5話
奴隷市場はさすがに町のわかりやすい場所に設置、というわけにはいかないのだろう。
かなり町の端っこのあたりにあった。大きな黄土色のテントが目印だ。
中に入ると奴隷商人らしき人物がこちらにかけよってくる。
レベルは4/13で身長は自分と同じ程度、かなり太っていて、目は細く油ギッシュな顔をしている。
「これはこれはようこそおいでくださいました。わたくし、奴隷商のコヤックと申します」
「あ、どうも。ユズルといいます」
「ユズル様ですね。少々お待ちください・・・」
そういって奴隷商はなにやらメモ張のようなものを確認しだした。
コヤック・・・子役か。彼がまるまるもりもりとか言いながら踊っている姿を想像してしまう。
たしかにまるまるもりもりしてるな、全体的に。
・・・気持ち悪い、もう考えるのはやめよう。
「ユズルさまは当店のご利用は初めてですので、登録料として銀貨1枚いただきます。これは、最初から奴隷を買う気がない者が店に出入りするのを防ぐためのものです」
「わかりました。払いましょう」
そういってバックパックから銀貨1枚をとりだす。
・・・そういや貨幣いれる袋買い忘れてるじゃん。
後で買っておかなければ。
「たしかにお預かりしました。では、ユズル様はこれより50日の間我が奴隷商館に自由に出入りすることができます。少ししたらまた奴隷を追加すると思うので、今回ご希望に沿った奴隷が見つからなくてもいつかきっと理想の奴隷が見つかるでしょう」
そうして最後にコヤックは「ただし私の店は商品の回転が速いので、上質の奴隷はすぐ売れてしまいますが」と付け足した。
これはあれだ、商売戦略だ。
ちょっといいなーと思った奴隷がいたときにすぐ買っておかないと売れちゃって後悔することになるぞーということがいいたいのであろう。
その手には・・・のるものか。ぐぬぬ。
そして奴隷商館の奥へと案内された。
猛獣とかが入ってそうな檻の中に一人ずつ奴隷が入れられている。
警備兵らしき人も10人くらいはいた。
レベルは平均5くらいだが、脱走はかなり難しいだろう。
商品に逃げられたとあっては店の管理やしつけのなってなさに悪評がつくだろうし、これぐらいするのもしかたないのかなとも思った。
奴隷の服は統一してあるらしく、着ているのは皆薄くて白い布をつなぎあわせただけのような服1枚だった。膝くらいまでの長さのものである。
さて、どの奴隷を買うか相当迷う。いや、迷いたかった。
迷うことができなかったのはかなり悔しい。
なぜなら、奴隷はかなり高額だったからだ。
黒髪ロングの18歳くらいのかわいい顔の女の子、金貨1枚と銀貨10枚なり。
青い髪のショート、クールっぽい雰囲気を漂わせる20代前半のお姉さん、銀貨90枚なり。
高い!まったく足りないじゃないか!
物の相場からして銀貨30枚もあれば買えるとか思ってた自分は相当甘かったようだ。まあ人だもんな。人権買うようなもんだもんな。
しょうがな・・・くない!みとめぬ、みとめぬぞおおおぉぉ。
これは稼ぐしかないのか。魔獣でも狩りにいったり薬草とったりオロナイな薬売ったりするしかないのか!
でもそんなことしてる間に彼女らは売れてしまうのだろう。そ、そして他の男の手によって・・・うわあああぁぁぁぁ!!
そんな考えが顔にでていたのか、コヤックさんが話しかけてきた。
「そちらの奴隷は容姿、性格ともに当店最高の品質でございますが、いささかお値段がはりますね。
どうでしょう、こちらにお安くお求めいただける奴隷がおりますが」
そういってさらに奥のほうを指さすコヤック氏。彼女らを値切る気はないらしい。
そりゃそうだよね。そんなことしなくても売れるだろうしねあの子たち。
そうして弱っている精神につけこんで妥協させて売れ残りの奴隷をかわせるんだろうきっと。
わかってるさ・・・わかってるよ・・・だがそんな手に・・・は・・・・・。
そういいつつもコヤック氏の後ろについていく俺氏であった。
「こちらの奴隷2人は素行や容姿の関係もあり、非常にお求めしやすい価格となっております」
そういって前方にある檻2つを指差した。
檻の中にはそれぞれ1人のやせこけた少年、レベルは2/14。
もう1人は・・・これはやばいだろ。顔面がゲシュタルト崩壊してる。安いの納得すぎるわー、な30代くらいの女性(老け顔なだけかも)、レベルは3/17。そして横に紹介はされなかったがもう一つ檻があった。
その中にいる女の子っぽい子は・・・寝ている。ヤ〇チャがやられた後みたいな寝方してたから最初死んでいるのかと思った。
見たところ歳は14歳くらいだろうか。身長は145センチくらいかな。
肌はかなり白い。髪はショートの金髪で、ん、これは・・・INUMIMI!?
頭からどうみても犬耳としか思えない金色の物体がふたつ!
これはそうに違いないいや俺がそう思うんだからそうなんだろう俺の中ではないやまてまてまてよくみろよくみろおしりおしりおしりのあたりだあれは尻尾、SIPPOではないだろうか30センチくらいのふっさふさの尻尾だこちらも金色の毛並だふつくしい。
「こいつは、また寝てやがる・・・。おい、さっさと起きろ。お客様がいるんだ。」
コヤック氏の声色が変わった。ドスが効いていてわりと怖い。
どうやらこの奴隷にはコヤック氏は相当手を焼いているようだ。
さきほどまであそこまで笑顔だった人が明らかな苛立ちを見せている。
「ん?ん~・・・」
お、起きた。さっきはみれなかったお顔をチェック!
かわいい。めちゃくちゃかわいいではないか。
目はまんまるでくりくりしている。それがまた犬耳に似合っている。
「あ、おはよー。ごはんちょうだい!」
「ふざけるな!さっき食ったばっかだろうが!あと今は昼だ!」
「えー、でもボクおなかすいたよー」
「いいかげんその「ボク」をやめろ!少しは女らしくなれ!・・・ったく・・・。」
コヤック氏、げきおこぷんぷん。いやそんなことはどうでもいい。
いまの会話・・・・・お分かりいただけただろうか。それでは一度。
【「あ、おはよー、ごはんちょうだい!」
「ふざけるな!さっき食ったばっかだろうが!あと今は昼だ!」
「えー、でもボク(うちゅう の ほうそく が みだれる!)おなかすいたよー」
「いいかげんその「ボク」をやめろ!少しは女らしくなれ!・・・ったく・・・。」】
ぼく・・・ボク・・・僕である!ボクっ娘である!
3行目の部分でその鈴のような声から発せられた「ボク」。この時頭の中がフル回転し、いま起こった事象の認識を開始、脳内で再度再生・・・89%の精度で再現可能、再度再生・・・再度、とそこで思いつく。
もしかしたらほんとに男かもしれない、と。
だがその懸念はコヤック氏の「女らしくしろ」の一言でクリア。課題、オールクリアである。
そして現実に舞い戻ってくる。スタッ・・・私は・・・帰ってきたあ!!
まだ少し混乱している。
ついでにレベルを確認。11/65、だと・・・?
PTの強化にもつながるというのか。なんと素晴らしいのだこの娘は。
とりあえずわたしにできることはこの少女を買い取る、それだけだ。
買い取るしかないのである(使命感
「コヤックさん、この娘いくらですかね!?」
「はい、ってえ・・・こいつを・・・?本気でございますかユズル様?」
コヤック氏はかなり困惑している。売ってくれないのだろうか(涙)
「ですが、コレはまだ商品として一定の教育も終わっておらず、先ほどのように一人称も「ボク」です。容姿は確かにいいんでしょうが、魔物でもありますし、奴隷に落とされた時もかなりの問題を起こしたようです。ほら、今町に入るのに多少の銅貨が必要でしょう?あの問題を起こしたのがコイツなんです。あと、この奴隷が問題を起こすとうちの店の評判が・・・」
この子だったのか。事件起こしたの。ちょっと町に入る時焦ったなあ。
でもかわいいし許そう。かわいいは正義である。
んで、魔物、か。この子魔物なんだね。
どこをどう見ても獣人とかそういうカテゴリだと思うんだけども。
ああそうか。この世界獣人とかの概念ないのか。で、耳とか尻尾とか生えてる人間は異端だから魔物、と。そういうことかな。
そうだとすると魔物って人間以外ほぼ全ての生物のことになっちゃうんじゃないのかなあ。
まあ魔獣と魔物って区分けもあるし魔物にカテゴライズされる生き物はかなりいるのかもしれんね。
「はあ・・・まあためしに会話してみればいいでしょう。もし、もしですがこの奴隷を本気で買うことになったら、その時はどうかこの店で買ったということは内密にしていただきたい。それで手をうちましょう。値段も教育代と、魔物ということもありますので、かなりお安くいたしましょう。銀貨で20枚といったところですかな」
いったな!?言質はとったぞコヤック氏!これでこの奴隷は買ったも同然。
てか魔物って少し差別されてるのかね。
コヤック氏の魔物っていう時の顔がかなりゆがんでいる。
まあ魔物が理性を失ったのが魔獣なんだし、そういう目でみられちゃうこともあるのか。
まあいい。あとは楽しいおしゃべりの時間だぜげへへ。
コヤック氏は少し離れてこちらが見えるように座った。
俺はキョトンとしてこちらを見ている犬耳ボクっ娘に話しかけることにした。
「こんにちは、俺はユズル・マヤマ、ここに奴隷を買いにきたんだ」
「こんちは~!ボクはモカ!よろしくねー!もしかしてもしかして、ボクをかうきなの?」
モカちゃんか、なんかペットの名前みたいだな。かわいいからよし。
モカちゃんは首をかしげながら期待しまくりな目でこちらを見ている。
尻尾もぶんぶんふっている。ああ、触りたい。握りたい。
顔がゆるまないよう気を付けながらなるべく冷静に話す。
「そうかもしれないね。でも買ったらしっかりいうことは聞いてもらうし、他の人に迷惑かけるようなことはもうしないって約束できるかい?」
「うんー!ボクいいこにするよー!ごしゅじんさまのいうことちゃんときくよー!あ、でもでも、おなかいっぱいごはんたべたいー!!」
「こいつはかなりの大食らいなんですよ。事件を起こした時は相当に飢えていたのか、門番を張り倒して町の中に入ってきて露店を荒らしたんです。展示品などを壊したりもして、金銭的な面でかなりの被害がでたそうです。あと、門番が一人右腕を骨折したんだとか。最初は魔獣が町の中に入り込んだのかと大騒ぎになりましたな」
と、コヤック氏。いつのまにか近くまで歩いてきていた。
パワフルですなあ。でもいまの会話聞いてる感じだとご飯をしっかり与えておけば悪さはしないよっていってるようなもんだよね。
くいしんぼうキャラにもカテゴライズされるのかこの子は。
萌えのオンパレードやな。
まあ、特に問題はなさそうだな。
「大丈夫です。モカを買い取ろうと思います」
「そうですか・・・では、くれぐれも問題だけは起こさないよう気を付けてください」
「わーい!やっとでれるー!うごけないしすっごいたいくつだったんだー!」
モカ氏はとても喜んでいる。尻尾ぶんぶん耳ぴっこぴこさせて狭い檻の中でぴょんぴょん飛び跳ねている。
こ、こら薄い服1枚しかきてないんだぞ!?大事なとこが見えちゃうだろうが!
というか見えてしまった。
光の速さで目の裏と側面に焼き付けておく。みえちゃったもんはしかたないよな!しかたないのである。
銀貨20枚を渡すと、コヤックさんは魔方陣みたいなものが書かれた紙を持ってきた。
これが奴隷契約の魔法なのだろうか。
「魔法を使用することはできますか?できないのならば、銀貨1枚で契約代行をしますが」
「できますよ。ただ、やりかたがわかりませんね」
魔方陣の起動の仕方を教えてもらう。陣に触れながら、書かれている魔法名を発言する。
その時に魔方陣に魔力を入れる空間のような物が現れるようなのでそこに魔力を入れる、という感覚らしい。
試験用の紙もあったので使わせてもらう。うむ、ちゃんと使用できた。
「では、この魔方陣を起動して隷属の呪文を発動させてください。発動時に近くにいる相手の名前を言うとその相手に隷属の魔法を受け入れるかの選択を迫れます。相手が了承することで契約成立です」
俺は魔方陣を発動させる。発動させると対象を選ばなければいけないような気がしてきた。なんだこれは。
選ばないともやもやしてしょうがない感覚と魔法自体が選べ選べと脅してきているような感覚に襲われる。
対象選択系の魔法さんって怖い人なんですね。ああぁ、はやく選ばないと。
『モカ』
発言する。モカが魔法の効果を受けたようだ。こっちを見てくる。
「この『はい』ってのをえらべばいいのー?」
「ああそうだそうださっさと選べ!」
コヤック氏、おこである。早く契約してさっさと消えろといわんばかりの顔をモカに向けている。
そしてそれからすぐにモカは『はい』を選んだようだ。
契約が成立し、モカとの魔力のつながりができたのがわかる。
お仕置きとかはこのつながりから魔力を流して行うのかもしれない。
「では、これで契約は成立です。奴隷の返品はできませんので契約した方は責任を持って奴隷を使役してください」
そういいつつコヤック氏は檻の鍵をはずす。モカが中からでてきて、とびついてきた。
身長差のおかげで俺の胸に頭がうずまる恰好となった。
いきなりのハグである。女の子ってこんな柔らかいんだね。やばい、このままでは前屈みで歩くことを強制されてしまう。
それを察したのかどうか知らないが、モカは自分から離れてくれた。
俺から離れる気はまったく起きなかったのでありがたい限り・・・いや、少し残念だ。
「これからよろしくね!ごしゅじんさま!」
こうして、俺はモカを手に入れたのである。
元気な犬耳ボクっ娘、モカの登場です。
モカを買い取る際にコヤック氏にせめて一人称だけは変えさせたほうがいいとかいわれましたが、主人公にはそんな気はまったくありません。
この世界で女性が「ボク」と名乗るのがなぜそんなにいけないことなのだろうかと考え込んでしまう主人公でした。