神か悪魔か 【月夜譚No.285】
狼を従えていたのは、大人しそうな少年だった。
濃い灰の毛並みをした狼は闇夜に溶けるようだが、少年の髪は長く白銀に輝くから、月光に照らされてよく目立つ。神々しさすら感じるその姿からは想像もできないほど、彼は残酷なことを成した。
夜空を仰いでいた少年の瞳が下りてきて、自身が立つ丘の下を臨む。そこにあるのは静かな闇ばかりで、先ほどまであったはずの人の気配が一切ない。聞こえるのは獣の息遣いと前脚が下草を踏む音。
傍らにいた一頭の狼が少年を見上げると、彼は目を細めてその頭を撫でた。
彼が神だというのなら、邪神に違いない。或いは、神の振りをした悪魔だ。
徐に持ち上げた指先を口に咥えて音を鳴らす。すると、闇の中から丘の斜面の月光の下に何頭もの狼が現れる。そのどれもが、毛並みを赤に染めていた。
少年が身を翻して去っていく後を、狼達が付き従う。
闇夜に残ったのは、無惨な光景だけだった。