自宅内にて…
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玄関のドアを閉めて、そこに身を潜めてたら、明来子さんの靴と、サイズが小さい男の子のもののような靴が1足ずつ置いてあった。
もしかして、トモくんって弟がいたのかな?
「姐さんとその「彼氏」帰ってたのか。」
「えっ?ちょっと待って。トモくん、「彼氏」って言った。」
「言った。姐さんからすれば、あの小さい靴を履いた男の子とは恋人関係にあるから。」
「え"っ!?」
「ひどい姐さんだわ。今日中学の入学式があったのに。」
うそー!明来子さんには恋人いるんだ!
「全く、姐さんにはもう普通の感覚が通用しないから、参るよ。」
「そ、そう、ね…。」
「弟ー!あきらちゃん!話し声聞こえてるわよー!」
ふえっ!明来子さんの声だ!
「じゃましないでよー!おれたち今いいところなんだから!」
「かずまくん!何してるの?」
「あきこお姉ちゃんと『風雷戦隊ライレンジャー』『マスクドファイター・ビー』『おまかせ!ビューティーキュア』『プリンセス・オブ・ザ・マジカルランド』をつづけてみてるところ!」
「そうなんだ。で、明来子お姐さんの上に今?」
「すわってる!お姉ちゃん、中学のせいふくのままだよ!」
「弟も見る?」
「どっちも見ん!姐さんの制服姿も、4つ上がったそのアニメも!」
へ、へぇー。かずまくんっていうんだ。謎の男の子は。
あっ!呆気に取られてて、まだ挨拶してなかったわ!
「あ、あの、お邪魔してます。それから、しばらくここに泊めさせて下さい。」
「もちろん良いわよ!」
わぁ!良かったー!せめて今日だけでも泊めてくれただけでも嬉しかったのに…
プルルル…プルルル…
あれっ?電話鳴ってるわね。
「僕が出るよ。」
「お、お願い。」
誰かしら…。もしかして、浩一さん!?
○
「もしもし?」
「森嶋麻帆…。」
「あぁ、森嶋さんか。どうしたの?」
「今、トモくん家に、あきらちゃんいるでしょ?」
「えっ?そうだけど、何で分かったの?」
今日の森嶋さん、何か様子がおかしいぞ。上手い事、人を罠にはめるのが楽しみで仕方ない様子みたいだ。
「それなんだけど、10分前、あきらちゃんの父親と思しき人から、語気を荒げて「娘を見なかったか?」と言われた…。」
「そ、それで、何て答えたの?」
「松本さんのお家にいるって…」
「おーい!!森嶋さん!!ダメだって!教えちゃ!」
「トモくんの家とは直接言ってない…。何しろ、この周辺に松本さんは9世帯もいるらしいから…。」
「そ、それが本当だとしても、あの親父、しらみつぶしに松本さん家を探し出すぞ!」
「その時に襲われそうになったら、あきらちゃんの父親を気絶させれば良い…。私は知ってる…。トモくんは射的が上手だって。…。」
「そ、それがどうしたの?」
「高い命中率を生かし、BB弾や水鉄砲などを使えば良い…。」
射的かぁ。確かに夏祭りになるとあるね。僕は1回のプレイで必ず2つ獲物を落とせるから、射的屋のおっちゃん、僕を見るたびにビクビクするんだよなぁ。
いやぁー。参ったな。もしかすると、家にあきらちゃんの親父が来るかもしれんのか。
さて、あきらちゃんに何と伝えよう…って、あきらちゃんはどこ行った?
「かずまくん!あきらちゃんに手を出しちゃダメでしょ!」
「だってこのお姉さん、あきこお姉ちゃんと同じぐらいびじんなんだもん。」
「うわきものー!」
何だなんだ?2階がやけに騒がしいぞ。
「トモくん助けてー!。・゜・(ノД`)・゜・。」
うわっ!いきなり抱きついてきた!何があったんだ?あきらちゃん?
「あの男の子、いきなり私の太もも触ってきたの…。」
半べそかいてる。あの少年、いや野郎め!でも、あいつに憤怒しても意味無いか。
「あ、あの、うちはね、僕も含めて普通じゃないんだ。」
「そう、よね。確かに。」
「何か言った?弟。」
「…。」
姐さん何か言ったけど、無反応で通そう。
それと…
「な、なに?おにいさん。」
もう一つ、かずまくんに嘘言ってやろう。
「あのお姉ちゃん、あきらちゃんって言うんだけど、僕以外の男の人に触れられたら、すぐにぶってくるよ。それで、うちのクラスの面々が皆やられたから。」
「ぼく、つよいよ!」
「いや、いくらかずまくんが強くても、比にならない。下手したら、もうあきこお姐さんに会えなくなるかも。」
「や、や…」
あっ!もうすぐぐずりだすぞ!
「やだー!!。・°°・(>_<)・°°・。あきらお姉ちゃん!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
してやったぜ!かずま、土下座してる。でもちょっと可哀想だったかな?
まぁ、でもあきらちゃんも何とか許してくれたし、これで良かったのだろう。
はぁ…気苦労が絶えん。僕の1993年度は、前途多難なスタートになってしまったわ…。
Fin.