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作者: 柴犬




 


 僕は久しぶりに家で留守番をする羽目になった。


 大晦日。


 家の大掃除を終えた両親は親戚の付き合いで外出することになった。

 車で。

 毎年の恒例行事だ。

 母方の親戚の宴会に出席するのだ。


「御馳走、一杯食べてくるね~~」

「お前が運転してくれたら僕も宴会でビールが飲めるんだが……」


 父よ。車の運転席で嘆くな。


「私は沢山飲めるわ」

「なんか腹立つんだが」


 母の発言にボソッと言う父。

 いや。

 良いんだが……。


「お父さん。其れは毎年僕が言ってる事なんだが」

「毎年同じでも、息子なんだから愚痴位聞いてくれても良し」

「留守番してくれる親孝行な息子を持ってお母さん嬉しい」

「たまには親が運転しても良いと思います。僕にもビール飲ませろや」

「嫁さんにでも運転してもらいな」

「いねえわっ!」


 ムカつく。


「この子は~~心配だね~~50歳にもなって家事一つできないし」

「嫁が居ればな~~すまんな。お母さんを超える嫁を見つけられないんだろう」

「あらやだ~~お父さん~~」


 惚気る両親。


 うん。


「早くいけ。馬鹿夫婦」


 手で払うように僕は早くいけと両親にジェスチャーを送る。

 見送りなんてするのではなかった。

 腹立つ。


「はいはい」

「飲んできます~~」


 自分は家でインスタントで両親は外で御馳走か。

 腹立つ。


「お土産よろしく」

「漬物を貰ってくる」

「卵を貰ってくる」


 僕の言葉にまだ貰ってもいない土産の内容を言う両親。


「すでに家に有る物を土産とは言わん」

「じゃあね~~」

「飲んでくるね~~」

「聞けや」


 両親の言葉に思わず怒鳴る。


「最低ビールを一リットル飲む」

「飲めん分、御馳走たらふく食う」

「ああ~~そう」


 ハイハイ。


「「息子の分まで」」



 イラっとした。

 

「サッサといけっ!」

「「あはははははは~~」」


 笑いながら車を走らせる両親。


「はあ~~明日が仕事で無ければな~~」


 明日も仕事が入っているので家で一人留守番する羽目になるとは。

 むかつく。


「インスタントラーメンでも食って寝るか」



 そう言いながら僕は空を見上げた。

 



 チラチラと雪の降る夜だった。

 

 チラチラと。


 チラチラと。


 

 雪の降る夜。



 降り始めた雪の夜道を両親は車を走らせた。

 僕は今日は雪の夜道は危ないと注意したが聞き入れられなかった。

 御馳走が出る宴会に出たい欲がためだ。


「馬鹿は死んでも治らないというか……」



 仕方ないので車にスノータイヤを履かせて行かせたのだが……。

 それで良かったのかは分からない。


「まあ~~大丈夫だろう」


 深夜。



 

「ヤバい。全然眠れん」


 疲れの所為か眠れない。

 仕方ないので寝酒をしようかと台所に行く。


「う~~ん?」


 ゴソゴソ。


「有った」


 日本酒が。

 酒をコップに入れ居間に向かう。


「両親が居ないと何というか家の中が静かすぎるな~~」


 寂しさのあまりテレビをつける。

 

『だからですね。言ってやったんですよ私はダチョウと』

『ダチョウってどこが』

『ここ』

『股間に着ぐるみを付けてるだけや』

『あはははははは~~』


 他愛のないバラエティ番組を見る。


「全然面白くない」

 

 ありきたりで面白みのない内容に僕はどうしたものかと考えた。



 チャンネルを変える。




『今日のニュースです。〇月〇日、今日未明国道〇〇線で交通事故が有りました。死亡者は10名、重傷者は3名……、捜査当局は……雪による〇〇と判断事件性は無いと……』



 ニュース番組が有ったのでそれを見た。

 玉突き事故だ。


 雪で操作を誤って起こした滑り事故みたいだ。


「あれ? これって僕の親戚の家の近くじゃね?」


 ゾクッとした。


 悪寒がした。

 

「ゴホッゴホッ」


 やばい風邪かな?

 薬有ったかな?


「え~~と」


 薬箱を漁る。

 なにかにかられ、テレビの音を大きくする。

 何の衝動にかられたかのかは分からない。


「有った」

『〇〇はさあ~~1929年に……』

「あれ? 何でテレビの音がデカくなってんだ?」


 気が付くと無意識にテレビの音を更に大きくしていた。

 ゾクゾクする。

 悪寒が酷い。


 鳥肌が酷い。


 此れは駄目だ。

 早く寝よう。


 そう思いテレビの電源を切る。




 シン……とした。



 音がしない。


 生活音がしない。


 

 人が起きてる時に聞こえる音がしない。



 なのに何故か誰かが傍に居る気がする。

 周囲を見回す。


 誰も居ないよな?



 窓まで歩く。

 


 シャッ。


 カーテンを引き外を見た。

 既に隣人は寝てるみたいだ。

 家の明かりが消えてる。



 カーテンを閉め部屋を見渡す。


 散らかった我が部屋。

 


 シン……。



 人が住む環境に慣れていたせいか妙な怖さを感じる。


 静けさというか……何といえば良いか……。



 人の気配がしないと何か怖い。



「まあ~~良いか~~何か夜食でも食うか」


 

 台所に向かう僕。




 ふと思い振り返る。

 何だ?


 何か居たような……。



 奇妙な怖さが有る。

 それほど怖くない筈なのに……。



 深夜。


 いつもの寝る時間。


 僕は布団を敷いて寝る準備をした。


 ふと何気なくテレビをつけようとした時のことだ。



 スマホが鳴った。


 両親からだ。


「はい」

『後30分後に家に着きます~~♪』

「はいはい」



 それ位なら起きて待っていよう。



 30分後。



 またスマホが鳴った。


『御免。遅れる』

「はいはい」

『でも御土産有るからね~~』

「はいはい」

『鉢盛の残り』

「明日の御飯だね」

『そうね~~』


 詳しく聞くと渋滞に捕まり遅れるとの事。

 恐らく30分後に帰れるだろうとの事



 起きて待っていよう。

 まあいい加減にして欲しいが。

 

 無視して寝ようかな?




 ◇


 

 いつ頃帰ってくるだろうと思いながら眠気と戦っている時だ。


 今度は何故か固定電話が鳴った。


 今度こそ家に着くという電話だろう。

 等と思って受話器を耳に当てた時のことだ。

 電話の相手は警察だった。



 最初はなんの電話かと思った。


『佐藤さんのお宅ですか?』

「はい」

『落ち着いて聞いて下さい』

「はあ」

『今日国道〇〇線で交通事故が有り巻き込まれ事故発生。死亡者の中に貴方のご両親が含まれておる事が確認されました……』

「はあ?」


 訃報だった。

 それも両親の。


 嘘だろう?


「あの」

『何でしようか?』

「僕の両親が死んだというのは何かの誤りでは?」

『何故そんなことを?』

「先程両親から僕に電話が有りましたので……」

『そんな筈は有りません。現に此処に御両親の御遺体と運転免許証の顔写真が致し、御本人様達である事が間違いないと当方で確認出来ております』

「そんな筈は……」

『失礼ですが、新手の詐欺かもしれませんね……失礼ですが詳しく……』


 先程迄電話で会話していたんだぞ。

 だから……生きて……。



 電話の音がする。

 スマホのの。

 相手は両親だ。


 

「失礼、スマホが鳴ってるので」

『ああ~~どうぞ』


 表示は両親。

 それは間違いない。


 そう。

 間違いが無い。


 ゴクリと唾を飲んだ。


 間違いは無い……筈だ。



 嫌な汗が滲む。


 ボタボタと。



 手が汗で塗れる。



「はい?」

『もしもし~~もう着くよ家に』

「そう」

『楽しみにしててね』


 何故だろう。

 酷い悪寒がする。


「ねえ」

『なあに?』

「今ね。警察の人から電話が来てお母さん達が死んだって……」

『はいはい』

「違うよね。今僕と話してるし」



 乾いた笑いが出る。

 何故か。


 笑いが。


 全然面白くないのに。


『本当よ』



「は?」



 世界が凍った気がした。

 聞き間違いかと思った。


『御免ね~~ついさっき死んだの。お父さんと一緒に』

「い……いや……何を?」


 困惑する僕。


『だからね』

「え?」


 

『迎えに行くから、あの世で一緒に暮らそう」

「か……母さん何を?」



 声が震える。

 嫌な汗が出る。


『あなた一人を残すのは不安なの、だから……』

「あ……」


 だから。

 だから?


『一緒にあの世に行こう』

「まっ……」


 

 ヒュッと息が止まる。

 恐怖で呼吸が止まる。

 あ。

 あの。


 あの世?


『身の回りのこと何もできない貴方を残す事が心配なの』

「い……」



 あ。



『だから』

「いや……」



 やだ。

 いやだ。



『一緒に逝きましょう』



 周囲がいきなり明るくなった気がした。



 明るく。

 そう。

 明るく。

 

 まるで自動車のヘッドライトに照らされているような。

 そんな気がした。



『御土産直ぐに渡すわね』

「な……」


 御土産?

 何の?



『冥土の御土産を』



 この後のことは知らない。


 そう。


 知らない。


 僕は意識を手放したからだ。

 何処かで車のエンジン音が聞こえる。


 聞きなれたエンジン音。


 それは遠くから聞こえ直ぐ近くまで寄ってきた。

 

 やがてエンジン音は停止した。



 


 翌朝。



 一人の中年が自宅で死亡していた。

 直前まで会話をしていた警官の話によると突然錯乱したとの事。

 死亡原因は心臓麻痺だった。

 

 

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― 新着の感想 ―
少しずつ、少しずつ、怖さを盛り上げて行く手法は見事でした。 ただ最後「翌朝」〜からの部分がチョット気になりました。 語り手と電話していた警察官、電話が繋がったままなら語り手が錯乱して倒れたのが分…
誤字多すぎますよ(*´ω`*)
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