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「別れたのは今日じゃない」  作者: れんれん


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4/6

彼に誰かができたと聞いた日



「……あのさ、知ってる?」


不意に名前を出されて、少しだけ心臓が跳ねた。


聞き慣れたその名前を、

今でもこんなふうに受け取る自分がいることに、少し驚く。


「彼、彼女できたらしいよ」


---


一瞬、何も考えられなかった。


ただ、その言葉だけが残る。


彼女ができた。


彼に。


---


「へえ」


それだけ返す。


ちゃんと、普通に聞こえただろうか。


---


頭の中が、少し遅れて動き出す。


誰なんだろう、とか。

どんな子なんだろう、とか。


考えなくてもいいことばかり、浮かんでくる。


---


「なんか、落ち着いた感じの子らしいよ」


友達は何気なく続ける。


その情報に、意味なんてないのに。


勝手に想像してしまう。


私より大人っぽいのかな、とか。

ちゃんとした子なんだろうな、とか。


---


胸の奥が、少しだけざわつく。


嫌だな、と思う。


この感じ。


もう終わったはずなのに。


---


「そっか」


それだけ言って、話を終わらせる。


これ以上聞いても、意味はない。


---


家に帰って、一人になる。


静かな部屋。


何も変わっていないはずなのに、

少しだけ空気が違う気がする。


---


スマホを手に取る。


開くつもりはなかったのに、

気づけば彼の名前を探している。


トーク画面は、そのまま残っている。


最後に送られてきた言葉も、そのまま。


『やっぱりお前がいい』


---


指が止まる。


あのときは、ちゃんと何も感じなかったのに。


今は少しだけ、重く見える。


---


「……そっか」


小さく呟く。


---


もう、違うんだ。


あの言葉を送ってきた彼は、

もういない。


---


新しい誰かに向けて、

新しい言葉を選んでいる。


---


少しだけ、胸が痛む。


悔しい、とかじゃない。


戻りたい、とも違う。


ただ——


自分の知らない時間の中で、

彼がちゃんと進んでいることが、

少しだけ寂しい。


---


同時に、思う。


よかった、とも。


---


もし、あのままだったら。


もし、あのとき戻っていたら。


きっとまた同じことを繰り返していた。


---


「……うん」


静かに頷く。


誰に向けたわけでもなく。


---


窓の外を見る。


夜は変わらず、静かで。


世界は何も変わっていない。


---


でも、確実に一つだけ終わった気がした。


---


彼が誰かを好きになったことで、

やっと、完全に過去になった。


---


少しだけ、息を吐く。


軽くなったような、

少し寂しいような。


---


この気持ちに名前をつけるなら、きっと——


---


「ちゃんと終われた」ってことなんだと思う。

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