学校にて・・・
○
「おう、おはよう!智彦!」
「智彦、久しぶりだな。どうだ?カートは。」
「俺、テレビで観たけどさ、智彦、かなり頑張ってるんだよな。」
「俺も智彦みてぇに、モテてぇなぁ。」
僕を差し置いて、剛史、田山、和也くん、健太が僕の話をしてる。まぁー、僕がモテるとかの話になると、それはそれはバカみたいに盛り上がる。
始業式が始まるまでの間、僕はKART GP の第2戦に出てた。関東シリーズだが、静岡の「モーターパラダイス御殿場」で開催される事になった。静岡は確か中部地方の県の一つじゃなかったっけ?まぁ、神奈川から近いからそんなに文句は言わないけど。
そこでは僕は2位に入り、勝ったのはやはり大田広也だった。これで同ポイントになったが、すぐ開催されたレースの結果も反映されるので、今は大田がポイントリーダーになってる。言う程落胆はしてないけど、2位ってあまり良いものじゃないなぁ。
そんなこんなで僕の周りの男子が騒いでる頃だった。
「おぅ!阪本!」
「おはよう!女神!」
田山、新たに付けたあだ名で早速呼んでる。確かにあきらちゃんの存在は「女神」っぽいよ。ただ…
「お…おはよう…。」
まだ少しビクビクしてるんだ、あきらちゃんは。男子に対して恐怖心が拭えてないみたいだなぁ。
♡
こ、怖いよ…。男子怖い…。私に触れたら殴りかかってくるのを知って、遠慮がちの挨拶をになってたわね。田山くんは私を「女神」って呼んでたけど。まだ、今までのトラウマを引きずってるわ、私。が、頑張って克服しなきゃ!
「あ…あの…」
ゴーン、ゴーン…
あれっ?チャイムの音変わった?振り子時計の鐘の音みたい。
「皆さん、おはようございます。本日は朝8:40から体育館にて始業式があります。全校行事ですので、必ず出席してください。」
あっ、やっぱり。さっきの鐘の音はチャイムだったのね。
「おはようございます。新年度になりまして、ここにいる皆さんに会えまして、校長先生は非常に嬉しく思っています。不安な事、心配な事もあるでしょう。その時は是非とも、私達先生にご相談下さい。できる限りではありますが、皆さんの力になれるように、私達も努力します。」
いつになく、校長先生は気合満々に見えるわね。
校長先生の話は10分ちょっとかかったけども、何とか終わって、私達に期待をかける言葉を残して舞台を後にした。
その後…
「これより、新1年生が入場します。」
いきなり入学式が始まった!?そう言えば、整列の仕方が何か変だったわね。
3,5,6,4,2
この間の卒業式と同様の整列だったし、しかも私ら、舞台寄りの前半分に集ってるわ!ある程度勘の良い人は「この後何かの式があるだろう」って思ってたからあまり騒ぎになってないけど、男子を中心に色々騒いでるわね。
「聞いたか?始業式の後に入学式があるなんて。」
「一言も言ってなかったよな?」
「全校集会でわざわざやる事かなぁ?」
やっぱりぐちぐち言っちゃうよね。
○
あっ、やっぱりあるんだ。何か後ろ半分スカスカだったから、それに4月だし、もしかして後ろから1年生が入るんじゃないかなって思ったら、案の定そうなったな。
「新1年生、入場。」
♪~
「懐かしいな。」
「あの子可愛い!」
「良いねあの子!」
「俺あのツインテールの子が好み。」
何してるんだ、男子!揃って新入生の品定めを始めやがった!
「あの男の子が芸能人だったら、ファンになっちゃいそう!」
お、おいおい!女子からも聞こえたぞ!
大丈夫かな?新入生怖がってないかな?
「ぼくたち、しん1ねんせいは、もてるちからをぞんぶんにいかし、たのしく、おにいさんおねえさんといっしょに、よこはまだいはちしょうがっこうをもりあげていきます。」
新1年生代表のスピーチが済んで、今度は上級生の言葉に移った。って、麻耶ちゃんがスピーチするの!?
「本日、ここ、横浜第八小学校に御入学されました皆様方へ。私の後ろにいらっしゃいます、694名の2年生から6年生を代表し、最大の祝福を以ちまして、歓迎の意を表します。」
うっわぁ。レベルがめちゃくちゃ違うよ。まぁ、本当は比べちゃならんだろうけど。
「…をお願いしたく思います。恐々謹言。6年2組 江藤麻耶。」
な、なんだって?きょーきょーきんげん?全く持って聞き慣れない言葉が出たぞ。やっぱし国語は苦手だから、言葉の意味がよく分からないや。
式が終わると、僕達は教室に戻った。今日はまだやる事がある。クラブ活動決めに委員会活動決め、軽い掃除に教室環境づくり。ただじゃ帰らせてくれないんだな、始業式と言えど。
「クラブ活動は各自第1に志望するものを取り入れる予定だ。楽しみに待っててくれよ。」
僕は去年に続いて美術部に入る予定だ。剛史もそこに入る事を明言してるから、一緒にやる予定だ。
♡
去年に続いて茶道部に入ってると良いなぁ。本当は、トモくんと同じ美術部に入りたいところなんだけど、私ってあまり絵が上手くないのよね。頑張って描けても、少女マンガの1ページ分しか描けないのよねぇ。
「では、委員会を決めたいと思うが、わざわざ他のとこに移る子はおそらくいないと…」
スッ
「んっ?どうしましたか?森嶋さん。」
「私、他にやりたい委員会活動があります…。」
えっ!?森嶋さんが別の委員会に移籍するの!?保体委員でも森嶋さん活躍してたのに…。
「森嶋さん、どの委員会に移りますか?」
「緑化委員会…。」
えっ!!緑化委員って、今私がいる委員会じゃない!参ったわね。
「成る程。森嶋さんがもしそこに移るとなると、誰か一人、保体委員にコンバートしなければなりません。知っての通り、緑化委員会は一つのクラスに4人、女子しか参加できません。森嶋さんが入ると5人になりますね。それでは緑化委員の中で、どなたか保体委員に移っても良い方いらっしゃいますか?」
そんなの、私が移れるわけ無いじゃない。だって、怪我の手当とかよく分からないもん。女の子には普通に出来るけど、男子相手じゃ手助けするどころか、間違えて殺しちゃうわよ。
だっ、誰か…代わってよ…。
「誰もいないのか?こうなると、ひとまず森嶋さんが指名する事になります。森嶋さん、どなたにしますか?」
「あきらちゃん…。苦手な事にも取り組む姿勢を上手く応用すれば、私以上に働いてくれると思う…。」
ちょ、ちょっと!森嶋さん!こういうのは、話し合って決めるものじゃ…
「惜しい事だけど、森嶋さんの案に賛成よ。」
「私も。あっ、あきらちゃんに出て行って欲しいから言ってるわけじゃないわよ。だって、保体委員には、「コレ」がいるじゃない!」
「そうね、「コレ」ね!」
「「コレ」かぁ…。」
何で、(岡崎)都香砂ちゃんと(世堂)美和子ちゃんと(千代)早智子ちゃん、親指立ててるの?
「もう一つの理由がそれ…。」
言っちゃった!森嶋さんが正直な事発しちゃった!というか、森嶋さんも親指立ててるけど、意味分かってるのかしら?
○
親指立てた意味がわからなくても、だいたい何を示してるか察することができた。都香砂ちゃんらが暗示した「コレ」=あきらちゃんのカレシのような人=僕だ!うわぁ!参ったなぁ。森嶋さん、むごい事考えるね!
「緑化委員の3人は合意してくれた様子ですね。では、保体委員はどうですか?」
「私は賛成です!」(かなちゃん!)
えっちょっと…
「ボクも、あきらちゃんが入るなら大歓迎だよ!」
「はい、これで過半数だな。聞く迄も無いかもしれんが、最後に松本の意見を聞こう。」
え、えっ!もう、2人とも同意したのか。ど、とうするかな…。正直入って欲しいんだが、あまりにも素直に「入って!」って言っちゃうと、下心がある人に思われるだろうな。なんとか、間接的に入って欲しいと伝わる言葉を…。
「そ、そう、ですね。ぼ、僕は、あきらちゃんが良いって言ってくれましたら、温かく迎え入れ、ます。」
「素直じゃないね。」
うっさい!小太郎!僕が考えた言葉じゃこれしか思いつかなかったんだ!仕方ないだろ!?
「ということですが、阪本さんはどうしますか?」
♡
そ、そうよ!肝心な私の意見が抜けてるのよ!だからきっぱりと断ろう…としたんだけど…!
(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)(~_~;)
上の顔文字みたいに、かなちゃんとナナちゃんは「保体委員に来て!」と、そしてトモくんは「な、何て答えるんだろう?」と言いたげな表情を浮かべながら私を見てる。この3人だけじゃなく、他の子だって、何を期待してるのか、目がめちゃめちゃ輝いてる!こ、これは、もう、断るに断れなくなっちゃうじゃない…。
「わ…わかりました…やります。保体委員に…移ります…。」
ワァ!ワァ!
「やったね!うちの委員会、今年は人盛り上がりするね!」
「良かったね!トモくん!今年は、あきらちゃんが来るよ!」
あれっ?盛り上がり過ぎじゃない?私と森嶋さんがそれぞれ移るだけなのに…。
「あとは変更無いな?では、今年の委員会活動の話はこれで終了です。では、教室掃除、環境づくりを始めます。これらが終わり次第、各自解散で構いません。」
はぁ、やっと話し合い終わったわね。あと2時間で帰宅出来るわね。とりあえず、周りの物を片しておこうっと。
「…ふっ…ふっふっ…」
あれっ?誰かしら?変な笑い声ね。って、と、トモくん?どうしたの?
「ふっふっふっ…えっ…なんてこった…。」
だから、どうしたの?トモくん?
○
こ、これ、誰かがいたずらしたとしか考えられんわ。椅子の背もたれの裏側…
[松本明来子]
って書かれたステッカーがある…。つまりこの椅子、去年姐さんが使ってたんだな…。
「トモくん、それなんだけど…。」
何?森嶋さん。
「私が一番最初に教室入った…。その時誰もいなかったから、私が座ろうとしたその机と椅子を、トモくんのと交換した…。姉弟仲良く…」
「ちょっと!森嶋さん!てか、森嶋さんの仕業かよっ!」
「うん…。」
ま、マジでかよ…。てことは、元々は森嶋さんの机になるはずだったのか、姐さんのだった机は。
「と、トモくんだったの?今の笑い声。」
「わあっ!」
あっ、あきらちゃんか!ビックリしたー!何か困ったような顔してるけど、僕が笑い声発してた事聞いてたのか。
「そ、そうだよ。椅子の背もたれの裏側、姐さんの名前があった…ぷぷっ…。」
「えっ?そんなに、明来子さんのだった机が面白いの?」
「去年迄姐さんが使ってた机と椅子に僕が使ってると思うと…」
「えっ、トモくんって…」
「「シスターコンプレックス、略してシスコン」とか言いたかったと思うけど、違うよ。あきらちゃんは知ってるでしょ?僕と姐さんの間柄。」
「あっ。あはははっ…。」
「ねっ。大体分かったでしょ?」
「そういう事かぁ。明来子さんのを引き継いちゃっのね。不幸にも。」
あはははっ…。よく分かってるね、あきらちゃん。最後の「不幸にも」は余計な一言にして面白みを増大させたなぁ。
さて、ロッカーや机の前方、椅子の背もたれの裏側に、各自の名前が入ったステッカーを貼る事になったのだが…
「トモくん!見てみて!モモ、ローマ字表記にしてみたのー!」
「私もよ!」
「俺もしたぜぇー![i:59]」
「あんたは黙ってて!」
「ボクもしたんだぁ!」
「私も…。」
「「「「俺(僕)達も!」」」」
なぜか僕に名前入りのステッカーを見せる。
Momoe ŌTSUKA
Kanako Hara
Takeshi ITO
Nana Aisaka
Morishima Maho
Eita Tayama
KAZUYA YAMADA
Kenta Takasaki
Kotaroh Suda
まぁ、始めたのは僕からなんだけど。4年生の時に体操服のネームワッペンに書いて以来ずっと
TOMOHIKO MATSUMOTO
と書いてる。全部大文字になってるけど特に意味は無い。
♡
「と、トモくん、実は、私も…。」
「んっ?あっ!本当だ!
[AKIRA SAKAMOTO]
って書いてある!しかも、僕のと似せたな。」
「そうなの。トモくん、いつもローマ字で自分の名前書く時、どの文字も大文字にするじゃない?だから、似せたと言うよりも、お揃いにしたの。」
「あっ…それはどうも(^_^;)。ただね、周り見てごらん。」
な、何で周りを向かせるの?ハッ!
「ほぉー。あきらちゃんはトモくんとお揃いにしたんだぁ。」
「ボク、トモくんのと同じにしたら、後で面倒になるから小文字入れたのに。」
「あきらちゃんって、大胆ね!」
えっ、えっ?何で?かなちゃん、ナナちゃん、モモちゃんが、何と言うか、恍惚に似た顔で私のネームステッカー見てる…。
「智彦と女神はこうでなくっちゃね!」
「お揃いかぁ。俺もどこかの美少女と一緒の物にしたかったぜ。憧れるよ。」
た、田山くんと剛史くんもいたんだ…。それに何人かの男子もいるわ…。
「お、お揃いにしちゃダメだったの?」
「そんな事無いわよ。何だか、トモくんを想う気持ちが出てて良いなって思ったのよ。」
「か、かなちゃんってば!」
こうなるんだ…。私、トモくんと同じ文字列のネームステッカーにしたら、トモくんも喜んでくれると思って舞い上がってたわ…。
はぁ…もう変えられないのよね。1人3枚ずつって取り決めだから。私のはどれもこれも
[AKIRA SAKAMOTO]
って書いてあるネームステッカーを貼らなきゃならないのよね。
その後も教室掃除で床の雑巾掛け(スカートじゃないのを穿いてなくて良かった!)や、使うロッカーを綺麗にしたり、あと蛍光灯が1本切れてたので取り替えたりして約2時間を過ごしたわ。
ふぅ…やっと、5-2だった頃と同じ教室になったわね。
「これにて今日の用事は済みました。解散です。また今度会いましょう。」
さて、私は…あれっ?森嶋さんとトモくん、何か話してるみたいね。どんな話をしてるのかな?
○
「今日は2人で帰ると良い…。私らは決してお邪魔しない…。その間に、あきらちゃんに委員会についてのレクチャーをすれば、あきらちゃんが委員会活動始めた時に心的負担が和らぐと思う…。」
「ちょ、ちょっと!森嶋さん!それは、あきらちゃんが来てから言ってくれない、かな。今のままじゃ素直に首を縦に振れないよ。」
いや、だってさ、僕とあきらちゃんが一緒に帰ると、他のクラスや学年の、特に男子らから冷やかされるからさ、そういう覚悟がまだできてないんだわ。ど、どうやって断ろうか?ってか、あきらちゃんはどうしたの?
「どうしたの?森嶋さん。トモくん。」
あっ、来た!あきらちゃん、どうする?
「あきらちゃん…。今日はトモくんと一緒に帰ると良い…。私らは決して邪魔をしない…。」
そう言われたら、多分「やめてよ!森嶋さん!」とか言うんじゃないかと思うんだけど…
「えっ!?いいの?」
「イエス…。」
「やった!2人っきりで下校するの、夢だったんだ!」
あれっ?喜んでる?あらら…意外だなぁ。僕、てっきりすぐに逃げ出すと思ったんだけどなぁ。
(「彼氏」を表す指のサイン) http://www.kyoto-be.ne.jp/rou-s/syuwa/gimon/gimon8.html (アクセス日:2012/07/15)