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お稲荷様の異世界探訪  作者: 瀧乃助
序章「王都編・お稲荷様の街角探訪」
6/10

落ちたら異世界(3)

開いていただきありがとうございます


「はぁ~……これが鈴音さんの家ですか。すごい豪邸ですね」


 心の準備とかもうどうでもよくなった僕は、目の前にそびえたつ美しい豪邸を前に驚嘆していた。

 なんと豪邸の玄関に来るまでに15分程の距離が門からはあった。

 どれほどのお金持なんだろうね?

 今までにお金持ちの知り合いがいなかった僕としては想像もつかない。

 え、おまえん家の孤児院はどうなんだって?

 ははぁ、またまた。

 アレは全然豪邸じゃないじゃん。

 そんな風に思ってるのはお前だけだって?

 そんな訳無いじゃん、僕たちは貧乏だったんだからさ。

 まぁ、それは置いといて、それにしてもここに泊まるのか……落ち着かなくて眠れなそうだ。


「そうですか? 私はこれに慣れてしまっているので、これが普通なのですが」

「ふぉふぉふぉ、大きい分隅々まで掃除するのが大変ですがの」


 山城さんが大きな家ならではの不便なところを言っていたが、一般庶民の僕にとっては金持ちの贅沢な悩みにしか聞こえなかったので無視することにしよう。


「まさか、メイド……とかも居らっしゃる?」

「何を当たり前のことをおっしゃるのですか。いないとお掃除やお庭のお手入れが大変ですよ?」


 ……メイドやっぱりいるんだ。

 この金持ちめ……とは思ってたけど、メイドさんは別腹だよね。

 そんなことを僕は考えていた。玄関の扉開け、僕たちは抜ける。

 すると―――


「「「「「お帰りなさいませ、鈴音お嬢様」」」」」


 ―――メイドさんたちが左右に一列ずつ並びお辞儀をして立っていた。総勢は百人前後だろうか。

 ほぁっ! 吃驚した……まさか既に準備万端で待ち構えていたとはね!

 僕たちがいつ帰ってくるかわかってたのかな?

 さすがにずっとここで待ち構えてたわけじゃないよね。

 並ぶメイドさんたちとは別に奥の方には優しそうな表情をしたダンディな男性ととても綺麗な女性が並んで立ち、その横には綺麗と言うよりは可愛いという言葉が似合う少女とメイド長らしき人も立っている。

 そのうちのダンディな男性がこちらに近寄り、声をかけてきた。


「鈴音、山城、どちらも無事のようだね。先程外壁の門に立つ兵士から盗賊に襲われたようだ、と連絡が来て居ても立ってもいられなかったよ。無事だと分かって安心した」

「もう、お父様ったら心配症です。この通りどこにも怪我はありませんよ。この方に助けていただきましたから」

「ほう、そちらのお嬢さんが……娘がお世話になったようだね、ありがとう。名前を聞いてもいいかな」

「いえ、道に迷っていたところを偶々通りがかっただけですので。……申し遅れました、稲荷狐白と申します」


 かなり気さくな人に感じるね。

 僕の思い描くお金持ちの人の像を良い意味で裏切ってくれた。

 ―――そういえば誰も僕の見た目に何も言わないな……まぁ、ありがたいことだけど。

 それほど僕みたいな見た目の人がいるのが当たり前なんだろうな。

 そんなことより、メイドさんたちは未だにお辞儀をしたままなので気まずい。


「そう言えば私たちも自己紹介をしていなかったね。……では、改めまして。私は森之宮家当主森之宮(もりのみや)和徳かずのりで、こっちが妻の静音しずね、そしてこの子が鈴音の妹の朱音あかねだ。よろしくね」


 それぞれ紹介された女性と少女が当主と名乗った男性の隣で優雅にお辞儀をした。

 妹さんの方は勢いよくって言葉がしっくりくるようなお辞儀だったけども。

 ……メイドさんたちが気の毒に感じてきた。

 わかっててこの状態でいさせているのかな? 

 そうだったら可哀想だ……優しい顔して腹グロか!?

 本当に先程から誰も動くことなくお辞儀をしている。

 とかなんとか、そんなことを考えていると―――


「……きゃわいいっ……」


 ―――という言葉と、ハァハァという息遣いが少女―――朱音という名前だったかな―――から聞こえて来たような気がする。

 背筋がゾゾゾッとし、変な汗が流れる。

 まさか貞操の危機なんでしょうかっ!?


「ふふふ、朱音ったら可愛い子が相変わらず好きなのね」

「当たり前だよっ、お母様。そう言うお母様だってあの娘にどんな服を着せようか考えているんだよねっ?」

「それこそ当たり前、ですよ」

「「うふふふふ……」」


 あ、たぶん死ぬわこれ……精神的な意味で。

 遺言はメイドさんにもっと優しくしてあげて……でいいかな?

 ふと隣にいる鈴音さんに目を向ける。

 あ、同情的な視線で僕を見てる。

 諦めろってことかな。

 諦めたくは無いんだけどなぁ……あ、無理っぽい。


「さあ、ここで立ち話もなんだ。部屋へ移ろう。しかし、その前に鈴音とお嬢さんはお風呂に入ってきなさい。ずいぶんと汚れているよ?」

「はい、お父様。そうさせていただきます。さあ、狐白さん参りましょう」

「あ、はい……って、え? お風呂?」


 最後までメイドさんたちは放置されたままだった。

 お疲れ様です。

 ……ん、あれ? 何か忘れてないかな。

 忘れてる気がするんだけどなぁ。

 メイドさんのことで頭がいっぱいだったし、お風呂に入れば思い出すかな?

 トコトコと鈴音さんの後についてお風呂へと向かう。

 少し長い距離だったがお風呂に着いた。

 そう言えば着替えが無い、どうしたものか。


「―――鈴音さん」

「何でしょうか」

「着替えが無いんですが……」

「あー……たぶん大丈夫だと思います。お風呂からあがったら、準備されているでしょうから」

「……そうですか。それならありがたいのですが」


 そう言って服を脱いでいく。

 メイドさんが用意してくれるのだろうか。

 ずっとお辞儀して疲れているだろうに……大変だ。

 忘れてたのはこれだったのかな。

 でもなんかスッキリしないなあ。

 視界の端に鈴音さんの裸体が見える。

 綺麗だな……スタイルもいい……し……ぁ。


「あわ、あわわわわ……」


 ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイヨ。

 このままじゃ殺される。

 確実に()られるっ。

 乙女の柔肌を見てしまうなんて……死罪じゃないか!!

 死亡確定の四文字が頭の中をぐるぐると駆け回る。


「―――どうしたんですか? 女性同士そんなに恥ずかしがらずともいいんですよ?」

「じょ、女性……どう……し……?」


 ……ああ! そうだ、そうだった。僕は今女の子だったん……だ?

 だらだらと嫌な汗が身体中から勢いよく流れ出す。

 ……そう、僕は今女の子だ。

 これは間違いない。

 どこから見たも女の子だろう……ただ、一点を除いて。


「あ、ああああ、あとで僕はお風呂に入らせていただきます!」

「どうしたんですか? 遠慮することはありません。さあ、服を脱いで速く入りましょう?」

「いえ、いいんです! ぼ、ぼぼぼ僕はあとで!」

「? そのままでは綺麗な御髪おぐしとお肌が可哀そうです。さあ、脱いでください!」

「い……いやあああぁぁぁぁ―――」


 鈴音さんに強引にスポポーンと服を脱がされる。

 どこにそんな力があるのかいくら抵抗しようと鈴音さんに勝てない。

 上半身の服は既に無い。

 残るはズボンとパンツ。

 ここは何としてでも死守せねば!


「これで最後です―――!」


 ―――結果、無理でした。

 ……ええい、まだまだ!

 鉄壁の尻尾ガード!

 これで僕の大事なところは見えまいっ。

 自分の尻尾を足で挟み、前に持ってくることで見せられない秘密を隠す。

 狐の尻尾がふさふさでよかったぁっ。

 ―――というかこんなことで尻尾の使い方をマスターしてしまうとはね……がっくし。


「何を躊躇ためらっていたんですか。綺麗な肌ではありませんか。……何故尻尾で前を隠しているんです?」

「い、いえ……人と入るのは初めてで恥ずかしくて。あは、あはははは」


 小さいながらある『ちっぱい』のおかげで男に見間違われることはないだろうけど、これだけは見せられるものではありませぬよ。

 というか見られたら滅殺される(デッドエンド)やもしれぬ。

 もしくは実験動物(バッドエンド)……死ぬよりはマシか?

 ―――いや、やはりこの秘密は守り抜かねば。


「では、入りましょうか。はあ、久しぶりです……他の人と一緒に入るのは。妹なんて何が恥ずかしいのか一緒に入ろうとはしてくれませんし……」

「は、はあ……」


 鈴音さんが、浴室への扉を開けて入って行く。

 一緒に僕も入ってみると、そこには壮大なお風呂があった。

 中の見た目は温泉宿の浴場。

 お湯は温泉なのかもしれないね。

 ……いったい何人で入れるんだろうか。

 さっきのメイドさんたち全員が入ってもまだ余裕がありそうだよ。

 そんなお風呂に二人で入る。

 贅沢だけどなんか寂しい。


「このお風呂にいつもお一人で入ってるんですか?」

「ええ、そうですよ? と言っても家族とは……ですが」

「家族とは……ってことは、家族意外とは入っているんですね」

「ええ。侍女たちと親睦を深めるのにお風呂は良い場所ですからね。……狐白さん、こちらに来てください。頭を洗ってあげます。長い髪だと大変でしょう?」

「あ、お願いします」


 僕の長い白髪を洗ってもらう。

 まだ誰かと……というより女性とお風呂に入るのは少し恥ずかしかったが、ここまできたら諦めがついた。

 頭を洗ってもらっていると、くすぐったくて狐耳がピコピコと動いてしまった。

 お、耳の動かし方もマスターしたよっ!

 次いで身体を―――尻尾で隠しているところも―――自分で……そう此処重要、『自分で』洗い、尻尾も丁寧にあらった。

 全身を洗い終えたので鈴音さんと湯船に浸かる。


「ふは~。気持ちいい~」

「ふう、そうですね。一日の疲れが取れるようです」


 二人でのんびりと湯船につかっていると、浴室の扉を開ける音がして誰かが入ってきた。


「お姉ちゃん、待ち切れずに私たちも来ちゃったっ!」

「そうよ、鈴音。貴女だけその娘、狐白ちゃんでしたよね……を堪能するなんていけないわ」

「あらあら、お母様も朱音もせっかちですね」


 親子で和気あいあいと話しながら、舐めるかのような視線で僕の身体を見ていく。

 ……ああ、神様。

 僕は何をされてしまうのでしょうか。

 元男の僕が一緒に綺麗な女性とお風呂に入ってしまった罰でしょうか。


 「「「うふふふふ……」」」


 ―――結果、隅々(すみずみ)まで(いじ)られました。

 あ、でも尻尾は死守しましたよ。

 死守しましたとも!

 だって見せられないところを守ってますからね……くぅ、目から塩っぽい雫ガっ。


「ああ……満足っ」

「若返るわねぇ」

「ごめんなさい、狐白さん。少しやり過ぎました」

「……ハハハ。イインデスヨ。ミナサンノキガスメバ、ボクナンテドウデモ」


 浴槽のすぐ横の床で横になり尻尾を抱えて丸くなって、しくしくと泣いている僕。

 ああ、これが涙って言うんだねっ……もう僕、お嫁にいけません。

 あ、間違……ってないか。


「さ、さあそろそろお風呂からあがりましょうか」


 若干苦笑い気味で鈴音さんが言った、この一言で漸く全員がお風呂からあがることとなった。

 僕以外の女性陣は全員お肌が艶々つやつやになっているような気がする。

 このお風呂の効能……だね! だよね! だったらどれほど良かったか……ううぅ。

 脱衣所に着くと、そこには僕用に用意されただろう着替えがあった。

 ……下着は良い。

 女の子になったんだ、本当は嫌だが諦めも肝心だろう。

 しかし、服だ。

 服がいけない。

 フリフリしてる。

 すんごいフリフリしたものが付いている。

 ―――ご、ゴスロリ……?


「あ、あの……これを着るんですか?」

「あら、お気に召さない?」

「か、かわうぃいと思うよっ。ハァハァ……」

「あの、お母様、狐白さんはズボンを基から吐いていたようですし、このような服装は慣れていないのでは無いのですか?」


 鈴音さんから助け船が出された。

 ありがたや。


「あら、そうなの? うーん、だったらこれならどうかしら」


 静音さんが指をパチンと鳴らす。

 どこからともなくメイドが現れた。

 すごい。

 本の中だけかと思ってたよ、このような人の呼び方。


「ふふっ。だって面白いでしょう?」

「―――何! 貴様、僕の心が読めるのかっ! ……なんて冗談はさて置き、声に出てました?」

「ええ、それはもうばっちりと」


 ―――うあぁ、恥ずかしい。

 声に出ていたみたいだ。

 ……まあ、それはさて置き静音さんが新たに持って来させた服は、スカートではなくデニムのショートパンツだった。

 これなら大丈夫そうだ。

 上はシャツにパーカーを羽織り、足には太腿まである靴下を履く。

 うん、動きやすい。

 でもこのニーソって言うんだっけ……は少し恥ずかしいなぁ。

 スカートよりはもちろんいいんだけどねぇ。


「―――今日はもう遅いですから、お部屋に案内しますね」

「鈴音、私たちももう寝るからお部屋に送ってあげたら貴女も寝なさいね。お父様には私が伝えておくわ」

「わかりました。おやすみなさいお母様、朱音」

「ええ、おやすみなさい鈴音、狐白ちゃん」

「ううぅ……お休みなさい、お姉ちゃん、狐白様っ」

「お、おやすみなさい静音さん、朱音ちゃん」


 最後に僕も同じように挨拶すると、名残惜しそうにしていた朱音ちゃんが頬を染め笑顔を向けてきた。

 静音さんは何故か手で鼻のあたりを押さえている。

 この母娘は大丈夫なのだろうか?


「では、お部屋に案内しますね」

「……お願いします」


 僕は鈴音さんの後に付いていき来客用の部屋に通された。

 部屋の大きさは孤児院の部屋2つ分程の広かった。

 ベッドも大きい……ダブルよりもでかいよ。

 そしてふかふかで、高級ホテルも真っ青だね。

 んー、さいこー。

 まあ、こうして僕の異世界初日は終わったわけさ。

 ―――あ、部屋に着いたら用意されていたパジャマにちゃんと着替えましたよ?

 さすがにこのまま寝るわけにはいかないしね。

 多種多様なパジャマの中に何故かきぐるみ然としたパジャマがあったから、それを着て寝たのはここだけの秘密だっ。

 女の子特権さっ! 

 はぁ……寝よう。



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