残酷な夜明け(仮)
私は貧乏を知らない。
私は苦労を知らない。
私は努力を知らない。
私は世間を知らない。
私は世界を知らない。
そんなもの、城の中にいる私には必要の無いもの。私にはお父様とこの城があればいい。
お母様は外に出たために殺された。自分の愛する妻を失ったせいか娘である私に対して過保護になってしまった。
お父様は妻の事と、私を溺愛するばかりか外に出てはならないと言った。
つまり、この何不自由ない城の中こそ、私の全てであり、私の世界なのだ。
「あーあ、何か面白いことはないかしら?」
「それならば儂が可愛い娘のために面白いことを提供しよう」
「城の中にずっといるお前の事だ、考えていなかった訳ではない」
お父様はそう言って、私の願いを叶えるため準備を始めた。
いくら外に出る必要はないとはいえ、退屈なのはどうしようもない。
だからと言って、外の世界は見るに耐えない争いばかり、下劣で醜悪な人々の欲望が渦巻く世界。そんなところにわざわざ、自らが赴くなど愚の骨頂だ。
しかし、そんなある日、隣の国の王様が使いを寄こしてきた。
どうやら、同盟を結ぶための使いらしい。
話の内容的に政治に利用される道具として嫁に貰いたいのだろうと想像がついた。
「全く冗談じゃないわ、誰がそんなものをを引き受けますか
お父様、どうかその申し出お断り頂いて頂戴」
「お前がそう言うのなら、断るが……本当に良いのか?」
隣の国は今、他の国との戦争の真っただ中だという。そんなところに嫁いでも私が役に立つとは到底思えない。
そして、何よりその態度が気に食わない。同盟を申し込んでおいて、使いだけしか寄こして来ない。
戦争中とはいえ、本来ならば王様や王子が出向くのが礼儀であろう。
「私の国も馬鹿にされたものだわ」
そう呟いて、ある一つの考えが頭の中に浮かんだ。
私は退屈な毎日に飽き飽きしていたのだ。ならば、この同盟の申し出は暇を持て余している私に対してのお父様からの退屈しのぎではないだろうか?
とにかく、後日返事を手紙で出すことで、その日は使いの者には帰って頂いてさっそく準備に取り掛かった。
「お父様、先ほどの同盟のお話引き受けても良いですわ」
「そうか、分かった、わが娘ならそういうと思っていたよ」
「ただし、本当に結婚なんかはしない、結婚するふりをするわ」
「儂も最初からそのつもりだ、あんな国の王子なんかと誰が可愛い娘をくれてやるものか」
「あはははは、面白いことになりそうだわ、ねぇお父様?」
「お前が笑ってくれるのなら、儂は何だってしてやるぞ?」
後日、政略結婚の申し出を受けるという内容の一通の嘘の手紙を出した。