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終章 雪女は真夏の路上で俺に飛び蹴りをかます

 テレビ局は俺を九死に一生スペシャルで使うべきだ。

「……いだぃ」

 そんな事を考えながら痛む頬をさする八月十九日、日曜日。

 あの時、用意した逃げ道は何の事も無い、自身の技術、影歩。崩落してくる天井を足場に逃げ切ると言う超絶無茶なプランだった。《鵺》の時に、岩雪崩相手に成功した事からいける! と思ってやったのだが――いやはや、ブランクって怖いね。数日、瓦礫の空洞で救助を待つ羽目になった。……余談だが、キズクチは見事に埋まった。埋まったが、今日、暑中見舞いが、届いたんで残念ながら生きている。ちっ。

 で、当然の様に祭りの準備は手伝えず、収入は無し、さぼった罰にユリアさんの鉄拳制裁。

 心身家計簿共に大ダメージの今日この頃。

 取り敢えず気分転換にとユリアさんに進められ、祭りに来て見た。

 やきそばのタダ券を貰ったのだ。いぇい、一食浮いた。

「……」

 来年こそは手伝わなきゃ! だから願い櫓を見て置こう! と言う前向きな理由も一応有る事を主張して置く。

 そんな分けでやって来ました祭りの中心願い櫓。

 若者が跳ねたり、ちみっこがお父さんに肩車してもらって願い事を書いた紙を貼り付けていた。

 奇妙な光景だが、一応これがこの円祭りの特徴である。

 願い櫓の高い所に願い事を貼り付けると叶うとか、何とかで、今地元の女子高生の間で大ブレイク! らしい。パンフレットにはそう記されているが、見渡す限り女子高生の姿は無い。

『つれが()るのだよ、うせるが良いのだよ』

『わ、良いね! その話し方、可愛いよ!』

 訂正、居るけどアバンチュールに燃えるヤロー共にナンパされているらしい。まぁ、ちやほやされる間が花だと思って喜んでおけ、見知らぬ少女よ。

「紙ってここ?」

「お? 十ちゃんじゃねぇか、まだ書いてないのか?」

「ユリアさんに呼ばれてたんでね、今から本格参戦さ!」

 などとご町内のおじさんと親睦を深め、紙とボールペンをゲット。

 さて、何を書くかな?

 考える、見渡す。その結果――

 カキ氷の屋台が目に入った。

 強制的に連想される白い奴。

「……元気、だよな」

 静菜とはあの事件以来会っていない。

 俺は入院、静菜は村に帰ったらしい。……は、何を、考えているんだか。三と姉さんも

付いているから妙な事にはならないと思うがー―

「……」

 一期一会。もしかしたら俺が静菜と会うのはアレが最後だったのかもしれない。

 ゆるやかな、風。靡く葉、セミが無き、カラスも鳴く夏の夕暮れ。

 何と無く、書く事が決まった。

「収入が増えます様に、と」

 余裕が出来たら避暑がてら尋ねて見よう。大体、アレだ。あんなン百万の着物俺が持っててもしゃーない。

 そんな、少しいつもの俺らしくない事を考えながら願い櫓に向か――


「このっ! 大空(おおうつけ)ぇぇっ!」


 何か、背後から思いっきり飛び蹴りを喰らった。

「御影のばか! ばか! 空け者っ! 何だ、それは? そこはわしともう一度キスがしたい、とまでは行かぬとも、もう一度会いたい位書く所だろう?」

 半場、犯人の予想が出来ながらも。まさか、とゆっくり振り返る。

「なんぱされておっても助けぬし……御影の馬鹿っ!」

 何か、出会った時そのままの姿の白い奴――静菜が俺にローキックをしていた。良くもまぁ、着物でここまで動けるもので。

「や、分からんかも知れんがな、これは遠回しにお前に会いたいと言う――」

「うるさい!」

 うわぃ、折角の再開もご機嫌ナナメの静菜ちゃんです。どうしたもんでしょ?

 機嫌を取ろうとするが、そこまでやってやる義理も無いような気がして、停止。よって何の因果か騒がしい祭りの最中、静菜と見詰め合う。訂正、牽制しあう。そんな色っぽい雰囲気は有りません。獲るか獲られるかの野生のム○ゴロウ王国。

「まぁ、良いのだよ。ただいま、御影」

 一遍、ふっ、と嬉しそうに笑う静菜。

 は、良いね。その笑顔。あぁ、良かった。こいつの最後に見た笑顔がアレでなくて。

「おかえり」

 思わず笑いながら、その言葉を投げかけ――

「あ、そうだ。御影に今度からわしの村の防衛を頼むことになったからの、よろしく頼むよ」

「……………………は? どうして、そうなりましたかこの野郎。説明しやがって下さいませですこの野郎」

「ふふ変な口調だの、御影」

 いやいや、元凶、元凶。お前のせい。

 あまりの納得のいかなさに説明を求めようとするが――

「さぁ、約束通り祭りを楽しもうかの、御影?」

 輝くような満面の笑みに誤魔化された。

 は、まぁ良いさ。時間は未だありそうだ。問い詰めるのは後にして、今は精一杯祭りを楽しもう。

 白い雪女の隣で。


    ■□■□■□


「む、そういえば御影、ぬしの誕生日は何時だ?」

「ん? 十月十日」

「……本当か? 凄い偶然だの」

「まぁ、自分で適当に決めた日だからなー」

「む、良い加減だの。まぁ、良いよ」



 祭りが終わり、願い櫓の最も高い場所で、願いを込められた紙がハラリ、と踊る。

 そこには、


『十月十日に御影十郎と遊園地に行けます様に         如月静菜』


 と、書かれていた。


 ラストです。長い話にお付き合い、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。素晴らしい。 作者様の他の作品から飛んで、 一気読み。 他作品にもある作者様の外連味のあるスラミーなテイストが有りながら 世界を惰性と逞しさで生き抜くキャラクターの描き方は 此方のコン…
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