、優太が言う通り、後ろから抱き締めた。
「(あれ? 結構、抱き心地が良いわね)」
予想以上の優太の感触の良さに驚く。
「でね、そうしてから、頭を撫でたり、頬ずりをしたりするんだよ〜」
「(すりすりすり)」
優太の次の言葉に、真奈美は優太の頭を頬ずりする。
頭を撫でるのは、今まで、時折やっているので。
やったことが無い、頬ずりをしてみたのだ。
「(へえ、これもナカナカ気持ち良いね)」
頬ずりしてみると、優太の滑らかな髪も気持ち良い。
「(ギュッ)」
「(すりすりすり)」
「そうそう、いつもお姉ちゃんは、こうしてくれているよ〜」
その気持ち良さに、思わず真奈美が抱き締める力を強め、なおも頬ずりを続けていたら。
優太が嬉しそうに声を弾ませながら、そう言った。
「(はあ・・・、とうして恵が優太くんに執着するか分かるわ・・・)」
恵がブラコンになった理由が、少しだけ分かった様な気がする。
「(すりすりすり)」
気持ちの良い、優太を抱き締めながら、頭を頬ずりし続ける。
元々から、真奈美は優太の事は可愛いとは思っていたが。
それは、道端で子犬を見つけて可愛いと思う様な感情で。
そこから、執着し出す様な物では無かった。
「(何か良いよねぇ・・・、この子・・・)」
しかし、気持ちの良い感触の、優太を抱き締め頬ずりしている内に。
母性本能を刺激され、今まで無かった感情を抱き始めていた。
「(すりすりすり)」
こうやって、真奈美は優太を抱き締めながら頬ずりをして。
気持ちの良い、優太の感触を堪能していたのである。
*********
「ただいま〜」
そうやって、優太の感触を堪能していた所。
恵が帰ってきたらしく、玄関から声がした。
「(トン、ダダダダダ〜)」
「お姉ちゃん、おかえりなさい〜」
「あれ、真奈美も来ているの?」
恵の声を聞いて、優太が真奈美の膝から降り。
その足で、玄関へと向かった。
優太が、玄関に到着したと同時に。
恵は、真奈美が家に来ているのにも気付いた様だ。
「(あ〜あ、帰ってきちゃったみたいだね)」
恵が帰った事で、優太の感触が無くなったのを残念に思う、真奈美。
「まあ良いかあ、今度、機会がある時にすれば良いから♪」
しかし、次の機会を狙っている真奈美であった。