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始まりの日2

「な、なんなの!?」


 綾音の疑問はここにいる全員のものに違いない。

 砂埃が邪魔でその先が隠れてしまっている。

 奇襲の可能性は?

 敵か? 味方か?


「いつまでひっついてるのよ! さっさと降ろして!」

「ボクの後ろに隠れてて。絶対に手は出しちゃダメだよ」

「アンタに指図されたくないわ!」

「鉄心さんの言いつけを破るってことかい?」

「私は騎士よ。守られてばかりの女じゃない!」


 風に揺られて土煙が薄まっていく。白煙が去ると、髪を赤と黒に染めた目つきの鋭い若い男の姿があらわになる。

 その眼が語る。全身が総毛だつ。


 アイツは……ヤバい!


「荒々しい送りかたしやがって……ババァもいねぇ。一杯食わされたな。つぅかここどこだよ?」


 男――ボクより少し年上だろうか――は、乱暴に頭をかきながら渋い顔をする。


 テレポート系の能力者か?

 奇怪な現象はおそらく彼の能力によるもののはずだけど《神剣》もなくそんなことが可能なのだろうか?

 もしかしてボクと同じイレギュラーな存在か……?


 目つきの鋭い男は一指たりとも動いていない。こちらから仕掛けなければ危害を加えようともしないのだろう。

 確証はない。ただ確信めいたものだけがある。仮にあの男がやり合うつもりでいたのならばもう動いていなければおかしい。そして何より、彼は一切の武器を所有していない。


「あぁ、そこのボウズ。ここはどこでテメェは誰か簡潔に答えろ」


 無遠慮に指さすだけの動作が異様に威圧的だ。ただ、たったそれだけの動作の中にも洗練された体捌きを見て取れる。


 この男……やはり強い。


「その前にこちらの指示に従ってください。ここは《騎士》以外立ち入りを禁じられています。早々に立ち去ってもらえないでしょうか」

「あん? ちっとは話ができるヤツだと思ったが中二病かよ……めんどくせぇ」

「遊びじゃないんですよ。これだけの《騎士》に囲まれて、あなただって無事に帰れると思いますか?」

「時代錯誤もいい加減にしろっつってんだよ。騎士道なんて流行り廃れた文化がいまさら取沙汰されるわけねぇだろうが」


「私たちを侮辱するつもりなら許さないわよ!」


 綾音が《神剣・シュナイゼル》を抜剣した。

 あぁもう……短気は損気だっていつになったら覚えてくれるんだろう……


「……本物なわけか。チビのクセにでけぇのは胸だけじゃなかったんだな小娘」

「なっ! ど、どどどこ見てんのよ変態!」


 男の嘲笑に綾音が胸を隠すように腕を動かして一歩下がった。

 たしかに綾音はぎりぎり身長150cm、反してバストは84と大振りだ。その手の層にはとてもウケる体つきだろう。他に大きいものと言えば……態度かな。


「ぴーちくぱーちくやかましい女だな。口塞いでやろうか」


 男の身体が沈んだ。と思う間もなく、霞むような速度で移動していた。

 綾音に男が触れる寸前に割って入り、互いの右手で左腕を掴む。


 コイツ!? 《神剣》もなしにこの動き。しかもボクを押し返すほどの膂力。

 やっぱりボクと同じ……!?


 掴まれていた左腕から圧迫感が消えたと同時に影が右側面から颶風をまいて迫る。


「クッ!?」


 とっさに右手を放して防御に切り替える。槌で打たれたような衝撃に骨が軋む。

 流れるようにまた側頭部を襲う蹴りが飛んでくる。

 膝を抜いて地面に倒れるように回避。


 左の上段蹴りと同時に右軸足で飛び跳ねて右の後ろ回し蹴りをうってきた!

 どんな身体能力だ!?


「へぇ……やるじゃん」

「ッ!」


 追撃は、ない。

 男はヤル気ない眼で力を抜いて立っているだけだ。


「そう警戒すんなって。ちょっとした腕試しだよ」


 そう言うと懐からタバコを取り出し、紫煙を燻らせる。

 殺気らしきものは感じない。あれだけ鋭い連撃を繰り出してきたのがウソのようなリラックスっぷりに、ボクまで気を抜かれそうになる。


「しかしあれだな。ここの住人はどいつもこいつもそんな物騒なもん振り回してんのか? ったく、厄介な場所に放り込まれたもんだぜ」

「あの、あなたはいったい何者なんですか? 先のテレポートもそうですし、《神剣》を使ってもいないのにあの動き、ふつうじゃないですよね」

「そっちこそ何言ってんだ? 騎士だの神剣だの中学生が好きそうな設定ばっか言いやがって」

「とぼけるのもいい加減にしなさい! 知らないはずがないでしょう! それにここは禁煙よ!」


 まだまだ熱が治まらない綾音が神剣を突きつけたまま問い詰めるが、反対に男はつまらなさそうにまた頭をかいた。


「ヤニくらい好きに吸わせろっての。それと嬢ちゃん。人と話をするときは刃物を向けるなって教わらなかったか? よっぽど育ちが悪ぃんだな」

「んなっ!」

「つーかそんなウソついて俺にメリットねぇだろうが。ちったぁ頭使えチビジャリ」

「ち、ちびじゃ……」


 気の強い綾音が気圧されてる。なにより彼をウソつきだと断言しないってことは、彼は本当に《騎士》も《神剣》も知らないのか……


「綾音は黙ってて。話が進まないよ。とにかくあなたがどこの誰でどこからやってきたのか説明してくれないとかばうことも難しい状況なんですよ」


 あんな騒ぎがあったのだ。すぐに教師や衛兵も来てしまうだろう。不必要な争いはこれ以上増やさないに限る。


「……お前、宿の手配はできるか?」

「天宮コウです。あなたの態度によっては」

「OK。俺は深枷レン。魔術師だ」


 これがボクの始まりにして終わり。

 世界を終焉へと導く鍵師との出会いだった。



 



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