第14話 お姉ちゃんお帰り
それから時間が経ち、夕方になる。
「(きり〜つ、れい、ちゃくせ〜き)」
日直の号令で、帰りのホームルームが終了した。
・・・
「(ガヤガヤガヤ)」
授業が終わった、放課後の喧騒の中。
「ねえ、ねえ、ねえ。
恵、一緒にドコかに行かない?」
恵の席に、三人程の女子がやって来て。
一緒に遊びに行こうと、誘ってきた。
「ああ、ダメダメ。
この娘はこれから、夕飯の支度で買い物に行かないと、イケないから」
「そう、だから、ゴメンね」
隣の席の、真奈美が代わりに、そう言ってくれたので。
恵も、謝りながらも、それを肯定する。
「ああ、そうなんだ。
いや、男子から、恵を誘ってくれるよう頼まれたから」
「また、なの〜」
恵を誘った娘がそう言うと、呆れたような声を真奈美が出した。
そして、恵が誘った娘達が来た方を見ると。
明らかに、ガッカリしたような表情の、男子達の姿が見える。
この様に、恵が学校に戻ってから。
男子の誘いを受ける事が、増えたのだが。
歩が乗り移ってからの恵は、男性恐怖症の気があるので。
一緒に行く以前に、ナカナカ男と喋ることが出来ないし。
また、優太の世話などがあるので、学校が終わるとすぐに帰るのだ。
「まあ、イキナリ近付いて。
無理やり誘うのよりかは、マシだろうけど」
ガッカリしている男子の方を見ながら、真奈美がそう呟く。
以前は、真奈美が言った様に、嫌がるのにシツコク付き纏う輩もいたが。
真奈美が、周囲の女子と協力して、そんな輩を撃退した。
歩が乗り移ってからの恵は。
男子はもちろん、女子にも人気があった。
普通、この手の娘は”ブってる”と言われ。
女子から嫌われ、ハブられるのだが。
恵(歩)は、裏表の無い性格で。
誰にでも優しく親切なので、そんな事にはならなった。
むしろ、イタズラされた時の反応の良さに、
“みんなのオモチャ”扱いされて、誰からでもイジられていた。
恵は、真奈美の事を見詰めながら。
しつこい輩を撃退した時の事を思いだし、苦笑したのだった。
*********
恵は、学校を出て、家の近くの駅に着くまで真奈美と一緒だったが。
駅に着いてから、スーパーに行くため、そこで別れた。
そして、スーパーで買い物をした後、家へと帰る。
・・・
「ただいま〜」
「(パタパタパタ)」
「お姉ちゃん、おかえり〜」
恵が家に帰ると。
廊下を急ぐ音と共に、優太が玄関にやって来た。
そして、恵がカバンと買い物袋を床に置いたら。
優太が、恵に飛び込むように抱き付く。
「お姉ちゃん〜」
「くすくすくす」
「(なでなでなで)」
自分の胸に甘える優太を。
恵は、可笑しそうにしながら撫でていた。
”やっぱり、優ちゃんは可愛いなあ・・・”
心の中では、歩が優太を撫でながら。
そんな事を思っている。
しばらく、恵に甘えていた優太であったが。
「お姉ちゃん、これ持つよ」
「優ちゃん、ありがとう」
「(チュッ)」
恵から離れると、買い物袋を持ってくれると言うので。
恵が、優太にお礼を言うと、頬にキスをした。
優太は甘えん坊だけど、同時に優しいのでもある。
そんな優しい優太の頭を、恵が再び撫でながら。
二人は、台所へと向かったのであった。