第22話 休みの日の姉弟(後)
そうやって、ベタベタな二人に真奈美が呆れていると。
「あれ? 真奈美と恵じゃないの?」
向こうから。
そんな声と共に、3人のクラスメイトがやって来た
「ねえ、どうしたの?」
「いやね、恵が弟とデートだって言うから、呆れていたのよ」
3人組の一人が、尋ねると。
疲れたような様子で、真奈美が答えた。
「うん? ひょっとして、この子が“例の”、優太くんなの?」
「へえ、かわいいわね〜」
「確かに、これなら恵がブラコンになるのは分かるなあ〜」
「ねえねえ、こっちにおいで〜」
3人組の一人が、優太に来る様に手招きした。
「だ〜め、優ちゃんは私の物だよ!」
それを見た恵が。
後ろから抱き締めていた優太を、体を捻り隠した。
「ねえ、触らせてよ〜」
「良いでしょ、良いでしょ〜」
「だ〜め〜」
3人組が、触らせるよう要求するが。
頑として恵は、触らせないよう断る。
それを見ていた真奈美は、もっと呆れ。
当の、優太は状況が飲み込めないのか。
キョトンとした表情をしていた。
*********
しばらく、そうやって優太を巡って争っていたが。
触ることが出来ないと悟った、3人組が、その場から立ち去った。
呆れていた真奈美も、本来の用事である。
本屋への買い物に、向かったのである。
恵と優太も、再び手を繋いで歩き出した。
・・・
それから恵は、優太を連れて洋服屋を廻っていった。
店に入ると。
恵が、”ねえ、優ちゃん、この服はどうかな?”と言いながら。
優太に、次々と服を見せて行った。
最初、優太は退屈になるかと思われたが。
優太の方も、そんな恵の言葉に。
”とても似合っている”などと言って、褒めていた。
どうやら、恵の事を気遣ってくれている様である。
しかし、クールなファッションに関しては。
昔の辛く当たっていた頃の事を思い出すのか、余り良い反応が無い。
だが、可愛い物好きの恵(歩)は。
どちらかと言えば、女の子らしい、甘い系統の物が好きなので。
そう言う系統の物は、そんなに手に取らなかった。
そうやって、店を廻っていたら。
「あ、そうだ、優ちゃんの服も見ようかあ」
突然の恵の思いつきで、優太の服も見ることになった。
*********
「さあ、行きましょ♪」
「ちょっ、ちょっと待ってよ、お姉ちゃん!」
ある店の、とあるコーナーに入ろうとすると。
急に、優太が待ったを掛ける。
そのコーナーの商品を見て、優太が焦ったのだ。
そのコーナーとは、女児のコーナーである。
そう、女の子用の服の売り場である。
「どうしたの?」
「ここは、女の子の服の所だよ〜」
「そうだよ?」
「ぼくは、男だよ〜!」
恵の中の歩は、体が恵の体であるので、女装をしている訳では無く。
また意識も、大分女性化していたが。
それでも、まだ男としての意識もあった。
つまり、自分が特殊な状況である事を忘れて。
それを、優太に当てはめてしまっていた。
それに、可愛い物好きの恵が。
女顔の優太を、可愛くしたいと思い。
“それなら、可愛い服を着せて、女装をさせれば良いや”と言う。
不埒な考えも、同時に思い付いていたのである。
恵の頭の中では、女顔の可愛い優太が。
ヒラヒラ、フワフワのファンシーな、ワンピースを着て。
ウフフ、キャッキャしている姿を想像していた。
「ねえ、優ちゃん、ちょっとだけで良いから。
ちょっとだけで」
「いやだよ、僕は男だよ〜」
「ねえ、お願いだから〜♡」
女児コーナーの前で、そんな事を言って騒いでる二人。
「あの・・・、お客様・・・」
そんな事を言って、騒いでいた二人を見かねて。
困惑した様な表情の店員が、言いにくそうにしながら近づくのであった。