冒険者になる下準備(2)
―――ヌハン中立王国王都トウキョウ、FAG本部
僕はその建物内の食堂で生ける屍と化していた。
「……」
「狐白様、軟弱者ですね。見て下さいお嬢様方を。こんなに元気ピンピンなんですよ?」
「……それは悪うございました」
「ま、まぁまぁ。椎奈さん、流石に私たちは慣れているから大丈夫ですけど、狐白さんは昨日の今日です。疲れて当然ですよ」
「……そう言う事にしておきましょう」
現在はお昼前の午前11時。
鈴音さん宅を出たのが7時頃だったからどれ程の距離だったかは想像に難くない。
道路はコンクリートを使って綺麗に舗装され、殆どの人が馬では無く原付で移動していたから綺麗であった。
そんな中をえっちらおっちら歩いてこのFAG本部へとやって来たのだ。
僕の膝は面白くも無いのに大笑いしている。
「はぁ、それにしてもこの建物は大きいですね。鈴音さんは何度か来た事があるんですか?」
「はい。私も登録する時とそれ以外で数度は此処に来てますね。学園の取得単位に依頼を受ける、と言うのも在りますから」
「へぇ~。と言う事は鈴音さんもあまり此処には詳しくない?」
「そうですね、残念ながら……」
「そこで私の出番と言う事なんですよ、狐白様」
「そうだよっ。椎ちゃんは色々もの知りなのだからっ!」
と言う事で早速このFAG本部内の施設の説明をしてもらう事にした。
「まずは今居る此処の事ですが、此処はまさしくFAGがFAG足る場所です。今私たちが座っているこの場所は、見てわかる通りFAGの食堂です。FAの人たちがよく利用し、朝と昼はそれこそ食堂として、夜は居酒屋として活躍しています。安いですから初心者でも安心して飲み食いできる訳なのです」
「……でも、それじゃあ此処以外の居酒屋や食堂があまりもうからないんじゃないんですか?」
「いえ、それが大丈夫なんですよ、狐白さん。このFAG内の食堂兼居酒屋の此処はメニューは少ない代わりに安く多く提供してくれます。変わってFAG外の定食屋や居酒屋はそのお店特有のメニューやお酒、飲み物、デザートなどがウリとなっています。その分確かに少し割高ですけど、大体そういうお店は宿と一セットなので。まぁ、そう言う事なので程よくすみ分けが出来ているんですよ」
ほぇ~、それなら確かにお金が無い日はFAG内で飯を食って、お金がある時は少し贅沢に外で……なんてことができるね。
しかもメニューは少ない方だとは言っても、定食系は5種類あるし、居酒屋系のメニューも中々に多く10種類前後はある。
まぁ、飲み物はアルコール系がビールとカシスオレンジ等のカクテル系が5種ほど、ノンアルコールがオレンジジュースやメロンソーダ、ミルクに水とその他5種類ほどとなっていて少し少ない感じがする。
「次は隣のあちらの受付カウンターの事を説明しましょう。お嬢様方はシーっですよ?」
「あはは、椎奈さんは説明好きですね。どうぞお願いします」
「任されました鈴音お嬢様。さてそれではあちらの受付カウンターの事なんですが……狐白様のFAG登録をしながら説明していきましょうか。その方がわかりやすいと思いますし」
「あ、そうですね。疲れも取れてきたので僕は大丈夫ですよ」
「では参りましょう」
「あ、椎奈さん私が代金を払っておきますね。なので先にいて置いてください」
「わかりました。では代金はこちらをお使いください」
お金を受け取った鈴音さんがレジに向かうのを確認して僕たちも受付カウンターへと向かう。
ちょうど今は人が少ない時間帯らしく空いていたので直ぐに受付できる様だ。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」
猫の獣人と思われる受付の女性が用件を聞いてくる。
「あの、稲荷狐白と言います。僕のFAG登録をしたいのでやってまいりました。お願いできますか?」
「失礼ですが、ご年齢をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい、こんな見た目でも15歳なんです……まぁ、見えませんよねぇ」
「……ううん、そうですね」
流石に僕の身長の142cmじゃあ15歳超えているとは思えない様なぁ。
あ、因みに身長は昨日お風呂場で身長を測ってもらいました。
「―――本人が15歳と言っているんです。そこの白猫、さっさとFAG登録しなさい」
「む、そのぞんざいな言い癖は何処ぞの肌黒エルフ。何度も言っているようだけど私は白虎族だ。けっして猫などでは無い!」
「はいはい、どうでもいいですー。と言うより肌黒エルフは闇エルフ族に対しての侮辱か何かですか? 殺しますよ?」
「どうでもよくないわっ。貴女も白虎族に対する侮辱を言ってるでしょうが、このメイドめ!」
「うるさいですよ、行き遅れ。貴女がよく受付の依頼をするのは、男漁りするためだって知ってるんですよ?」
「くううぅぅ~、貴女も人の事言えないくせに! ……はぁ、もう言いわ。で、なに、その娘の登録? 無理よ無理。どう見たって年齢詐称よ」
流石に駄目か。
くぅ、小さい事が此処で裏目に出るとはっ。
って、僕は好きで小さくなった訳じゃないし……。
どうすんだろうね。
と言うか猫の獣人族じゃなくて白虎でしたか、申し訳ない。
「何言っているんですか。所詮は一介の受付風情である貴女の一存で勝手に決めないでください、白猫。ここのFAG登録は年齢が15歳未満だと登録できない様になっている機能がちゃんと付いているでしょうが。その頭は飾りなんですか?」
「面倒だし手間よ。どう見てもそんな年の言っていない10歳ぐらいの女の子、出来る訳ないじゃない」
「ですが、あのBARのママさんとスタッフはあの見た目で全員20歳は超えてますよ? そう言う事例があるんです。グダグダ言ってないでさっさとしなさい」
「……まぁいいわ。そこまで言うんならやってあげるわ。感謝しなさい。普通は適当にあしらわれるだけなんだからね」
「それなら追い返したそいつも愚図ですね。本人が15歳超えてるって言ってるのに追い返すとか、FAG本部で仕事している人とは思えませんね。死ねばいいのに」
うわー、僕の事でこんなにいいあってるよ。
しかも椎奈さん最後に死ねばいいのにってはっきり言っちゃってるし。
ごめんね、僕がこんなに小さく無かったらよかったのに!
朱音ちゃんも「すごい言い合いだよねっ」て感心してるほどだ。
私も「死ねばいいのに」って言ってみたいなっ……て言ってるけど、いい子だからやめようねー。
「―――はぁ、では、狐白様。こちらにお手をどうぞ。こちらの黒い板の上の手形マークの上に手を置けば自動で手を置いた方の名前や年齢などが読み取られ、FAGカードが出来上がります。……では準備ができました、どうぞ」
ぽむっと手形の上に僕の手を置く。
その時、機械に置いた手から魔力が流れ、僕の体の中を巡り、再び機械の中へと戻っていった。
少し待つとピピッと言う音がして、機械の端から一枚の茶色いカードが排出された。
「本当に15歳だったんですね。失礼いたしました」
そう言って一度カードの内容を確認してから僕にカードを渡してくれた。
これが僕専用のFAGカードなわけだ。
なんだか嬉しいね。
「先程は年齢詐称などと言ってしまい、誠に失礼いたしました」
「だから言ったじゃないですか」
「うるさい、肌黒メイド」
「いちいち呼び方を変えないでください白猫」
「ふん。……では、これからFAGについての説明をいたしますがいいでしょうか?」
「それは私が致します。貴女の出番では無いですよ、白猫」
「それこそ受付足る私の仕事よ。ご説明いたしますね―――」
受付さんの説明が始まった。
長々としていたが、簡単にまとめると以下の事の様だ。
一つ、FAGはあらゆる仕事がその依頼対象となる。それ故依頼に上がっている物は俗にアルバイトと言われるようなホールスタッフの依頼等から魔獣・魔物狩り、草むしりなどの日常系、町を移動する商人の護衛など多種多様なので、自分に遭った物をしっかりと選択すること。
一つ、FAGランクは色で決まっているためカードを見れば一発でどのランクかわかる。なので自分のカードの色と同じ掲示板にある依頼を行う事。
一つ、依頼には期限がある物もあるのでしっかり確認して依頼を受ける事。失敗や期限超過は自己責任で、罰則があるため注意すること。
一つ、FA同士の揉め事はその人たちで解決すること。基本FAGは仲裁しないが、流石にどちらかが一方的に悪い場合は厳正に処罰を与える。
大体はこれだけ知っていればいいらしい。
これ以外の事はFAGカードのFAG規定・規則欄に記載されているらしい。
そうそう、レベルのふり忘れもよくあるから注意しろってさ。
よく読んでおこう、うん。
「―――最後に、素材の買い取りとランクアップの事なのですが、素材買い取りはFAG入り口入って左側のこの受付よりもさらに奥の買い取りカウンターまでご足労ですがお願いいたします。そこでは魔晶石の売買から魔獣・魔物の素材や使用していた道具の売買もしております。また、ランクアップですが茶色から橙色への昇格は基本試験はありません。橙色から黄色、水色から青色、黒色から灰色、金色から虹色へと変わる計4回は試験がありますのでしっかりと準備してくださいね。では説明は以上となります。もう一度言いますが、しっかりカードのFAG規定・規則を読んでくださいね」
「ありがとうございました」
ぺこりと僕は頭を下げる。
隣にいる椎奈さんは説明ができなくてムスッとふくれている。
何時の間にか戻って来ていた鈴音さんと暇そうにしていた朱音ちゃんは何やらゴニョゴニョと話し込んでいた。
「……さて、ではFAGカードもできましたし説明も終わりましたので、次は上の階にも行きましょうか」
「ふふふ、そうですね。では早速行きましょう狐白さん」
「そうだねっ。レッツゴーだよ、狐白様っ」
「なんだか嫌な予感がする……」
受付カウンターの正面側にある階段へと進む。
階段の横にはエレベーターもあった。
町の外と中じゃこんなに違うんだなー、変なの。
「本当はエレベーターでもいいのですが、まだ私たちは若いので階段で行きましょう。よろしいですかお嬢様方……と言うよりも狐白様?」
「あ、あはは。流石にこれぐらい大丈夫ですよ」
「では参りましょう。2階は病院です」
病院の事については椎奈さんが階段を上りながら説明してくれている。
FAGの病院は一般人よりもFAの人がよく使うそうだ。
そりゃそうだ。
危険にはFAの人の方が多く遭遇しているからね。
それにFAGの病院は外的損傷や毒などの治療がメインらしいからね。
腕やそれ以外が吹っ飛んだ人も、魔法で数カ月すればほぼ吹っ飛んだ前と同じぐらいには回復するらしいよ。
個人差があるみたいだけど、死ななけりゃどうとでもなるみたい。
すごいね魔法、ふぁんたすてぃっく。
腕って生えてくるのかな? それとも瞬時にポッと出来上がるのかな?
見たいとは思わないけどね……。
今は用が無いので病院はスルーしてその上の階、3階へ行く。
この階ともう一つ上の階は教会と孤児院の様だ。
教会の扉はとても煌びやかだった。
ただこの大きく煌びやかな扉は神様用で僕たちの様な参拝者は隣にある低い質素な扉を潜らないといけない様だ。
大人はたぶん誰もが頭を下げないと入れないほどの高さだね。
お辞儀して入れってことか。
「3階の此処は教会です。この国は多神教で、個々人それぞれ自分の神様を持っています。それでいて他人の神様を無下にする人は居りません。不思議ですよね。その神様に祈る場所が教会です。神宮とも言いますね、神の御座す所ってとこでしょうか。中には加護を賜る人もいるみたいですね。まさしく神補正……。恥ずかしい事を言いました、忘れて下さい。さぁ次は孤児院へ参りましょう」
トコトコと更に階段を上る。
そして着いた4階の孤児院。
流石にFAG本部の中にあるため手入れが行き届いてる。
よく異世界トリップした話では孤児院は教会に居るあくどい奴らの私腹を肥やす場所だとあるけど、流石にFAG内だからそんなことはなさそうだ。
孤児院の子たちが此処からでも見えるが、みんな笑顔だ。
「孤児院は大抵FAGの中に存在します。何故なら、孤児院をFAGが守らない限り孤児の奴隷売買や孤児の性奴隷化が後を絶たなかったからです。しかし現在はこの様にFAG内にあるのでそんな心配も減った、と言う事です。将来はこのFAGでFAとして働くか、商人や鍛冶師などの元で弟子と成っていく道に着きます」
「それは良い事ですね。でも、奴隷の心配は減っただけで居なくなりはしないんだね」
「そうですね。哀しい事です。でも将来はそんな子が居なくなるように、今を努力していけばいいんです。ね、椎奈さん」
「その通りです、お嬢様。見向きをしないよりは哀しくても現実を見つめるべきです。それがどんな事であっても……ですね」
「―――あーもう、暗いよっ。はい、笑顔笑顔っ!」
「ふふふ、そうね朱音」
朱音ちゃんのおかげで少し暗くなりかけていた、みんなの表情は元の笑顔に戻った。
椎奈さんも少し微笑んでいる。
一番暗そうにしていたのは椎奈さんだったから心配したけど大丈夫……そうだね。
「では、5階へ参りましょう。5階は武器や防具、生活用品、食材やその他諸々を取り扱っている、FAG内のショップです。此処の商品の品質に間違いはありません。ただし、武器や防具は初心者用の物がほとんどですし、生活用品や食材も量産品ばかりです。中級FAや上級FAの方々は大抵自分で気に入った鍛冶屋や防具屋、食材屋へと足を運びます。しかし、大抵の物は此処でそろいますし、そうそう専門店に有る様な高い道具などは使いませんからこちらで十分でしょう」
「『魔弾』も高級品は5発あれば十分ですし、大抵は学生品か一般品で事足りますもんね」
「武器の核や外装、魔導刻印に防具も自分で大物倒すまでは此処の商品で十分だしねっ。大物倒せればその核と素材で武器や防具も作れるしっ」
「そうですね。ただ、核は自分に合った物であるとは限りませんけども」
「えへへ、そうだねっ」
「では、狐白さん。行きましょう。狐白さんにとても似合う防具を選んで差し上げます!」
「わーい、わたしもっ」
「でもまずは武器からに致しましょう。防具は時間がかかりそうですので」
「「はーい」」
僕は女性三人に武器屋へとドナドナされて行った。
武器は好きに選べるけど防具は女性陣が勝手に選ぶだって!?
お、お手柔らかにお願いします。
流石に最初の防具からヘビー級だとやって行く自信がありませんので。
って、話聞いてよ~ぅ。
できるだけ早く次話を更新したいと思います。
誤字脱字、感想を貰えれば踊り出します。