2:王都脱出
ギ家は、王都でも有名な名家である。長女のミは今年で20歳、家に帰るなり一言。
「仕事辞めて来た」
と、その言葉を聞いた長男レイはポカンと口をあけたまま固まってしまった。続いて次女のヴが家の扉を開け一言。
「奇遇ね、私も辞めて来たわ」
首だけ動かし、姉たち交互を確認する。そして二人の姉たちは頷きあう。
「そういう訳よレー君、身支度を始めなさい」
「レー、取り敢えず先にご飯頂戴」
わかった、とだけ答え少年はテーブルに夕食を並べていく。野菜のスープを更に注ぎ、パンの入ったバスケットをそれぞれ添えていく。
「ちょっとミ姉、ヴ姉、落ち着こうか?」
「どうしたのレー君?」
「今日のスープも美味しそうね、どうしたのそんな強張った顔しちゃって?」
ミ姉は第魔法使いとしてつい先ほどまで、王都の防衛隊の第三部隊の隊長として働いていたはずだ。服装も、王都の制服のままである。そしてヴ姉も今年で17歳になり、王都の防衛隊に就いたばかりなのだ。服装はミ姉と同じく制服を着たままである。
「ミ姉ちゃん、確か隊長になったんだよね?」
「そうね? そうだったわね」
「ヴ姉ちゃん、今年防衛隊に就いたんだよね?」
「そうよ? そうだったわよ」
二人はいただきます、と手をあわせパンをスープにつけ食べ始めようとする。途端、レイは机を叩いて立ち上がる。
「で、どうして辞めちゃったんだよ!?」
レイはテーブル越しに二人に詰め寄る。レイの夢は姉と同じ防衛隊に就き、一緒にこの王都を守っていく事だったのだ。
「もうね、レー君聞いてよ!? あのバカ王子、私の大切なレー君を防衛隊に就かそうって提案するのよ? バカなの? 死ぬの?」
「奇遇ね、私のところにもその話しが来たわ。あの王子が言いそうな事だわ、私とミ姉がいれば十分安泰だってのに」
まて、とレイは再び固まる。それは俺もこの歳で防衛隊にスカウトされたという快挙なのだったのではないか? と。
「なぁ、どうしてそれで仕事辞めちゃったんだよ……」
今年で12歳になる少年レイは、身長もまだ伸びきっておらず155cmで、筋肉もまだこれからついていく感じのぷにぷに肌なのだ。そんなレイが、スカウトされたのだ。本来ならば喜ぶ場面なのではないか、と。
「レー君、あなたに危険な仕事をさせる訳ないでしょう?」
「そうよレー、私に任せて」
はて、どういう事だ。何を言っているのだこの姉たちは。
「それってつまり、俺が防衛隊に入るのを阻止する為に……」
そこまで言うと、ふいに扉を叩く音が鳴る。
「ミ・ヴ、お前達がここに居るのはわかっている! 大人しく扉を開けろ!」
ガンガンガン、と乱暴に叩かれる扉。すぐに破られないのは、ミ姉が魔法で保護しているからか。
「なっ、何だよ今度は!?」
「ちっ、あのバカ王子、もう起きたのか……もっときつめに殴っとけば良かったか」
「ミ姉も大胆な事するわね……私も防衛隊一つ憂さ晴らしに潰してきたけどね」
「何て事してんだよ!?」
王子を殴った、防衛隊を潰したという事はきっと反逆罪か。しかし、これは本格的に急いで身支度をした方が良いのではないかと思考を整える。
「いただきます!」
レイはこんな状況下でも、食事をさっさとすます事にする。外から何やら詠唱が聞こえてくるが、パンを急いで貪り食う。
「ミ姉、剣二本持ってね? レーもお願いね」
一番最初に食事を済ませたヴ姉は、そういうなり剣を一腰はいて、大盾を左手で握りひょいっと持ち上げてみせる。ミ姉も剣を二腰はいて、紺色のローブを上から被る。
「レー君、ゆっくり食べてて良いからね」
そういうなり、ミ姉は扉に向かって詠唱を始めた。レイは食事をすませ、溜めていた金袋を手に取り、ミ姉と同じく剣を二本手に取る。
「ヴ、上は任せたわ」
「了解よミ姉」
そういうなり、王都の一角に巨大なクレーターが出来上がったのは今でも記憶に残っている。




