表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「別れたのは今日じゃない」  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/6

別れたのは今日じゃない



「別れよう」


その言葉は、思っていたよりもずっと軽かった。


もっと苦しくて、もっと泣いて、

やっとの思いで言うものだと思っていたのに。


実際は——

ただ、置くだけだった。


---


「え?」


彼は一瞬だけ止まって、

それから少し笑った。


「なに急に。どうしたの?」


——急に。


私はその言葉を、心の中でなぞる。


この三ヶ月、何度も終わっていた。


言わなかっただけで、

ずっと、ここにいた。


「前から、考えてた」


それだけで十分だった。


---


「俺、なんかした?」


その問いに、少しだけ息が止まる。


きっと彼は、本当にわかっていない。


「……ううん。何もしてないよ」


何もされなかった。


何も壊されなかった。


ただ少しずつ、

何もなくなっていっただけ。


---


既読が遅くなった日。

会う約束が減った週末。

名前を呼ばれなくなった夜。


小さなことばかり。


でも、その全部に意味があった。


私はそれを拾って、悩んで、

何度もやめようとして、

それでも好きで、戻って。


そうやって、ここまで来た。


でもきっと彼の中では、

全部“何もない日”。


---


「急すぎない?」


彼は少しだけ強い声で言った。


急じゃないよ。


私はずっと、ここにいた。


あなたが気づかなかっただけで。


---


「ごめんね」


そう言うと、彼はため息をつく。


「……なんかさ、冷静じゃなくない?」


その言葉に、もう何も揺れない。


「あ、終わってるんだ」


やっと、はっきりわかる。


「冷静だよ」


むしろ、やっと。


---


席を立つ。


氷はもう、ほとんど溶けていた。


「じゃあね」


振り返らない。


---


夜。


スマホが光る。


『さっきはごめん。ちゃんと話そう』


既読はつけない。


もう話すことはないから。


---


翌日。


『やっぱ俺、ちゃんと向き合えてなかったかも』


三日後。


『会えない?』


一週間後。


『なんかさ、急に寂しくなった』


遅い、と思う。


でも、責める気もない。


たぶん彼の中では、今が“始まり”だから。


失って、やっと考えて、

やっと気づいて。


でも私は——


気づく時間も、悩む時間も、

全部もう終わってる。


---


『やっぱりお前がいい』


その一文を最後に、通知をオフにした。


---


新しい服を着て、少し遠くの街を歩く。


隣に誰もいなくても、前より軽い。


同じ恋だったはずなのに、

終わるタイミングだけが、こんなにも違った。


彼はきっと、まだ続いている。


私は、もういない。


---


だからこれは、


今日の話じゃない。


ずっと前に終わっていた恋を、

今日、言葉にしただけ。


---


——数ヶ月後。


人混みの向こうに、見覚えのある背中を見つける。


気づかないふりをして、すれ違う。


それでいいと思った。


もう、同じ時間にはいないから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ