殺害動機
[日間]ホラー〔文芸〕 - 短編で1位になっててびっくりです。
読んでくれたかたありがとうございます。
生まれた時から疎まれていた。
「あんたの父親はね、妊娠したと言ったら逃げやがったんだ! あんたさえいなきゃ、あの人と楽しくやれてたんだ! あんたなんか産まなきゃ良かった!」
母は、過去を思い出しては俺に悪態をつき、「そんな目で見るな!」と叩いた。
母が連れ込む男からは「うす気味わりいガキだな、どっか行けよ」と追い出された。
追い出されても、行くところがなかったので、たいていは近くの空き地か公園で虫を殺して遊んでいた。
ろくにメシも与えられず、叩かれることもしょっちゅうだったが、殺されなかったし、後遺症が残るようなケガもなかったので、ましな部類の虐待だったと思う。
6歳の時、知らないおばさんがおにぎりをくれた。おにぎりはうまかったが、「お母さんは何してるの」「この傷は誰がつけたの?」「おうちに帰りたくない?」などと、面倒な質問をしてくるので、答えたくなくて車の前に飛び出したら、俺をかばっておばさんが車に跳ね飛ばされた。
車が逃げたので、俺も逃げた。おばさんがどうなったのか知らないが、その後は俺のところに来なくなったので、良かったと思った。
近所の目を気にしたのか、役所に言われたのか知らないが、俺は小学校に行くことになった。
ボロボロの中古のランドセル、いつ洗ったかわからない服を着て、給食にがっつく子供。それが俺だ。
関わりたくないと思うのが当たり前だ。いじめというわけではないが、クラスの誰も近寄ってこなかったし、班決めなどでも俺と同じ班になるのはみんなが嫌がった。教師からも、グループ行動の時はひとりでやるように言われた。
小学4年生になった時、「友達になろう」と言ってきた奴がいた。
そいつの友達は、「その子を誘うならオレは遊びたくない」と言っていたが、「そんなこと言うなよ。クラスメイトじゃないか」と言って、俺と他のクラスメイトを一緒に遊ばせようとしてくる。
授業で「2人で組になって」と言われた時も、俺と組もうとしてくる。
我慢できなかったので、冬の寒い日の夜、学校に呼び出して、プールに落として殺した。
中学に行ったらあからさまにいじめてくる奴がいた。俺の机を蹴って「くせえんだよお前! 学校来るなよ!」とか、プリントを後ろに回す時に「うわー、あいつの手に触れたプリント触りたくねー! お前のコピーさせて!」とか、とにかくバイキン扱いしてきた。
ある日、「給食がまずくなるからお前は床で食えよ!」と、俺の給食の盆を床に置いた。
家でろくに食べさせてもらえない俺にとって、給食が生命線だった。だから、ゴミと混ぜたり、汚水につけたりしてない給食は、食べられるだけありがたかった。そう思って床に座って食べようとしたが、「なにさせてるのよ!」と声を上げた女子がいた。
「中学生にもなってイジメ? バカじゃないの? いいかげんにしなさいよ!」とタンカを切って、それからはそいつが俺をバイキン扱いをするたびに「やめろって言ってるじゃない!」としゃしゃり出てくるようになった。だから屋上から突き落として殺した。
それからは「あいつを助けようとすると死ぬ」という噂が立つようになって、いじめもなくなったし、話しかける奴もいなくなった。しかし中学三年の時、熱血教師が赴任してきた。
「『助けようとすると死ぬ』なんて、とんでもない迷信を作り出したものだ。こんなにまじめに生きてるクラスメイトは他にいないぞ! こいつの良さをわかってやれ」と主張し、俺の家庭環境まで調べて、母親に説教に来たり、進路についてあれこれ提案してくるようになった。
だから「噂は本当だよ。俺に親切にする奴は俺に殺されるんだよ。これ以上俺に関わるなら、先生も死ぬことになるよ?」と教えてあげた。「おまえが幸せになるためだったら、俺はそんなの怖くないよ」と言った。だから、生徒を見回るために繁華街を夜間巡回している時に、スパナで殴って殺した。
中学を卒業した後は工場で働いた。そこの工場長が、親身になって俺を夜間高校へ行かせようとしていた。「俺を父親の代わりと思って何でも相談してくれ」と言い、勉強の大切さだの友達の有難さだのを説いて来た。だから、夜、仕事帰りに繁華街をうろついている時に、スパナで殴って殺した。
同じ殺し方をしたのが良くなかったのか、それとももともと目を付けられていたのか、俺は警察に捕まった。
◇◇◇
「なあ、なんであんないい人を殺したんだ」
たった16歳で、4人もの殺害をしたとされる少年に、警察官である俺は疑問をぶつけた。
「おまえの母親や、おまえを虐めたクラスメイトに対して、やり返すっていうなら理解できる。何の苦労も知らずに幸せでいる人間に逆恨みした、っていうのも、ギリギリ理解できる。でも、おまえが殺したのは、お前を助けようとした人間だぞ? 感謝こそすれ、殺す理由なんかまったくないだろ」
「俺は、クズの母親から生まれたクズなんですよ」
「うん?」
「クズから這い上がりたかったんですよ」
「だったらそれこそ、工場長や先生や友達の助けを借りてがんばれば良かったじゃないか」
俺は当然のことを言ったつもりだが、少年は呆れたような顔をして
「そんなことしても、俺は『いい人に世話してもらったクズ』になるだけなんですよ」
と言った。
「どういうことだ?」
「クズの母親やクラスメイトを殺しても、俺はクズのままです。でもこの世の中から『いい人』がいなくなれば、世の中には『普通の人』と『クズ』しかいなくなる。ずっと3番だったクズが、相対的に2番に這い上がれるじゃないですか」
「な、なに言ってるんだおまえ」
「刑事さんも考えたことないですか。なんでこんないい人が被害に遭って、こんな悪人が逃げおおせるんだと」
「それは…」
「もしもこの世をつかさどる神様がいるとしたら、そいつはクズの味方なんですよ。だから俺の、行き当たりばったりの殺人もなかなか露見しなかった。クズばっかりになって、クソみたいな争いをし続けてるほうが、人間たちを眺める神様にとっては面白いんじゃないですかねえ」
なに言ってるんだこいつ。そんなわけないだろ、正しく生きてれば必ず報われるものなんだよ、と、心では信じてるはずなのに、なぜか口にできなかった。
「私以外の人がもっと太ったら、私は標準体重になれるのに」と思っていることが元ネタですすみません。




