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「別れたのは今日じゃない」  作者: れんれん


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3/6

再会しても戻らない理由



「久しぶり」


その声で、すぐにわかった。


振り返る前から、誰なのか。


---


少しだけ迷ってから、振り向く。


やっぱり彼だった。


変わってないようで、少しだけ変わっている。


髪型とか、服装とか、そういうのじゃなくて——

たぶん、時間の分だけ。


「……久しぶり」


自然に返せたことに、少しだけ驚く。


もっと動揺すると思ってた。


もっと、揺れると思ってた。


---


「元気だった?」


「うん、それなりに」


短い会話。


少しだけ沈黙。


前は、この沈黙が苦手だった。


何か話さなきゃって、焦って、

どうでもいいことを並べてた。


でも今は、何も思わない。


ただ静かに流れていく。


---


「ちょっと時間ある?」


彼がそう言う。


少しだけ考えてから、頷いた。


---


カフェに入る。


前に、よく行ってた店とは違う場所。


それだけで、少し安心する。


---


「……あのときさ」


彼が口を開く。


その言葉の続きを、私は知っている気がした。


「ちゃんと向き合えてなかったと思う」


やっぱり、同じことを言う。


あのとき、何度も画面に並んでいた言葉。


---


「今なら、ちゃんとできる気がする」


その一言に、ほんの少しだけ心が揺れる。


——ああ、ずるいな、と思う。


そういうタイミングで、そういうことを言うの。


---


少しだけ間を置いて、答える。


「うん」


否定もしないし、肯定もしない。


ただ受け取る。


---


彼は少し安心した顔をする。


「……もう一回、やり直せないかな」


まっすぐな言葉。


前の私なら、たぶん泣いてた。


嬉しくて、苦しくて、

すぐに頷いてたと思う。


---


でも今は——


ゆっくりと息を吸って、吐く。


そして、ちゃんと彼を見る。


---


「ごめんね」


その一言で、十分だった。


---


彼の表情が止まる。


「……なんで?」


静かな声。


責めるわけでもなく、

ただ、理解できないという顔。


---


少しだけ考える。


どう言えばいいのか。


どう言えば、この気持ちが伝わるのか。


---


「好きだったよ」


過去形で言う。


それだけで、全部が伝わる気がした。


---


「今も、少しは好きだと思う」


正直に言う。


嘘はつかない。


嫌いになったわけじゃないから。


---


「じゃあ——」


彼が言いかける。


でも、その先は言わせない。


---


「でもね」


言葉を重ねる。


---


「戻りたいとは思わない」


はっきりと。


---


彼が、何も言えなくなる。


その沈黙の中で、私は続ける。


---


「一回ちゃんと終わったから」


「ちゃんと悩んで、ちゃんと決めたから」


「そのときの自分を、なかったことにしたくない」


---


あの時間は、無駄じゃなかった。


苦しかったし、長かったけど、

全部、必要だった。


---


「今なら、うまくやれるかもしれないって思うよ」


それは本音。


彼も変わっているし、

私も変わった。


---


「でもそれって、“あのときの私”がいたからでしょ?」


静かに言う。


---


「その私をなかったことにしてまで、戻りたくない」


---


彼は下を向く。


何かを飲み込むみたいに。


---


「……そっか」


それだけ言う。


---


少しだけ、胸が痛む。


でも、それでいいと思う。


---


店を出る。


外の空気は、前と同じようで、少し違う。


---


「じゃあな」


彼が言う。


前と同じ言葉。


でも、もう違う意味。


---


「うん。元気でね」


自然に笑える。


---


背を向けて、歩き出す。


振り返らない。


---


少しだけ、涙が出そうになる。


でも、こぼれない。


---


あのときみたいに、

引き止めたいとは思わないから。


---


たぶんこれが、答えなんだと思う。


---


好きなままでも、戻らない理由。


それは——


ちゃんと終わらせた自分を、裏切らないため。

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