6:水の都
「ここにギという者が居ると聞いたのだが」
「ん、誰だテメェさんは」
エクスの中に無断で入ってきた客人に、店主はムッとした顔つきになる。そもそも、鍵がかかっているのにどうやって入ったのかと思い至り、警戒を強める。
「我はギに用があるのだ、悪いようにはしない。頼む、会わせてくれないか?」
エクスの店主も、怪しいと思いながらも声の質、そして身なりから尚も警戒しつつ質問をする。
「お前さん、人に物を尋ねる時はまずは自分から名乗りな? あの子達だって、それくらいはしたさ」
「ああ、失礼した。我は王都の王……」
この日、鉄の国は王都の王が来訪した事が瞬く間に広まり、大騒ぎになったという。
そんな、王自らが俺達を捜索しに出ているなんて露も知らず、今は姉ちゃん二人と次の目的地、水の都へと目指して歩みを進めている所である。
「姉ちゃん、休憩中くらい座ったら良いのに」
「レー君、私はこの危険な道中、怪しい人に襲われないように警戒しているのです」
「そうよレー、私も警戒中」
俺はそうですか、と仰向きに大の字に寝転がる。空はとても綺麗だ、しかし路銀も大分減ってきてしまった。宿代もそうだが、銘入りの武器を作るために高い素材をふんだんに使用していた為、材料費がかさんでいたのである。今は、ヴ姉が銘入りの剣を一振り持っているだけで、装備は三人とも私服となっている。
思い出す、姉達の仁義なき戦いのせいで防具は使い物にならなくなり、6口程もってきていた剣も、銘入りの剣1口という状態なのである。
ミ姉は真っ白のワンピースに、真っ赤なヒールを履いている。肌の色も心なしか以前より褐色染みている。ヴ姉に至っては、緑色のシャツと短パンというラフな格好である。何故かミ姉よりも肌色は白く、ブラをつけていないという暴挙である。
それはいいとして、二人ともやけに警戒を強め、お互いに背を譲り合いひたすらに警戒をつづけている。俺はそんな二人のお尻が痛いため、何人たりとも触れさせないようにしている、という事実には気が付かずのんびりと休憩を堪能する。
「そういえば、水の都ってもうすぐだよね? どんな場所なんだろう」
「レー君、それは行ってからのお楽しみですよ?」
「レー、水の都の水は美味しい」
「あはは、楽しみだなー」
そんな会話を挟みつつ、再び道中を進む。が、すぐに異変に気が付く。
「姉ちゃん、あの場所って水の都だよね?」
「ええ、でも変ね」
「強力な結界が敷かれてる」
みると、水の都だと思われる場所の真上だけ曇天である。そして、目視できるほどのドーム状の膜が張られているのがわかる。
「急がないと、何かあったんだよきっと!」
「レー君!」
「レー!」
姉の制止の声を振り切り、俺は水の都へと急ぐ。姉達はここは一度鉄の国へ戻ろうと提案したいところだったが、レイを放っておけないので急いで後を追う。
姉達がレイに追いつく事無く、レイは水の都の入り口へと辿り着く。そこはドーム状に展開された膜があり、厚さは10cm程はあるだろうか。手を突っ込むと、ぷにんとした感触がしたが、特に拒まれる事がなかったのでそのまま体ごと突き進む。案外、すんなりと中へと入れたが、どうやら膜の正体は水だったらしく衣服はずぶ濡れになってしまった。
「ここが水の都かぁ」
思わず声が出てしまう。水の膜に覆われた都の中は、足元にも3cm程の水が都中に流れている。歩くたびにピチャン、ピチャンと音がなり少し楽しくなる。しかし、この異様な空が気になり、誰かに尋ねようと思い至る。
「誰も居ない、どうしようミ姉、ヴ姉」
そう言い、振り返るが予想に反してまだ姉達は水の都へ入る前であった。ちょっと急ぎ過ぎたか、と思いどう行動していいのかわからず、姉達が来るのを待つことにする。
丁度1分くらいの差を得て、姉達も水の膜へと体を潜らせる。抜け出すと、白色のワンピースを着ていたミ姉は下着が透けており、レイの視線に気が付きすぐさま火系列の魔法で衣服を乾かして見せる。ヴ姉も、緑色のシャツが透ける事はなかったが、ブラをつけていなかったため完全にそのラインが目にみえる状態となっていた。が、ヴ姉はそんな事気にならないのかそのまま前に進む。
「レー、大丈夫だった?」
うん、と頷きどうしよう? と尋ねる。ミ姉も服を乾かして終わったのか、遅れて尋ねて来る。
「レー君、大丈夫だった?」
「うん、大丈夫だよ。でも、誰も居ないから情報が聞けないんだ、どうしよう?」
「水の都は中央に水の精が居る、それに尋ねたらいい」
「水の精?」
「そうそう、精霊も国を治める時代なのよねぇ。色んな種族が居るけど、王都は人ばかりだったものね」
「精霊かぁ、会ってみたいな。俺でも会えるかな?」
「簡単。水の精はコインが好き。投げ入れればすぐに姿を現す」
そこで俺は路銀が残り少ない事が気がかりになるが、使うしかないと決意する。
「すぐに行こう、ミ姉、ヴ姉」
水の都に水音を響かせながら、俺達は急いで中央部分にあるコインの場、と呼ばれる場所へと辿り着く。
「レー、ここにコインを投げ入れたら水の精は姿を現す」
「わかった、えいっ」
ヴ姉の指示に従い、コインを一枚投げ入れる。すると、水が沸き上がり、次第に人の形へと変化しみるみる内に普通の人間と代わり映えしない姿へと整形される。
「わっ、凄い!」
そんな驚く俺の顔をみて、険しそうな顔つきをしていた水の精は警戒を解く。
「人よ、何の様だ? 今は警戒レベルをあげているのだ、家に隠れておきなさい」
「失礼します、水の都を治める水の精よ。この曇天、何かあったのでは察しお尋ね申し上げます」
「ふむ、そなた達は外来人か。運が悪かったな、丁度今、魔王軍の一派、モヒグニードがこの水の都を襲撃に来ているのだ。我等水の精が守備に徹しているが、いつまでもつか……」
顔色を険しくしてみせる、戦況はどうやら良くないらしい。
「姉ちゃん!? 俺達で何化出来ないかな?」
「ん、人よ。私は隠れておけと伝えたはずだが? それとも何か、魔王軍を蹴散らせるほどの力があると申すか?」
ただの忠告だったのだろうが、純粋な心をもつレイは一言返事で返す。
「はい! 俺達がやっつけますよ、そんな奴等!」
「レー君!?」
「レー!?」
「ははは、人よ。良いだろう、丁度主力部隊が遠征に出ていて守り続けるしかなかったのだ、手を借りよう。名乗るが良い」
「はい、ギ家のレイと申します」
「ギ家のレイか、そなたたちはどうするのだ?」
「ギ家の長女、ミと申します」
「ギ家の次女、ヴと申します」
「ふむ……ん、ギ家のミ、とヴだと? 王都の……ははは、何という手の早さだ。誠に感謝、その力、思う存分借りるぞ」
そういうと共に、水の精は姿を消してしまう。
「ミ姉、ヴ姉、悪い奴なんかやっつけちゃおう!」
「レー君、良い? よーく聞いて、水の精が襲われたらこの都の結界は破壊され、全滅もあり得るわ。だから、レー君にはここで水の精を守護してほしいの」
「私もそれに賛成。レーが居れば、水の精も安心」
それを聞いた俺は、初めて姉達二人に仕事を任され、気が高ぶる。
「うん! 俺、必ずここを死守するよ!」
「ありがとうレー君。私達はあのモヒグニードを倒してくるから」
「モヒグニード、ひとひねりしてくる。レーも無理しないで」
「わかった」
元気良い返事に、二人の姉は笑みを浮かべ水の都を突っ切って外へと向かう。水の精の鉄壁の守りに、モヒグニードが手を焼いている現状なので、決してレイの元で戦闘が発生する事は無いのだが、この時俺はそんな事も気が付かず警戒を強めたのだった。
「さて、ヴ。モヒグニードという名は聞いたことあるかしら?」
「ミ姉、知ってて当然。魔王軍の将の一人、元は人が堕ちた存在。王都でも襲われたらひとたまりもない存在」
「そうね、それを相手にしなきゃいけないのよ。わかるわね」
「当然、レーを危険な目に合わせる訳に行かない」
「ふふ、良く言ったわヴ。必ず討ち取るわよ」
再び水の都の結界として張られた水の膜を抜け、今度はワンピースを乾かし事も無く、攻撃魔法の詠唱に入る。ヴは一振りしかない銘入りの剣を構え、話しかける。剣話である、しかし今回は前回のように破壊するわけにはいかないので、剣の強度を高めるまでで留めておく。
「我が剣よ、忌まわしき敵を共に屠ろうぞ」
銘入りの剣はそれに応えるように、光を帯びたように輝きを放つ。後は、この一振りでどこまで耐えれるか。目の前に広がる千を超えるであろう、翼の生えた紫色の魔獣の群れが、二人の女が結界外に居る事に気が付き、一斉に襲い掛かる。




