Scene17
リクはナオとケントと一緒にヒナウォークを歩いていた。
ナオ「クレープ食べたいなー。けど太るからなー。」
ケント「クレープはカロリーがないから大丈夫だよ。」
ナオ「それってどういう理屈?」
ケント「クレープには、カも、ロも、リも、無いからカロリーゼロ。」
ナオ「くだらないねー。」
ケント「でも、ナオは少しくらい太った方がいいんじゃない?」
ナオ「やだ。」
ケント「やっぱ女性はふくよかなくらいがちょうどいいよ!」
ナオ「やだ。何でケントの好みの女にならないといけないのよ。」
ナオとケントがそんな話をしている中、リクはもう1人のことを考えていた。リクため息をつき、夜空の星に目をやろうと顔を上げた瞬間だった。
ヒナウォークの向かいの建物に、どこか見覚えのあるシルエットが立っていた。長い髪、比奈高の制服。
リク「・・・!?」
リクの心臓が跳ねた。声にならない声が喉を震わせ、リクの足は自然と動き出した。リクは階段を降りて向かいの建物に向かって走った。
リク「待って!」
だが、シルエットはリクの声に答えず、ただ静かに建物の奥へと歩いていった。店内からこぼれる光が彼女の姿を淡く照らしていた。まるで影のように、儚く遠くなった。
リクは必死に追いかけた。
リク「待てよ!」
階段を登る音と息遣いがリクの耳に響いた。リクがその姿を見た場所に到着すると、もうそこには誰の姿も見えなくなっていた。
リク(・・・いない。)
リクは大きく息を吐き、額に滲んだ汗を拭った。
リク(本当にいたのか?オレの勘違いか?)
リクは歩きながら周囲を探してみたが、もうその姿はどこにも見当たらなかった。
そのときだった。お店の自動ドアが開き、靴箱の儚げな女子がお店から出てきた。その女子は立ち止まり、リクのことを見つめた。
リク「比奈高校だよね?」
女子は怪訝そうに答えた。
女子「そうだけど。制服見たら分からない?」
リク「あ、そうか。そうだよね!」
リクは恥ずかしそうに笑った。
リク「これって失礼なんだけど、名前って何だったっけ?」
女子「名前を聞くのって失礼なの?」
リク「ごめん。ごめんな。オレ、浅丘リクって言うんだ。もし良かったらでいいんだけど。」
そう謝りつつもリクは思っていた。
リク(だって2年間も同じ学年なのに、名前を知らないって失礼だろ?)
女子「私は海野ルナ。ずっと同じ学年でしょ。名前は知らなくても見たことはあるでしょ?」
リク「うん。」
リク(いや、見たことないけど・・・。)
リク「でも、同じクラスにはなったことないよね?」
ルナ「ないわよ。浅丘くんは1組でしょ?私、2組だから。」
リク「そっか。だからよく見かけるんだ。」
ルナ「そうね。私も浅丘くんのことをよく見かけるわ。」
リク「じゃあ、香坂ナオと秋道ケントって知ってる?ほら、あそこにいるんだけど。」
ルナ「もちろん知ってるわよ。いつも浅丘くんと一緒にいるじゃない。」
リク「そっか。そうだよな。」
ルナ「ねえ、香坂さんって、浅丘くんか秋道くんと付き合ってるの?」
リクは驚いて言った。
リク「付き合ってない、付き合ってない。」
ルナ「だっていつも一緒にいるから」
リク「だってオレたち幼なじみだから。」
ルナ「幼なじみだと付き合わないの?」
リク「うーん。そんなことはないと思うけど、気心を知れてるから、一緒にいて何ていうか、楽なんだよな。」
ルナ「楽?」
リク「そう。相手が考えそうなことや、言いそうなことも分かるし。ほら、小さい頃から一緒だろ?だからいろんな思いでも共有しているし。」
ルナ「そうなんだ。いいな。そんな関係って羨ましい。」
リク「そっか?海野にはそんな人いないのか?」
ルナ「いないよ。」
リク「いないって、そんな訳ないだろ?近所の子とから、幼稚園のときに一緒だった子とか?」
ルナ「私、いつも1人だったから、そういう人いないんだ。」
リク「そっか。変なこと聞いてごめんな。」
するとルナは不思議そうに言った。
ルナ「浅丘くん、また謝ったね。」
リク「ああ、ごめん。初めて話す人との距離感がよく分かんなくて。」
ルナ「また謝った。」
そう指摘するルナは18歳よりもずっと大人に見えた。
リク「そうだ!海野さんのこと、ナオとケントに紹介しようか!?アイツら、絶対、海野さんのこと歓迎するよ。特にケントが。」
そう言ってリクは下の階にいたナオとケントに手を振った。リクのことを探していたナオとケントはそれに気づき、リクに向かって手を振った。
ルナはポツリと言った。
ルナ「いいよ、私、大人数が苦手だし。」
リク「大人数って4人だよ?」
ルナ「じゃあ、今日はこれで。」
そう言って立ち去ろうとするルナを見ながら、リクはルナと連絡先を交換したいと思った。しかし、リクは初対面で連絡先を交換することに気が引けた。
リクは「ああ、また。」
ルナが行ってしまうと、ナオとケントがリクのところにやって来た。ケントはニヤリを笑いながら言った。
ケント「リク、いきなり走って行ったと思ったらナンパかよ!?」
リク「違うって!何でいきない同級生をナンパするんだよ!」
ケント「え?あの子、同級なの?」
ナオ「今のって?」
リク「2組の子。海野ルナって言うんだけど知ってる?」
ナオ「え?知らない。そんな子いたっけ?ケント知ってる?」
ケント「え?知らない。」
ナオ「え?ケントが知らないの!?」
ケント「オレ、同級生は全員知ってると思ってたけど、オレの知らない子で、あんな可愛い子がいたんだ。」
ナオ「あんな可愛い子が余計ね。」
リク「そっか。ナオもケントも知らないんだ。」
ナオ「リクも知らなかったの?」
リク「ああ。」
ナオ「この3人が知らないって、よっぽど影の薄い子なのかな?」
ケント「あんな可愛い子がな。」
ナオ「だから、あんな可愛い子が余計だって。」