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天国から地獄へ

ラブコメだけど、だれか特定の人とくっつくとかはないと思います。

どろどろしたのも嫌なので、ほのぼのとしたのを書いていけたらなーと思います。

 高校一年生の5月。


 倒産の会社が倒産しました。


 いや、ダジャレじゃなくね。

 マジで! リアルに!


 その結果、そこそこ裕福な暮らしをしていた我が家は、一気に火の車。

 まあ、貯金がそこそこあり、父さんの次の仕事もすぐに決まったので、そこまでじゃなかったけど。


 というわけで、マイホームを売り払い、小さな団地に引っ越しました。

 弟は中学生だったので、引っ越したから転校はしたけど、まだ義務教育なので公立校に通うことになった。


 そして私は、通っていた私立の若干お嬢様学校を泣く泣く去ることになり、絶望のふちにいた。

 

 だけど、幸せなことに私はまた高校に通えることになった。

 引っ越してきた団地のすぐ近くにある公立校だ。


 すごく安いらしいので、父さんが私のためを思って通わせてくれることにしたのだ。

 女子高じゃないのはとても…とてもとてもとてもとてもとてもとっても残念だけど、通えるだけありがたいか、と思い、私はその高校に行くことにした。


 あー、可愛い女の子いるかなー?

 偏差値そんなに高くないみたいだからチャライ人とかギャルばっかかも…。

 まあ、それはそれで可愛いかったらいっか!

 ああ、やばいなんか楽しみになってきた…!



 そして引越しや、入学手続き、準備などをしている間に、6月に突入した。


           *


「じゃあ、行ってきます」


 私は玄関で靴を履き替え、ドアノブに手をかけながら、母さんに声をかけた。


「はいはい、行ってらっしゃい」

 私の声を聞いた母さんが、パタパタとキッチンからこちらにやってきた。


 引っ越してからは、家の中での移動がとても楽になった。

 いや、あんま嬉しくないけどさ。


「今日から新しい高校頑張ってきてね」

 母さんが、にっこりと笑う。


 見た目どおり、母さんはとっても優しい。

 私は母さんが怒ったところを一度しか見たことがない。昔、お父さんがお母さんとの思い出の品を酔って売り払ってしまった時だけだ。

 あの時は恐かった。マジで恐かった。

 あのお父さんが、一週間家の中で「はい」しかしゃべらなくなったぐらいだ。

 とにかくそれ以来うちでは「母さんは絶対に怒らせてはいけない」という暗黙のルールができた。


 私が母さんのキレたときを思い出し冷や汗をかいていたら、母さんが世間話のようにとんでもない話をきりだしてきた。


「そういえば、そこの高校、去年まで男子校だったらしいのよ」


 ピタリ、と私の動きがドアを開けかけた状態のまま固まった。

 ん? え、今なんて…。

「それで、今年から共学になったんだって。ラッキーだったわね」


 え、いやいや待ってくださいよ母さん。

 なにがラッキー?

 ちょっ、えっ、マジ? マジで? 真面目に?


「じゃあ、頑張ってね、あおちゃん」


 私は、ほとんど母に背中を押されるような状態で、家からだされ、徒歩10分の元男子校へと歩き始めたのだった。


            *


 現実逃避をしよう。


 目の前の光景は私が現実から目を背けるには十分な理由だった。


 じゃあ、ここで宣言しておこうか。


 私、菅音葵は女の子が好きです。


 はい、大好きです。

 男子は嫌いじゃないけど、女子と比べたら石ころ同然。

 

 私が自分が少し人と違うと気づいたのは小学校4年の時だった。

 以前から女子のことが好きだった私だが、4年ともなると、ソレがみんなと違うことだと気づくのは当然のことだ。

 なので、ばれないように気をつけつつ、女子と仲良くし、男子には冷たい態度をとって遠ざけた。


 そして猛勉強をして、そこそこ偏差値の高い中高一貫の女子中に入学したのだ。

 そこからはもうパラダイス! 楽園だった。

 まあ、やっぱり女の子が好きってことは隠したけどね。

 でも、学校に女子しかいないという事実!

 幸せだったな~。


「おい菅音、入っていいぞー」

 

 私を現実に引き戻す声がした。

 漫画とかでよくある、廊下で待つ転校生を呼ぶ先生の声だ。


 ああ、戻らなければいけないのかこの現実に。

 ああ、受け入れなければいけないのかこの現実を。


 う~…しょうがないよね……。


 ガラッ。

 決意を固めてドアを開ける。


 すると、ドアのガラス越しにも見えた総勢30人ぐらいの男子がいっせいにこちらを向いた。

 と同時にむわっという熱気と、なんか…異臭が。

 あつい! くさい! 汗か? わかんないけどとにかく臭う!!


 瞬間。


「「「「「「うおおおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」」」」」」


 野獣がほえた。

 

 目の前の男子たちが学校中に響くぐらいの大声で叫んだのだ。 


「よっしゃついにおれらのクラスにも女子がきたぞっ!」

「じょーーーーーーしーーーーーーーーーーーーー!」

「むさくるしい男子だけの生活からおさらばだぜっ!」

「ていうか背ちっちゃいな」

「でも可愛い!」

「かわいいいいいいいいい」

「やったぜぇぇえええええええええええ!」


 みんながみんなそれぞれ口々にしゃべりだす。


 うわぁー。もうやだ、すでに帰りたい。

 男子に歓迎されてもなんも嬉しくないから。

 ていうかせがちっちゃいとか余計なお世話。うるせえ黙っとけ。今言った奴覚えたからな。


「お前らうるせぇ」

 やる気のなさそうな担任教師(こいつも男だ)がさすがに見かねたのか、野郎共に向かって言うが、誰一人聞いておらず、黙る気がしない。

 

「菅音。わりいが、とりあえず短く自己紹介しちゃってくれ」

 担任教師がぼりぼりと頭をかきながら私を促す。


 えっ、マジっすか。

 こんな中でかよ。

 ……くそっ、しかたない。


 私は教壇の前に立った。

 すると、ピタリと、男子共の声がやむ。


「だいぶ離れた女子高から来ました。菅音葵といいます。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと、お辞儀をしてしめる。

 …さすがに先生の前で、よろしくなんてしねぇよ!と悪態をつくわけにもいかないからね。


 私の自己紹介の終わった瞬間、再び「うぉぉおおおおおおおおおおおおおお」「かわいい!!!!」「女子だ!」「かわいいいいい」「おおおおおおおおお」と口々に叫び始め、うるさくなった。


 え? なに、今のどこが可愛かったの?

 お前ら女に飢え過ぎだろ。

 いやぁぁぁ。こわいぃぃいいい。近づかないでほしいよぉぉおお。


「じゃあ、HRこれで終わりな。あ、菅音。お前あの空いてる席に座ってくれ」


 担任は適当にしめると、だるそうな歩き方で、教室から出て行ってしまった。

 

 残された私。と、野獣の群れ。


 正直ダッシュで帰りたいけど、そういうわけにもいかないので、指定された席まで歩いていく。

 よいしょっと。


 私が席に座ったとたん、わっと野獣共が私を中心に集まってきた。

「ねえねえどこから来たの?」「好きな食べ物は?」「趣味は?」「家どこ?」「遊びに行っていい?」「牛乳飲んでる?」「ポテチ食う?」「おれと付き合って」「いやおれだ」「いやいやおれだ」「おれに決まってんだろ」「おれだあああああああ」「結婚してください」「いやいや、ぜひおれと!」「だからおれだ」「ちがうおれだ」


 うわあああああああああああああああああああああああ。うるさい。頼む黙って!

 ちょっとけんか始めないで!

 私誰ともつきあう気ないから。

 結婚とか論外。

 頭わいてんじゃねーの!?

 私は女の子が好きなんだよぉぉおおおおおおおおおおお!


 思わぬ人生最大のモテ期だけど、ぜんっぜんうれしくねぇ!

 女の子にモテたかったよぉぉ。


 くそっ、らちが明かない。


 ガタンッ!


 私が椅子から立ち上がった瞬間、ピタリと喧騒も動きも止まり、場に静寂が満ちた。


「悪いけど…

 私は女の子が好きだから、この場にいる誰とも付き合う気もましてや結婚する気もないんで! 私とのラブコメとか期待してる方がいたら、スッパリあきらめてください!!」

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 

 全員が止まったまま動かず、しゃべらない。

 

 だが次の瞬間。


「「「「「「そりゃねぇーだろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」


 野郎共が一斉に私のほうへ詰め寄ってきた。

 そして口々になんか言い始めた。


 ああ、もう、うるさいうるさい!

 てか、うわっ。メッチャがっかりした顔してるよ。

 おい、マジでこいつら出会いないんだな…。

 まあ、こんなにむさ苦しいもんな。


「ふんっ! フラグがたつ前にへし折ってやったぜ!!」


 だが私は得意満面で男たちに言い放ってやった。

 その言葉にブーブーとブーイングの嵐。


 はんっ! 知ったことか。私が求めてるのは女の子とのラブロマンスだ!

 男と恋する気などさらさらないわっ!



 こうして私は初日からブーイングをあびながらも、フラグをへし折ったのでした。

 

 やっべ、私本当にここでやってけんのかな…。 




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