Scene18
その晩、リクが帰宅すると父親が声をかけてきた。
父親「おかえり。」
リク「ただいま。今日早いんだね。」
父親「ああ、今日は母さんの見舞いに行かなかったからな。母さん、もっとリクと一緒にいてやってくれって。」
リク「オレは別に大丈夫だよ。」
父親「まあ、そういうな。たまにはご飯でも一緒に食べようや。」
リク「カレーかー。父さんのカレー久しぶりだな。」
父親「久しぶりって、他のカレーとは違うか?」
リク「そうだね。お店のよりも父さんの方が美味しいよ。」
父親「嬉しいこと言ってくれるじゃないか。」
リク「今度、作り方教えてよ。」
父親「そんなに父さんのカレー特別か?」
リク「父さんも、いつまで元気にいられるかわからないからね。」
父親「馬鹿言うな。父さんはお前よりも長生きしてやる。」
リク「フッ。じゃあ死ぬまで父さんのカレー食べられるね。」
リクと父親は一緒にカレー食べた。
リク「父さん。変なこと聞いていい?」
父親「何だ?」
リク「高校時代のオレの同級生のことって知ってたりする?」
父親「リクの高校時代の同級生って、父さん1人も知らないぞ。」
リク「だよね。」
父親「だったら明日母さんに聞いてみろ。見舞いのついでた。」
リク「うん。分かった。」
――
翌日の夕方、リクは病室の前にいた。リクが病室のドアを開くと、ベッドの上にリクの母親がいた。
母親「リク、来てくれたのね。」
リク「なかなか来れなくてごめん。学校とか忙しくて。」
母親「いいのよ。良いことも悪いこともあると思うけど、一度きりの高校生活よ。大切にして。」
リク「そうなんだけどさ。ちょっと引っかかることがあるんだ。」
母親「どうしたの?」
リク「オレって、いまケントとナオと仲がいいんだけど。」
母親「小さい頃はよくウチに来てたわね。でも不思議よね。こうやって名前を聞くと、思い出すのは保育園の頃の姿なのよ。」
リク「そうなの?オレが思い浮かべるのは今の高校生の姿だけどな。」
母親「それで、ケントくんとナオちゃんがどうかしたの?」
リク「2人のことっていうか、何かもう1人いた気がするんだけど・・・。」
母親「もう1人?」
リク「つまり、オレたち3人組じゃなくて、4人組だった気がするんだよね。だから変なこと聞くんだけど、母さん何か知ってる?」
それを聞いて母親は笑った。
母親「そんな聞き方ある?リクが知らないなら、お母さんもちょっと分からないわね。」
リク「だよねー。いたはずだと思うんだけど、いないんだよ。」
母親はまた笑って言った。
母親「いたはずなら、いるんじゃない?同じクラスの人なら知ってるでしょ?」
リク「それが同じクラスの奴らに聞いても知らないって言うんだ。」
母親「そんなことってある?」
リク「たぶん、それがあるんだよ。」
母親は少し考えて言った。
母親「いや、ないでしょ。」
リク「だよね。自分でも変なこと言ってるって分かってるんだけど。」
母親「全員に聞いてみたの?クラスメート全員。」
リク「全員には聞いてないけど。」
母親「じゃあ、とりあえず全員に聞いてみたら?」
リク「いや、全員に変なこと言うのは嫌だからやめとく。」
母親「何それ。それじゃあ何も解決しないじゃないの。」
リク「それよりもさ。昨日父さんがカレーを作ってくれたよ。」
母親「ああ。父さんがまともに作れるのはカレーくらいだからね。」
そう言って母親は嬉しそうに笑った。