第15話 二人きりの夕食
こうして、二人で台所へと向かった。
「あ、制服のままだった。
優ちゃん、ちょっと待ってて」
「うん、分かったよ」
制服を着たままで、台所に来たのに気付いて恵が。
自分の部屋で着替える為、優太に待つように言う。
それからカバンを持って、急いで自分の部屋へと向かう。
・・・
「お待たせ、じゃあ、始めようか」
「うん!」
部屋で着替えた恵が。
シンプルな青のワンピースを着て、台所に戻って来た。
それから、エプロンをワンピースの上から着た恵が。
優太にそう言って、夕食を作り始め。
それに応じて、優太も元気良く返事をする。
この様にして、二人で仲良く、夕食を作ることになったのである。
*********
「(トントントン)」
恵が、包丁で材料を切っている。
優太は、恵の側でスタンバっていた。
ちなみに母親は、恵が本来の人格のままだった時は。
優太の事が心配で、早く返って食事の支度をする事もあったけど。
それでも、仕事で遅くなる事もあり。
また、仕事で間に合わない時は。
優太が自分で、インスタントの物で済ませると言った。
余り、健康に良いとは言えない状況であったが。
歩が恵に入れ替わった後。
恵(歩)が、家事一切をやるようになったので。
安心した母親が、優太の世話を含めた全部を恵(歩)に任せ。
より一層、仕事に集中するようになったのである。
そして、今日も服の買い付けに出張しており。
家に帰って来ないのであった。
「優ちゃん、これ冷蔵庫に入れてちょうだい」
「うん、分かったよ」
切った材料の残りを、冷蔵庫に入れる様、優太に頼むと。
優太が言われた通り、冷蔵庫に残りを入れてくれた。
「ありがとう、優ちゃん♡」
「(チュッ)」
「へへへっ〜」
恵が、お手伝いしてくれた優太の頬に、キスをしたら。
優太が嬉しそうに、笑う。
この様に優太が、手伝ってくれる度に。
恵が褒めたり、時には頭を撫でたり、あるいはキスしたりするので。
優太も、積極的に恵の手伝いをしてくれた。
こうして、夕食を作っている恵の側で。
優太が、嬉々(きき)として恵の手伝いをしたのであった。
*********
「はい、ご飯が出来たよ」
「今日はハンバーグだね」
「優ちゃん、好きでしょ」
「うん〜♪」
それから、夕食が出来上がった頃。
恵が、出来上がったオカズを優太に見せたら。
優太が、自分の好物を作ってくれた事に、嬉しそうな笑みを見せた。
出来たオカズをテーブルに二人で運び。
食べる準備をしたら、そのままテーブルに向かえ合わせで座り。
「いただきます」
「いただきます」
そして、食事を始めたのである。
・・・
「あれ、優ちゃん、野菜が残ってるね?」
「(ギクッ!)」
食事が進んでいき、オカズが少なくなっていくが。
優太の皿には、まだ多くの野菜が残っていた。
「ダメだよ〜、野菜も食べないと大きくなれないか」
「う、でも、野菜は苦手なんだよ・・・」
恵がそう諭すが、優太が言いにくそうに答えた。
「はあ〜、しょうがないなあ」
「(ガタン)」
「えっ?」
そんな優太に呆れた様に言うと。
恵は、箸を持ったまま、席を立ち上がり。
それからテーブルを回り込み、優太の隣に座る。
優太の隣に座った恵は、優太の皿から野菜を摘み。
優太の目の前に、突き出した。
「はい、優ちゃん、あ〜ん」
「・・・」
「あ〜ん!」
「あ〜ん」
それから、"あ〜ん"をして優太に口を開けさせると。
箸ごと野菜を口に入れる。
「うっ!」
「(シャクシャクシャク)」
「優ちゃん、良い子良い子」
「へへへっ〜」
我慢して野菜を食べた優太を、恵は褒めるために頭を撫でてやる。
優太も、褒められて上機嫌になった。
だが二人とも、これが間接キスになっている事には、気付いていない。
「はい、次も食べようね〜」
「ええっ〜」
褒められて優太が、上機嫌になった所に。
恵が、すかさず次の野菜を突き出した。
こうして優太は。
姉から褒められながら、嫌いな野菜を食べさせられたのであった(笑)