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No.52 夏休みだし実家に帰ろう


朝、警察署前にあるトレーニングジム。


キビはそこでトレーニングをしていた。

軽めのスクワットをし、その後は懸垂機を使って腹筋と背筋を動かす。


自身の身体の隅々まで意識を巡らし、不調な場所が無いかを探る。


「あれ、先輩も来てたんですか?おはようございます」


そんな彼女を呼ぶ声が。


「コウノか、メンテナンスだよ。傷が治るまで動くなーってお前含めて周りがうるさかったらな。久々にしっかり体を動かせるよ」


隣に来てコウノも懸垂機に手をかける。

「あの重症だったんですからそれぐらい聞きいれてくださいよっと」


「まったく、身体を動かしたくても動かせないって結構ストレスなんだな。その間にユキチカからの頼まれごとを進行できたから良しとするけど。そっちはどうだ?」


キビは隣で懸垂をするコウノに話しかける。


「ちゃんと確認してますよーユキチカ君とシャーロットさん達の絵日記」



話は2週間程前に遡る。

【光のシャボン玉】の施設での事件から数日経過した日、ユキチカの家にみんなが揃っていた。


「まさかユキチカくんの身体が機械だったなんて」

「そっか、コウノは知らなかったか?」

キビとコウノの目の前にユキチカがいた。


そのユキチカは自身の腕のパーツを外し、整備している。


彼の身体はカイによって体を真っ二つにされた。

しかし、スペアパーツで今ではすっかり元通りに戻っていた。


「カオルちゃん!おとうさん所行きたい!」


ユキチカの言葉を聞いてキビが咳き込む。

どうやら、飲んでいたお茶が変な所に入ったようだ。


「えっほえっほ!なんだと!?」

「調べたい事があるの!おばあちゃん達にききたい事があるの!」


その事を聞いてため息をつく。


「はぁ……しょうがねぇ、分かったよ。あそこに行くには色々と面倒ごとがあるから。時間もらうぞ」

「わーい」


喜ぶユキチカを観るキビ。


「じゃあその間夏休みの宿題しとけよ」


キビの言葉でハッとするジーナ。

「あ……そういえば忘れてた」


「もうおわった!あと日記だけ」

「私もあと絵日記だけ」


ユキチカとシャーロットは夏休み中に取り組む問題集などは貰ったその場で解いてしまった。宿題がなくなったので自由選択の絵日記を宿題として与えられた。


「絵日記?何書いてるんだ?」

何の気なしに聞いてみるキビ。


「これー!」

ユキチカは端末に自分の絵日記を映して見せた。


内容としてはその日に何があったか、何を食べたのかというもの。

しかし、一部大きな問題があった。


それは彼らが解決した事件の内容がしっかり描かれていたのだ。

機密もへったくれもあったものではない。


「これは……流石にダメですね」

コウノがそう言った。


「よし、これから絵日記は全てコウノが添削する」

「え!?私がですか?」


「だって私はユキチカを実家に連れてく準備をしないといけないからな」


こうしてコウノはユキチカとジーナの絵日記添削担当になったのだ。



「私達が行っている間の留守番を頼む」

「はい、久しぶりにゆっくりと業務をこなしますよ」

コウノはそう言って笑った。


トレーニングを終えた二人はシャワーを浴び、着替えた。

コウノはいつものスーツに、キビも着替えたがいつもよりもカジュアルな服装に着替えていた。


「それでは行ってらっしゃいませ!」

「おう、それじゃあな。私は休日を堪能させて貰うわ」

サングラスをかけて車を出すキビ。



彼女はユキチカの家の前に到着。

そこにはユキチカとウルル、そしてジーナとシャーロットもいた。


「皆いるな。荷物があればトランクに入れて、さぁ乗って」


ユキチカが荷物をトランクに入れ、皆は車に乗り込んだ。


「私達も良かったんですか?」

「インファマス刑務所なんて都市伝説みたいな場所で、普通じゃ絶対にいけない所だよね」


「向こうからの要望でな。お友達を紹介してくれって」

キビはそういって車を発進させる。


「それには私も含まれているのですか?自分で言うのもなんですが、私アンドロイドですし……」

「ウルルちゃんも大丈夫だって。そもそもユキチカの従者なんだから来てくれないとさ」


ウルルにそう答えるキビ。


「さて、移動中に軽く説明しとくか。君達がこれから行くのはインファマス刑務所だ。そこには世界で最も危険な犯罪者が収容されている。それも既に全員処刑済み、つまり死んだ事になってる連中がな」


「え?でも囚人は収容されてるんですよね?」

「それは死んどいて貰った方が何かと都合がいい、表立って言えない理由で収監されてるからじゃない?」


シャーロットの発言に頷くキビ。


「御名答、囚人たちはいずれもその道で名を馳せた超一流ばかり。伝説の傭兵、世界一の殺し屋、裏社会の流通を牛耳っているやつや、世界中のあらゆる機密情報を持つ情報屋までいる。悪党でもその才能や繋がりは利用しようって話になったらしくてな」


キビの話を聞いて頷くジーナ。以前ウルティメイト社のリリィも同じことを言っていた事を思い出し、あの話は本当だったのだと彼女は思った。


「それで出来たのがその刑務所……」

「そういうこと、でも犯罪者に色々手伝って貰ってます、なんて大っぴらに言えないだろ?だから隠されてる」


「なんか偉い人とかもよく来るよー!」

助手席に座らされているユキチカが会話に入ってくる。


「お忍びでな。各国のお偉いさんがやってきて仕事を依頼することも多々ある。あの刑務所はどこの国にも属してない、それが都合良いんだと」


その話をきいて後ろで小刻みに震えるウルル。


「だ、大丈夫なんでしょうか、そのような場所に私が行って、もし私がユキチカ様の従者として相応しくない存在とみなされたらスクラップにされるんじゃ……危険な目に沢山合わせてしまっていますし……」


「いやいや、気にしすぎでしょ……たぶん」


キビは最後の方を小声にしてそういった。



車を運転して、1時間と少しすると湾に到着した。


「さ、乗り換えだ」

車を降りるキビたち。


「酔い止めだ、飲んどけ」

キビが薬を渡す。


「ぼくも作ってきたよ!」

ユキチカも錠剤を取り出した。


「お前のは別の効果もあるだろうからいらない」

「正解ですね」


話していると奥から複数の人が車椅子を押しながら現れた。


「お待ちしておりました。どうぞこちらにお座りください」

その者達からはお辞儀をし、ユキチカ達を車椅子に座らせた。


「これから目隠しをさせて頂きます」

彼女らは後ろから黒い布を、座っているユキチカ達の目元に当て、グルっと一周させ固定した。


「では参ります」

視界が塞がれた中で車椅子が押される。


幾らか進んだところで車椅子が止まる。

揺れの感覚からして船に乗ったのだろうか、ゆらりゆらりと緩やかに揺れている。


「出発ー!」

目隠しされた状態でユキチカがそう声を上げ、拳をかがげた。


「おー!」

「酔い止め飲んでおいて良かった」

「はぁ、そんな機能無いはずなのに緊張で手汗かいてきたような気がします」

ジーナ、シャーロット、そしてウルルも目隠しをされてはいたが、ユキチカに続いて拳を掲げて同じポーズを取った。


「鬼丸ユキチカ様、それとご友人様、移動中はお静かに」

「「「はーい」」」

ユキチカ、ジーナ、シャーロットが手を上げて返事をする。


「も、申し訳ございません」

ウルルだけがペコペコと頭を下げていた。




そこは絶海の孤島。

常に強力な潮の流れがあり、モーターボートでもなければたどり着く事も出る事もできない。更には周囲の天気は非常に不安定でいつ嵐がやってくるかも分からない。


そんな場所に要塞のような建物が築かれた。

当時のアンドロイドの性能では、この環境下で正常に動かすことが出来なかった、故に人の手と昔ながらの装置などを駆使して建てられた。


何人もの人間が建築途中、この海に転落し亡くなったという話がある。


それこそがユキチカの故郷でもあり、世界で最も危険な刑務所、インファマス刑務所である。



「と、いう訳でユキチカが来るぞ!!!歓迎の準備だ!」

「署長落ち着いて下さい!お気持ちは分かりますが」

ユキチカの父、鬼丸ヤスシが部屋の飾りつけをしている。


「ーーーーーーッッ!!」


すると部屋のモニターから獣たちの雄叫びのような声がしてくる。


「アイツらも賑やかにやってるなぁ」


モニターの向こうでは、金網に囲まれた場所で殴り合う者たちがいた。

「うおお!!いけッ!」

「やっちまえ!」


怒号のような声が響き渡る。


「全く、今日は一段とにぎやかだねぇ」

そんな声を聴きながら火を眺める一人の老婆。


「ンガッハッハッハ!みんな嬉しいんだねぇ。さて、私も準備するかねぇ」



ここまで読んで頂きありがとうございました!


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