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始まりは夢(1)

本編開始です。よろしければ感想などをしてくださるとうれしいです。

『人間は忘れてしまった……』


誰?


『精霊と過ごしてきた日々を 互いに支え合った時間を』


精霊?あの小さな光のこと?


『歴史は繰り返す…世界はまた、終わりを告げる…』


ねえ、待って消えないで!







「待って!っ痛ーーーー!」


誰かに手を伸ばして叫んだ瞬間、ゴンと勢い良く何かに殴られ 神穂(かみほ )はベッドの上で頭をおさえて悶絶する。

いきなり何がおこったのか理解出来ない。何か夢を見ていたはずだった、と頭の中を整理しようとすると再び固い物で殴られた。

あまりの痛さに声も無く涙目になって顔をあげるとそこには幼なじみの


「ほーちゃん、人の見送りの日まで寝坊する気?」

「お、おはようよっちゃん。今日もいい天気だね・・・?」


笑顔だが目が笑っていない。

神穂は冷や汗をダラダラと流して大きなカバンと分厚い本を持っている 三葉( みつば)に 声をかける。

途端顔が般若になった幼馴染みの三葉を前にとりあえずベッドの上で正座をして頭を下げた。要は土下座である。

神穂が恐る恐る顔を上げると、クリーム色の長い髪をツインテールに結び、草原を思い起こさせるグリーンの瞳で呆れた感情を出している幼馴染の顔が見えた。

同い年なのだが、神穂よりもかなり童顔に見えてしまうことを気にしているらしい。基本は大人しく、静かに本を読んだりして常に本を手に持っていたりカバンに入れているほどの本好きで、今日も数百ページありそうな程分厚い本を持っている。

もしかしてあの本で殴られたのだろうか。血とか出てもおかしくないぞ、とそっともう一度殴られた頭を触る。

血は出てないがたんこぶは避けられないだろうな…と思いつつ窓の外を見て時間を確認する。

太陽の位置からして12時過ぎといった所だろう。

そこで今日の予定をようやく思い出す。


「あ・・・」

「思い出した?今日は、私が、この町から、引っ越す日なんだけど」

「ごめん!寝坊した!」

「寝坊ばっかしてる人だけど、なにも幼なじみが離れる日まで寝坊することはないでしょう!!」


滅多に怒らない人ほど怒ると怖い、と神穂はもう一度深く頭を下げる。

昨日あれだけ寝坊せずに見送りに行こうと思っていたのに、あの夢のせいで!


「ん?夢…?」


そうだ、何か夢を見ていたのだ。誰かが泣いている夢。

精霊がうんたらかんたら…神穂は自分の夢を思い出そうと目を瞑り唸る


『人間は忘れてしまった……』

『精霊と過ごしてきた日々を 互いに支え合った時間を』

『歴史は繰り返す…世界はまた、終わりを告げる…』


「そうだ!いつもの夢だよ!でも何か世界が終わりを告げるとか言ってた…っごめんなさい痛いです私の頭が先に終わりを告げます」


合計3発。ついに真顔で本で殴った三葉を見て冷や汗が止まらない。

人が怒っているときに他のことを考えるのはやめましょう。


「はぁー相変わらずなんだから…また見たの?」


三葉が嘆息してベッドに腰掛けながら心配そうに尋ねる、出発までまだ少し時間があるのだろう。

また、と言う通り神穂は同じ夢を見ることがある。顔ははっきり見えないのだが、いつも泣きそうな声で話しかけてくる夢を。

その夢を見る日は決まって寝坊をして、たまに泣きながら寝ていることもあるらしく三葉は心配しているのだろう。

でも今日は少し違うんだよ、と神穂は呟く。


「いつも精霊を忘れないで、とか思い出して、とかだけなのに今日は世界が終わるとか言ってて…それに顔が見えたんだ」


中性的な顔をしていてどこか自分に少し似ていたような気がする。悲しそうに涙を流してじっと神穂を見つめていた。


「世界が終わるって何か話が深刻化してるねその夢、今まで精霊の話だったのに」

「うん。私も話しかけてるんだけど全部無視だよ無視」

「正直ほーちゃんの夢を昔は全く信じて無かったのに、段々その夢に出てくる人が本当にいる気がしてくるんだから不思議だよ」


この幼いときから見続けている夢のことを話しているのは三葉だけだ。

小さい頃おじさんやおばさんに言ったときは笑いながら本気にしてくれることは無かった。そのときから唯一話を信じてくれた三葉以外に話したことは無い。だからこそ、ここまで心配してくれるのだろうと神穂は嬉しく思った。


「っと、本当に早く行かないと」


三葉が太陽を見て腰を上げる。時間が来たのだろう、神穂は5分間待って!と得意の早着替えをする。寝坊を続けるうちに身につけた技である。さて行こうとドアをくぐろうとした時


「あ」


三葉が外で不思議そうに首を傾げるのが見えたが、神穂は部屋に戻り大切にしている髪飾りと最低限必要な物が入っているカバンを持って今度こそドアをくぐり外にでる。


「別に見送りなんだからそんな荷物持たなくていいのに」

「うんそうなんだけど…なんか、戻って来れないような気がして」


何言ってるの、と笑う三葉に可笑しいよねーと笑いながら神穂はドアをくぐるときに聞こえてきた声を思い出す。

気のせいだと良い、三葉を見送ってまた家に帰って来ればいいのだ。

町の広場に向かうにつれ見えてきた三葉の母親に頭を下げて、そう願った。








『助けて…ごめんなさい貴方はこの運命から逃れることは出来ない———』










ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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