第11話 学校での姉(前)
「おはよう」
「おはよう」
「「「「おはよ〜」」」」
恵と真奈美が挨拶をしながら、教室に入ると。
何人かの生徒が、挨拶を返した。
二人が、電車に乗る頃まで。
真奈美が、以前と別人になった恵を追求していたのだが。
結局、恵が変わって別に害がある訳ではなく、むしろ良くなっていたので。
真奈美が、それ以上追求するのを止めたのだ。
そして二人は、何事も無かったかの様に電車から降り。
その足で、学校まで歩いたのであった。
・・・
「ん?」
恵が、自分の机に向かっていた所。
自分に集中している視線に気付き、その方向を見る。
だが恵が向くと。
恵が向いた方向に居た、数人の男子が一斉に視線を逸らせた。
「(何か、変だなあ?)」
しかし、その状況を不審に思いながらも。
恵は、顔を元に戻した。
実は、事故から戻った後、恵の人気が急上昇したのだ。
事故前は、外見が清楚な美人だけど、不良で遊び人で内面が粗暴な恵は。
女子どころか、男子達からも敬遠されていた。
なので影では、”清楚ビッチ””美人の皮を被った野獣”だのと。
散々、言われていたのであった。
入学した当初は、その外見に騙された男達は。
最初の内、恵に寄って行ったが、その本性を理解した途端に去って行った
しかし事故後、美人の恵の体に、歩の意識が入り込んだ所為で。
外見が清楚な美人な上、優しくて穏やかな性格で、言葉や立ち居振る舞いが物腰柔らかい。
まるで、絵に描いた様な大和撫子が出来上がったのである。
戻った当初は、以前とのギャップに驚異の目で見られてたが。
その、男にとって理想的な女性像になった恵(歩)は。
たちまち、男子連中の人気を掻っ攫って行った。
”おかしいな・・・、最近、僕を見詰める視線を。
なぜか、いつも感じるのだけど”
男にしては感覚が女性に近い、あるいは恵の記憶が流れ込んだとは言え。
元々、男だった歩は、そう言う感覚に対する警戒心が、最初からの女性とは違い薄いので。
自分が、男達の注目を集めている事に、まるで気付かない。
ちなみに、ある意味、時代錯誤または、現実離れした存在になった恵(歩)に対して。
”絶滅危惧種””生きた化石””具現化したギャルゲーキャラ”と言ったあだ名が。
いつも間にか、付いてしまっていた。
*********
「おはよう」
「おはよ、恵」
真奈美と一緒に自分の机に着いた恵は。
前の女子に挨拶すると、カバンを自分の机に掛け、椅子に座る。
一緒に来た真奈美は、隣の席である。
だがやはり、その様子をジッと眺めている人間が居た。
クラスの数人の男子である。
その男子達は、恵の事を熱心に見ている。
しかし男達が、恵に近付くことは無い。
なぜなら、恵には男性恐怖症の気があって。
男が近付くと、他の女子の後ろに隠れたり、俯いて黙ってしまうのだ。
その理由は、恵(歩)が男だった時に。
ヤンキー風の、男らしさを全面に出した男達から、男らしく無い事を理由に。
ずっとイジメられたり、嫌がらせを受けてきたの為。
その手の乱暴だったり、柄が悪い男を苦手にしていた。
それに加え、恵の体に乗り移ってからは、女性特有の防衛本能が加わって。
男自体、特に体育会系やヤンキー風の男を苦手にしていたのである。
そう言う事もあって、クラスの男子が恵に近付かないのだ。
・・・
けれど、男らしさを感じされない子供。
とりわけ、可愛い男の子に関しては例外であった。
こんな理由があった上。
姉思いのいじらしい優太に、胸が思わず"キュン"としてしまい。
優太に関しては、逆に自分からくっ付いて行ったのである。
「ねえねえ、また恵は、熱烈なお見送りをしたの?」
「そう、今日も・ま・た・ね」
恵の前の席の娘が、興味深そうに真奈美に聞くと。
隣の真奈美が、半ば呆れたように答えた。
「もお、可愛い弟のお見送りの、ドコがイケないのお〜」
「普通の姉弟は、お見送りの時にキスなんかしないの!」
二人のやり取りに不満を持った恵が、横から文句を言うが。
やや切れ気味の真奈美が、そう言い返した。




