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Scene2

リクとケントには、ナオというもう1人の幼なじみがいた。ナオは短距離を専門にして陸上部に所属している。ナオはショートカットで髪が日に焼けて明るくなっていた。元気印の笑顔が印象的なナオは、学級委員長を務めるなど面倒見の良い性格だった。ナオは翌日の記録会を控え、グラウンドで100メートルの練習を繰り返していた。いつもなら得意なスタートがうまくいかず、タイムが伸び悩んでいた。


ナオは汗をぬぐい、息を切らしながら言った。


ナオ「何でだろう・・・全然タイムが出ないな。」


そこに角刈り中年太りの監督がやって来て言った。


監督「スタートからの加速が悪いな。気負い過ぎなんじゃないか?」


ナオ「そう言われても、みんなが私に期待してるのが分かるから・・・なんか力が入っちゃうんですよ。」


監督はタオルをナオに渡しながらいった。


監督「それは分かるが、もう少しリラックスして、ゴムが弾けるようにスタートするイメージだ。」


ナオの表情は晴れなかった。


その日の帰り道、ナオは学校の校門のところでリクとケントに会った。ナオはリクとケントに練習のことをぽつりと打ち明けた。


――


ケントは変な踊りをしながらナオに言った。


ケント「お、ナオ!帰りか?調子はどうよ?」


ナオ「何かそのテンション、ムカつく。」


ケント「テンションにムカつくなよ。テンションに罪はない。」


それを聞いたナオは「はーっ。」とため息をついた。


リク「調子悪いのか?」


ナオ「・・・正直、あんまりよくない。練習でタイムが全然伸びなくてさ。いやー、明日の記録会だめかも。」


リク「珍しいな。ナオが弱音をはくなんて。」


ナオ「だってさ、みんなが『ナオならやれる』って言うから、それがプレッシャーでさ・・・」


ケントは腕を組みながら言った。


ケント「へえ、ナオって人の期待なんて考えるんだな。」


ナオはケントのことをにらみ付けて言った。


ナオ「ケンカ売ってるの?」


リク「まあ、人からの期待って重いもんな。」


ナオ「そうだよ!私、リレーのメンバーにも入ってるんだし・・・。」


リク「でもさ、期待されるってことは、それだけ信頼されてるってことだろ?」


ケント「そうそう、オレたちだってナオが本気出せば絶対に勝てるって思ってるしな!」


ナオ「だから、そういうのがプレッシャーなんだってば!」


リク「まあ、いつも通りやればいいんだよ。明日は応援してるから。」


ケント「あ、リク!せっかくだからオレらも記録会見に行こうぜ!」


ナオ「えっ、来るの?恥ずかしいんだけど!」


ケント「何言ってんだよ。オレらが応援したら100%の力出せるって!」


ナオ「・・・それ逆にプレッシャーじゃない?」


リク「あ、いいこと思いついたも!」


ナオ「何?」


リク「明日は、思いっきりケントのことをぶん殴るつもりで走ればいいんじゃない?」


ナオ「あ、それ力出そう!」


ケント「何でそうなるんだよ!?動機が不純だろ!」


ナオ「アドレナリン全開で力が出そう!」


リク「ケントへの怒りで!」


そう言ってリクとナオは笑った。


――


記録会当日、リクとケントは本当に応援に駆けつけていた。グラウンドの端にある階段に座ってナオのことを見ていた。2人に気づいたナオは、苦笑いを浮かべながらスタート位置についた。


スターターの上でクラウチングスタートの構えをすると、ナオの顔は真剣になった。


ケント「あれって・・・、オレのことぶん殴ろうとするときの顔?」


リク「ああ、そう見えるな。」


ケント「リクが変なこと言うからだろ。」


リク「ナオに殴られたら嬉しいくせに。」


ケント「そんなわけないじゃん!」


そのときリクはナオの方を指さしていった。


リク「あ、スタートするぞ!」


ケント「ごまかすなよ!」


スタートの号砲が鳴り響くと、ナオは持ち前の爆発的な加速で飛び出した。リクとケントは「行けー!ナオー!」と大声で叫んだ。ナオは6人中1着でゴール。ナオはゴール後に腰に手ついて、息を切らしながら天を見上げた。そこに記録員の後輩ややってきた。


後輩「出ました先輩、新記録、記録更新です。」


ナオ「そう?良かったーっ!」


後輩「どうしたんですか?何かコツでも掴んだんですか?」


ナオ「まあね。私、必殺技を会得したかも。」


ナオはそう言うとリクとケントの方を見て親指を立てた。


――


部活が終わった後、リクとケントが笑顔でナオを迎えた。


ケント「ほら見ろ!オレたちが応援したから結果が出ただろ?」


ナオ「いや、普通に練習の成果だから。」


リク「でも、最後のスパートはすごかったな。オレらの声が聞こえたか?」


ナオは少し照れながら言った。


ナオ「・・・まあ、ちょっとだけね。」


ケント「おお、オレらの声援が役に立った!これからも応援してやるよ!」


ナオ「いや、応援よりもあんたの顔が役に立った。」


ケント「それってオレの存在が・・・?」


ナオ「そうじゃなくて、日頃のケントの発言を思い出した後、ケントの顔を想像すると怒りが頂点に達して、そのときにスタートするといいことが分かった。」


リク「じゃあ、ケントを殴るんじゃなくて、蹴るイメージの方がいいんじゃない。」


ナオ「あ、それ言えてる!」


リクとナオは笑った。


ケント「ちょっと、さっきからすごい酷いこと言ってるからね!」


ナオはケントの肩を叩きながら言った。


ナオ「ごめん、ごめん。冗談だから。」


リク「それだけお前に対するナオの思いが強いってことだよ。ケント。」


ナオ「はあ!?それは聞き捨てならない!言い方おかしいでしょ!」


ケントは照れながら言った。


ケント「そっか。そいうことだったのか・・・。じゃあ大丈夫。」


ナオ「はあ!?そういうことってどういうことなのよ!?」


ケント「いや、それは今言うべきことじゃないかも!」


ナオ「いや、今言うべきことでしょ!」


3人はそんな冗談を言い合いながら家路についた。

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