Scene21
♬ REO Speedwagon “Time for Me to Fly” ♬
放課後の教室はいつものように賑やかで、リク、ナオ、ケントの3人は、窓際の席で談笑していた。
ナオ「ケント、また数学のノート忘れたでしょ?」
ケント「いや、それ昨日のことだろ。今日はちゃんと持って来たって!」
リク「それ持って来たって言いながら、持って来てないパターンじゃないのか?」
ケントは自分の頭を指差しながら言った。
ケント「でも、オレにノートなんて必要ないのさ。だってここに全て入ってるから。」
ナオ「それよりもケント、さっき先生が言ってたよ。明日までに英語の課題、出ないとまずいって。」
ケント「え、マジで!?オレそんなこと言われてねぇぞ!」
リク「いやケント、授業中寝てるからだろ?」
ナオ「頭の中に全て入ってるんじゃなかったの?」
3人は笑った。その笑い声が途切れたとき、リクはふと違和感を覚えた。
リク(まただ・・・。さっきから感じている、この小さな空白。机を囲む3人の間に、まるでもう一つの椅子があるような気がする。そこに誰かが座って笑っていたような気がする。)
リクが不意に口を開いた。
リク「なあ・・・。」
ナオとケントが同時に振り向いた。
ナオ「ん?何?」
リク「・・・いや、なんでもない。」
リクは言いかけた言葉を飲み込んだ。
リク(何だか自分でもうまく説明できない。でも、確かに胸の中に引っかかるものがある。)
ケント「言いかけたことはちゃんと言おうぜ。」
リク「いやあ、何て言うか・・・。」
ナオ「何て言うか?」
リク「あ、そうだ!オレたちの学校って、1クラス36人じゃなかったっけ?」
ナオ「そうだっけ?」
リク「このクラスって、35人分の席しかないじゃん。それって何でなの?」
ケントは教室にある席の数を数えながら言った。
ケント「あ、ホントだ。気づかなかった。」
ナオ「別に正確に36人って決まってる訳じゃないんじゃない。入学者の人数が変われば1クラスの人数って変わるもんでしょ。」
リク「そうなんだけど、オレ数えたんだ。他のクラスには36人いる。でもこのクラスだけ35人。その窓際の一番後ろの席、誰か座っててもおかしくないと思うんだ。」
ケント「確かに、あそこは一番いい席だな。」
ナオ「それはケントが昼寝するのにでしょ。」
ナオはツッコんだ。
ナオ「3年になるタイミングで学校辞めた人なんていたかな?ケント知らない?学校で顔広いでしょ。」
ケント「聞いたことないな。もしそんな奴がいたら、オレは絶対知ってると思うけどな。」
ナオ「って言うか、それってこの前言ってた4人目の子の話?」
ケント「おお!その話かっ!?」
リク「まあ、しつこくて悪いんだけど・・・、オレ、あれからずっとしっくりこないっていうか、居心地が悪い感じで、このモヤモヤを解決できるといいんだけど。」
ナオ「私、あれから考えてみたんだけど、確かにもう1人女子がいたら楽しいなって思うよ。それに、今3人で話をしてて、何か間が開くって言うか、リズムが出ないって言うか、違和感みたいなものがあるよね。でも、実際、そんな子っていないじゃん。」
ケント「それで言うなら、オレのことをもっと面白がってくれる女子がいたら嬉しいけどな。オレ、もっと違う笑いを取れてたような気がしないでもない。」
リク「それって、2人とも、もう1人の存在を感じてるっていうこと?」
ナオ「存在を感じてるっていうか、そこまでではないけど、リクに指摘されてから・・・ちょっとした違和感を感じてるかも。」
ケント「オレは、リクに言われてから、もう1人女子が欲しくて仕方がないかな。」
リク・ナオ「は?」
ケント「いや、そういう意味じゃなくて、両手に華だったのが、片手に華みたいな?」
リク・ナオ「は?」
ケント「いや、もういい。ごめん」
リク「変なこと言ってるのは分かってるんだけど、もう1人いたような感覚って、どうしようもできないな。」
そう言うとリクは机と椅子があってもおかしくないスペースをずっと眺めていた。