最後に会った日
「少しだけ、会えない?」
届いたメッセージは、それだけだった。
名前を見ても、もう心臓は跳ねない。
少しだけ、時間を置いてから画面を閉じる。
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会う理由なんて、もうない。
話すことも、特別ない。
それでも——
なぜか、断るほどでもない気がした。
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「少しだけなら」
短く返す。
それで、決まった。
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待ち合わせは、駅の近く。
よく使っていた場所。
でも不思議と、懐かしさはなかった。
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「……久しぶり」
先に気づいたのは、彼の方だった。
軽く手を上げる。
前と同じ仕草。
でも、それだけ。
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「久しぶり」
近づいて、同じように返す。
それ以上の言葉は、特に出てこない。
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少しだけ歩く。
どこに行くでもなく、ただ並んで。
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「元気そうだな」
「うん、それなりに」
それだけで会話が終わる。
前なら、何かを繋ごうとしていた沈黙。
でも今は、ただ静かに流れていく。
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「……なんか、不思議だな」
彼が言う。
「前はもっと、話してたのに」
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少しだけ考える。
確かにそうだった。
どうでもいいことでも、ずっと話していた。
沈黙が怖くて、埋めるように。
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「今は、話さなくても平気だからね」
自然に出た言葉だった。
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彼は少しだけ笑って、頷く。
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「さ」
彼が立ち止まる。
「これで最後にしようと思って」
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その言葉に、少しだけ驚く。
でも、嫌な感じはしなかった。
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「ちゃんと終わらせたくて」
続く言葉は、どこか整理されている。
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「俺さ、やっとわかったんだよ」
「遅かったけど」
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静かに聞く。
もう、何も揺れない。
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「お前がなんであのとき別れたのか」
「今なら、わかる気がする」
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少しだけ目を細める。
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「たぶん、俺が気づく頃には、もう終わってたんだよな」
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その通りだと思った。
でも、それを口には出さない。
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「……うん」
それだけ返す。
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少しの沈黙。
でも、不思議と重くない。
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「ありがとうな」
彼が言う。
「ちゃんと好きでいてくれて」
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その言葉に、少しだけ胸があたたかくなる。
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「こちらこそ」
自然に返す。
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嘘じゃない。
ちゃんと好きだった。
ちゃんと大切だった。
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「じゃあな」
彼が言う。
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「うん。元気で」
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それだけで、十分だった。
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背を向ける。
歩き出す。
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今回は、涙は出なかった。
引き止めたいとも思わない。
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ただ、静かに思う。
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ああ、これで本当に終わったんだなって。
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振り返らない。
必要がないから。
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あの恋は、ちゃんとここで終わる。
無理に続けることも、
思い出を塗り替えることもない。
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ただ——
ここまで来たことを、受け取るだけ。
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好きだった時間も、
悩んだ時間も、
全部そのままにして。
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私は前に進む。
彼もきっと、別の場所へ行く。
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同じ時間を歩くことは、もうない。
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それでいいと思えたことが、
最後の答えだった。
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終わらせたんじゃなくて、
ちゃんと終わっただけ。




