No.74 ウルティメイトの代表取締役
港にある倉庫で眠らされていたジーナ達が目を覚ます。
「ユキチカ!ユキチカ!」
「ユキチカー!どこ行ったの!ねぇ、ユキチカ!」
ジーナとシャーロットが周囲を探す。
しかしユキチカの姿はない。
「う、うう、機能の再起動、なんとか終わりました。皆さま大丈夫ですか!」
ウルルも再起動し動き始める。
「くそ、まんまとやられたな。この取引自体がフェイク。私達をおびき寄せる罠か」
キビが立ち上がってそう言った。
「ユキチカはヒメヅカ達と一緒にいるだろうな。まずは一旦落ち着ける場所に行こう。ここにいてもなんだしな」
皆はとりあえずジーナたちの家に向かう事になった。
リビングに座り込み、皆は黙ったまま。
その中で最初に話を切り出したのはキビだった。
「ごめんな、私がしくじった」
「誰もまさかコウノさんがあんな行動をとるなんて思っても無かったですって!」
頭を下げるキビにジーナがそう言う。
「ありがとう……とりあえずまた情報集めだ。今回は情報屋も躍起になって探してくれるだろうし」
そういうキビは笑って見せる。
しかし彼女の本心は笑っていない事を皆は分かっていた。
「今回のはどっちかな」
シャーロットが話を切り出す。
「どっちって?」
「実は私達、この前ある教団の施設に行ってみたんです。デウス・エクス・マキナって所なんですけど~」
キビに聞かれ答えるシャーロット。
その隣でウルルとジーナが小さい声で
「あ……」
と言った。
キビがすぐに折りたたまれた紙を取り出し広げる。
「それって、このリストにあったこの教団か?もしかして勝手に潜入捜査みたいな事したんじゃないだろうね」
「ま、まあそこまでの事はしてないんですけど」
「……本当に?」
ベテラン刑事にジッと見られシャーロットは小さくなる。
「と、とにかく!その司祭の人に話を聞いたんです。その人は元ハウンドの代表で」
「なに?代表だって?!なんでそんな大事な情報……ああ、ここ最近は私が署にいないから連絡がつながらなかったのか、ごめん、ジーナちゃん続けて」
キビはジーナにそう言うと座った。
「その人が言ってたんです。ウルティメイト社は一枚岩じゃないって、比較的穏便に事を進めるリリィの派閥、そしてもう一つが強硬手段も厭わない派閥があると」
「なるほど、確かに今回のは誰も怪我をしなかったところを見ると穏便とも言える。でもやり方は半ば強引ともいえる。誘拐してるからな」
ジーナの話を聞いて頷くキビ。
「だからどっちサイドが起こした行動なんだろうって」
シャーロットがそう言った。
「もしくは両方かもな。厳密にいえばもう少し違う話になって来るんだろうけど」
「どういう事ですか?」
キビの発言に対しシャーロットが質問する。
「その二つの派閥、どっちも対等なのか、あるいはどちらかが強くてもう片方がそれにしたがいながらも自分達のやり方をなんとか取ろうとしているのか」
質問に対してキビは彼女なりの考えを伝える。
「そもそもリリィってウルティメイト社のトップだよね?その立場の人間と対等近くかそれ以上に権力ある人って?」
ジーナは当然の疑問を投げかける。
確かに派閥となる以上両方のトップは近い権力を社内で有している必要があるだろう。
「それなら代表取締役の方がいるかと」
この疑問にはウルルが答えた。
「リリィ様の役職は代表執行役ですよね、つまり会社の業務を執行する立場の人間。本来このような役職を設ける目的としては代表取締役の監督業務と執行業務を分ける為に設置されるものなのです。という事は……」
「代表取締役がいるって事か……はぁー会社の構造ってそうなってるんだ。てっきりそこらへん全部一緒かと思ってた」
ジーナがウルルの答えを聞いて納得した。
「プライスさんは仮面の男に気をつけろって。その人が強硬手段を取るサイドのトップみたい。じゃあその男がウルルちゃんの言った代表取締役って事なのかな」
「恐らくは」
二人の話が終わると部屋は再び静かになった。
同時刻、ウルティメイト社の大会議室で。
リリィはいつも通りスクリーンの前に立ち、出資者たちへのプレゼンテーションを行っていた。
「本日ご説明させて頂くプロジェクトはこちらです」
リリィが映像を切り替える。
「ブルーベインプロジェクト」
スクリーンには青い液体が映し出されている。
「この特殊な血液には目に見えない程小さな機械、ナノマシンが含まれています。この血液をアンドロイド達に用いる事でアンドロイドに自己修復機能を持たせる事ができます」
映像内では破損した手の関節を自動で修復するアンドロイドが精巧な予想図として映し出されている。
「精密で複雑なパーツなどは修復が難しいですが、擦ってしまったり、手足の破損程度ならすぐに元通り」
「修理コストを劇的に下げる事が出来るでしょう。更にゆくゆくはこれを」
次の画像に切り替える。
「人間に使用します。まずは男性から、そうする事で国の重要資源とも呼べる男性を怪我や病気から守る事ができます。更には老いすらもこのブルーベインはあなたの人生から取り除いてくれることでしょう」
出資者から感嘆の声があがる。
「勿論、研究開発が進めば現時点で復元が難しい部位であったとしても完璧に復元する事が可能になります。更により多くの人々がこのブルーベインを使えるようになり、外見の老化や、病気や怪我による死というものは過去の話になる事でしょう」
プレゼンテーションを終えて一礼をするリリィ。
「また随分とすごい話が出たものだな」
「それはどれぐらいの金になるんだ?」
「アンドロイド達の修理コストが削減できるというが、それを導入するコストはどうなのかね?」
見終えた出資者から次々と質問が上がる。
「アンドロイドへの使用はあくまで研究とデモンストレーション、世間に広める為です。人間がこれを使用するようになれば莫大な利益を生み出せることは間違いありません」
「だがその段階になるまでかなり時間がかかりそうだが?それまで私達は自分の払った物への対価が支払われるのを待てと?」
「それはですね」
突然会議室の扉が開く。
「やぁ、みなさん本日はどうも」
そう言って現れたのは仮面の男だ。
「……!」
出資者の多くは彼の姿を見て身体を固まらせた。
「誰だね君は?」
「おっとそちらの方は初めてでしたか、失礼。私」
仮面の男は座っている出資者の前に立つ。
身長は180cmぐらいだろうか、座っている人間が見上げるには少々背が高すぎる。
彼は片膝をつき、紙の名刺を出す。
「ウルティメイト社代表取締役のヴァ―リ・ジョーンズと申します」
「なんだね、その仮面は?」
「少しシャイなものでして。お許しを。名刺も古臭い紙のものですが、私はこちらのが好きなので、こちらもどうかお許しを」
相手は恐る恐る名刺を受け取る。
「それよりも皆さん如何です?このブルーベインプロジェクト」
立ち上がり他の出資者に向かってそう言うヴァ―リ・ジョーンズ。
「だからこれで私達はいくら儲けられるのかという話を」
「はぁ、良いですか。これは人類の更なる躍進に必要な技術なのです。儲かる儲からないなんて下らない話はよしませんか」
ワザとらしくため息をつくヴァ―リ・ジョーンズ。
彼に対し怒りを覚えた出資者は立ち上がった。
「なんだと?こっちは幾らあんたらに出資していると思っているんだ!」
「座りなさい」
「どうかしているぞコイツ!こんな奴が会社を仕切っていたとはな!この話は下ろさせてもらうぞ!」
「座りなさい」
出資者はまだ座らない。
「私達、男というのは生まれながらにして特権階級!国から保護され、外にでれば女性が湧きたつ。そんな幻想の中で生きて来たあなたには見えないのでしょうね。人類の未来が、見えないし見る気もない」
そう言うとヴァ―リ・ジョーンズは側にいた別の出資者の首を折った。
「……ッ!!」
立っていた男は驚き床に尻餅をついた。
「そこは席ではないですが。彼は床の方が座り心地が良いらしい」
ヴァ―リ・ジョーンズは首を折った出資者が座っている椅子を持ち上げる。
「この椅子には明確な役目がある。それは人を座らせる事だ、座るというのは実は肉体的に色々と負担がかかる事で、それを軽減するのが椅子という訳だ」
椅子を持ち上げ、落ちた出資者には目もくれずに話すヴァ―リ・ジョーンズ。
「しかしもう一つある、それは遥か昔の時代、椅子とは権力の象徴だった。王族などしか座れない物、だから玉座など豪華絢爛な椅子が数多くある。まあ所説あるでしょうが。そう正に特権階級、しかしそんなものは幻想だ」
彼は持ち上げた椅子をきっちり同じ場所に置く、倒れている男の身体の上に椅子が置かれた。
「この世界において、王様の椅子に座りふんぞり返っている私達、つまり人類のオスとはただの資源だ。人という製品を生み出すのに必要な資源でしかない。国からみれば鉱物資源や農作物なんかとそう変わらない、違いがあるとすればその量と外見ぐらいだ」
そう言って彼は再び、床に座り込んだ出資者の前に来た。
「そうだ、人間にいつ使用できるのか気にされていましたね?ならご安心をすぐに実施例をお見せ出来ますよ」
彼は出資者の顔を掴み持ち上げる。
そして出資者の両目に親指を近づけていく。
「や、やめ……!!」
両目に指が押し込まれていく。
「ご安心を、実験が上手く行けば、この目が治りますよ。いつになるかは分かりませんが。そういうのは専門の者に任せているので。治った時は教えてください、快気祝いぐらい出しますから」
手を離すヴァ―リ・ジョーンズ。
両目を潰された出資者は悶えていた。
「おい、この者達を全員連れていけ」
アンドロイドがその場にいた全員を捕らえ、外へ連れて行く。
息を荒くしたリリィがヴァ―リ・ジョーンズに向かって歩く。
「何を考えているんですか!こんな事して、すぐにバレてしまいますよ!」
「なにか問題か?」
ヴァ―リ・ジョーンズは手に付いた血を拭いていた。
「出資者が減るって?世間が許さないって?下らないな、そんな事は考慮すべきことではない。何度も言っているだろう、人には与えられた役目がある。役目をもって全ての存在は生まれる。あそこで首を折られた彼だってそうだ。ああやって自分達は脆い存在という事を彼らに教える為にあそこに座ったんだ。きっとブルーベインが欲しくなっただろうよ」
首を折られた出資者は袋に入れられていた。
「あなたは異常だ」
「そうかな?私からみたら皆が異常になっているだけにしか思えないがね」
怒りの表情をみせるリリィにそう答えるヴァ―リ・ジョーンズ。
「それでは私は行くよ。ご苦労様、リリィ」
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