第2話 入れ替わった体
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「う、うう〜ん・・・」
「先生、先生、意識が戻りました!」
「おおっ、良かった、良かった」
「恵、恵ーーー!」
全身の痛みに、意識が浮上して目を開ける。
開いた歩の目の前には、看護師と。
それから、見た事が無い、知らないオジサン、オバサンが居た。
歩が目を覚ました事に、看護師は慌てて医者を呼び。
ベッドの脇に居た、オジサンは喜びに身を震わせ。
オバサンは、涙を流して喜んでいる。
「あれ、ここはドコ?」
「ここは病院だよ、恵」
「ああ、お前は駅のホームに落ち、電車に撥ねられる所だったんだよ」
思わず歩がそう言うと。
知らないオバサンとオジサンがそう言った。
「あれ、あの女の子はどうしたの?」
「何、恵?」
「あのホームに落ちそうになって、僕が突き飛ばした女の子の事ですよ?」
「恵、お前は何を言っているのだ?」
「ああ、まだ混乱しているのね。
ゆっくり眠って、落ち着きなさい」
歩があの女の子事を聞こうとしたら。
オジサンが、不思議そうな顔をして。
オバサンが慌てつつ、歩の頭を撫でながらそう言った。
その後、オバサンから話を聞いた医者から。
鎮静剤を注射された歩は、再び意識を沈ませたのであった。
*********
歩が意識を取り戻してから二日後。
歩は、ベッドの上で自分の両手を眺めていた。
歩の手は、小さく白い綺麗な手であった。
まるで自分の手では無い様だ。
イヤ、正真正銘、自分の手ではない。
更に言えば、この体も自分の物ではない。
歩の体は、なぜか、あの女の子の体になっていたのだ。
歩が意識を取り戻した翌日。
「えっ、どうして・・・?」
ベッドの脇に取り付けられていた鏡で、歩が自分の顔を見ようとしたら。
鏡には、あの女の子の顔が写っていた。
歩が、余りの事に混乱していたら。
突然、膨大な記憶が、歩の意識の中に流れ込んできた。
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「えっ、えっ、何、これ・・・?」
流れ込んだ記憶は、この女の子の記憶である。
この女の子の名前は、流川 恵。
僕の同じ一年であり、つまりは同学年の娘であるが、学校が違っていた。
しかもこの娘は、清楚そうな外見と違い。
最初、歩と出会った時の態度でも分かる通り、タチの悪い不良であった。
高校生であるのにも関わらず、毎晩夜遊びに出たり。
無断外泊で、二三日は平気で帰宅しない事も、頻繁にあった。
当然、男遊びも盛んで、これまでも何人もの男と付き合ってきたし。
それも中には、明らかにヤバそうな関係の人間も居たりもした。
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そして、肝心の本来の歩の体と言えば。
自分が、再び目が覚めた際。
恵を庇って死んだと、看護師から教えられた。
その際、恵は一応、助かったのだが。
ホームから、突き飛ばされた形になり。
反対側の線路に、頭から地面に激突した為、昏睡状態になっていた。
だから、恵は助かったのだが。
一週間も意識が戻らなかったのである。
「じゃあ、あの娘はどうなったの・・・」
だが、どうして歩が恵の体に意識が移ったのか。
そして、本来の持ち主である、恵の意識がどうなったのか、全く分からない。
こうして、信じられない余りの出来事に。
歩はしばらく間、呆然としていたのであった。
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それから翌日になり。
あのオジサンオバサンと再会した。
歩が目を覚まし、最初に見たオジサンオバサンは。
恵の両親である。
歩が、自分が死んだ事になっているのに知って。
恐らく、自分の本来の両親が、悲しんでいるであろうと思っていたし。
当然、恵の両親も心配していたであろうと思ったら。
「お父さん、お母さん、心配掛けてゴメンなさい・・・」
自然に、恵の両親に謝った。
そして恵の両親と共に、心の中で本来の自分の両親にも謝った。
「恵、お前がそんな事を言うとは・・・」
「どうしたの、一体・・・」
すると、恵の両親が目を丸くして驚く。
恵は、自分の両親にさえ、普段から暴言を吐いていたので。
そんな恵が、自分達に心配を掛けた事を謝ったのに、驚いたのである。
逆に、歩がそんな恵の両親の反応に驚いたら。
それと同時に、また恵の記憶が歩の中に流れ込む。
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幼い頃は、恵も他の娘と同じ様に、普通の娘であったが。
小学校に上がる頃に、クラスの、タチが悪い女子の影響を受け。
次第に、言動が荒くなり、柄が悪くなって行った。
そして、中学になる頃には、下手な男よりも柄が悪くなるが。
しかし、外見がカナリの美少女である為。
かえって不良達が、気安く寄り付き易かったのであった。
そして、不良達と交わって行く内に。
毎夜、夜遊び三昧と、遊びがエスカレートしていったのである。
こうして、歩がなぜ恵が不良になったのかを理解したが。
同時になぜか、恵の行動なのに、自分がやったかの様な罪悪感を覚えた。
「本当に、本当に、ごめんなさい・・・」
「恵・・・」
「いいのよ、いいのよ・・・」
歩は、本来の両親に対する申し訳なさと。
流れ込んだ記憶から、恵の行動に対して芽生えた罪悪感とが、ない交ぜになり。
再び、恵の両親に対して謝り出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
そうして歩は、目の前の恵の両親と。
心の中の自分の両親に対し、何度となく誤り続けたのであった。
次回、ようやく弟が出て来ます。