Scene169
リクは研究室でパソコンに向かっていた。傍らに置かれている本には「感情の経済学」と書かれており、論文には「The Economics of Emotions」という文字が見えた。
リクは大きく背伸びをすると立ち上がり、コートを羽織ってバッグを持ち、研究室を出た。電車の車内から見える街はクリスマスのイルミネーションで溢れかえっていた。街を歩く人々を見ていると、その中にアリスがいるような気がした。
リクはアリスと過ごしたクリスマスのことを思い出した。
――
ジェットコースター
クリスマスイブの日、4人は一緒に横浜にあるユニバーサルワールドに行くことになった。比奈駅で合流した4人は、クリスマスムード一色の電車に乗り込んだ。
ケント「やっぱり遊園地は定番だよな!絶叫系全部乗ろうぜ!」
ナオ「ケント、絶叫系乗れるの?」
ケント「乗れるよ。オレは絶叫系しか乗らない。」
ナオ「じゃあ、本当に絶叫系しか乗らないでよね。」
ケント「ナオ、何か面倒くさいぞ。」
コスモワールドに到着すると、クリスマス限定のデコレーションが一面に施されていた。巨大なツリーのライトアップ、スノーマンの飾り、そしてカップル向けの特別なイベントが至る所に設けられていた。
アリス「すごいね!すごいキラキラしてる。」
アリスは思わず声を上げた。
リク「今日はクリスマスイブだから、1.5倍増しにキラキラしていると思うよ。」
アリスはうアウターコンチネンタルホテルの方を指さして言った。
アリス「あっちの方も楽しそう。あれ変わった形をしてるね。」
リク「あれはホテルだから、楽しいかどうかわ分からないけど。」
アリス「あれホテルなんだ!でも、あっちの方も歩いてみたい。歩くだけでも楽しそうじゃない。」
リク「そうだね。ワクワクするし、雰囲気がいいかも。」
アリスとリクが話をしていると、そこにケントが割って入ってきた。
ケント「いやいや、最初はジェットコースターだろ!」
リク「ケント、いやいやの使い方間違ってないか?」
アリス「絶叫系?」
ケントは悲鳴が聞こえるジェットコースターの方を指さして言った。
ケント「アレがオレたちの今日の目的だ。」
アリス「あれが目的なの?」
ケント「そう、アレに10回乗るのが今日の目的だ。」
ナオ「アリス、ウソだからねっ!ケントが1人で10回乗ってなよ。」
リク「しょっぱなからジェットコースターってどうなの?」
ケント「しょっぱなだからジェットコースターなんだよ。」
リク「理由を述べてないぞ。」
それを聞いてナオとアリスは笑った。
ケント「こういうときは、ジェットコースターに乗って、一気にテンションを挙げた方がいいんだ。どうせ他にこれっていう乗り物はないんだろ?だから行こうぜ。」
そう言うとケントはジェットコースターの方に突っ走っていった。
ナオ「仕方ないわね。じゃあ行く?アリスは大丈夫そう?」
アリス「たぶん大丈夫だと思う。」
ナオ「だぶん?他のから慣らして行ってもいいと思うけど。」
アリス「大丈夫。私、アレに乗ってみたい。」
そのときジェットコースターから悲鳴が聞こえた。その悲鳴を聞いたアリスの目は点になっていた。
ジェットコースターに並びながら、リクとケントは話していた。
ケント「リク、いよいよだな?」
ケントがニヤニヤしながら言った。
リク「・・・いよいよだなって、何だよ?」
ケント「クリスマスに遊園地って、これ完全にカップルが来る場所だろ?」
リク「ケントが誘ったんだろ?」
ケント「ジェットコースターは、距離を縮めるのにいいと思うぜ。」
リク「それを大きなお世話って言うんだよ。」
ケント「ぼやぼやしてると、高校生活なんてあっという間に時間が過ぎ去っていくぞ。」
リク「このタイミングでアリスに何もしないよ。気まずくなったらみんなに迷惑がかかるし。」
ケント「そういう気づかいは、いりませーん。オレはナオと乗るから、アリスのことはよろしく!」
その頃、ナオとアリスはメリーゴーラウンドの周りを歩きながら話していた。
ナオ「アリス、今日リクと2人きりの方が良かった?」
アリスは驚いて足を止めた。
アリス「えっ!?何で?」
ナオ「何となくよ。最近のアリスのこと見てたらそうなのかなって。」
アリス「うーん、まだちょっと早いかな。こういう時期に、こういう場所だと緊張しちゃうし!」
ナオは微笑みながら言った。
「そっか!じゃあ今日はもっと仲良くなれるといいね!」
そう言ってナオはアリスの肩を軽く叩いた。
4人がジェットコースターに乗る番が回ってきた。ケントとナオが一緒に前の席に乗り、リクはアリスと一緒に後ろの席に乗ることになった。ジェットコースターは動き出し、高い位置に移動し始めた。リクが隣を見ると、アリスは緊張して遠くを見つめていた。
リク(これはちょっとまずい状況じゃないか?)
そう思ったリクはアリスの手を握った。それに気づいたアリスはリクの方を見てニッコリと笑った。
アリス「大丈夫・・・。大丈夫だから。」
しかし、そう言ったアリスの視線はリクの頭のずっと後ろの方にあった。
リク「本当に大丈夫?落ちないように持っててあげるから。」
アリス「え!?これ落ちることってあるの?」
リク「無いよ。」
アリス「無いならそんなこと言わないでよー!」
そう言ってアリスがむくれたとき、ジェットコースターは勢い良く走り出した。前にいたナオとケントは両手を挙げながら楽しそうに叫んだ。
ナオ「ワー!」
ケント「オーッ!」
それにつられてリクも両手を挙げて叫んだ。
リク「ワーッ!」
リクが両手を挙げると、リクが掴んでいたアリスの右手も挙がった。するとアリスは恐怖のあまり叫んだ。
アリス「キャー!!!」
アリスは目をつむって叫び続けた。それに気づいたリクは慌てて手を下げた。ジェットコースターは次の加速に向けて一旦減速した。
リク「アリス、ごめん!」
リクがそう言うとアリスはリクの目を見て言った。
アリス「これ・・・、楽しいかも・・・。」
リク「え?」
リクがそう言ったときジェットコースターは落下するように加速した。すると今度はアリスがリクの手を掴んで両手を挙げた。
アリス「キャー!」
リクがアリスの方を見ると、アリスは叫びならも楽しそうだった。ジェットコースターはまた減速し、再び加速し始めた。
アリス「リクも一緒に!」
アリスはそう言って両手を挙げた。
アリス「キャー!」
リク「ワーッ!」
2人とも笑顔で叫んだ。




