告白
信じられなかった。目の前にいる女の子が、肩くらいまで伸びた髪の毛をくるくると回しながらぼくに告白してきたのだ。駐輪場に申し訳程度に備え付けられている蛍光灯の白色が目に刺さり、次第に乾いていった。太陽が落ちてほとんどの生徒たちが帰ったいま、ぼくたちを見守っているのは静寂だけで、ひんやりとした花信風はぼくの耳を走り、そこにいる女の子に言われたことばが、遠くはあるけれど現実的な世界のものだということを意識させてきた。
学年はぼくのほうが上だし、こういうのはふつう、ぼくから言うんじゃないのか。でもぼくは彼女に告白しようと計画していたわけではなかったわけだから、この場合は彼女から言われたのもしかたないんだとじぶんに言い聞かせた。
ぼくは大したとりえのない人間だった。勉強はできないし、たくましい身体を持っているわけでなければ、見た目が優れているような人間でもなかった。普通に生きていればヒトというくくりで見られるだけで、個としては見過ごされるようなそんなぼくを、彼女は好きだと言ってきた。彼女に告白させている自分が情けなかった。いつもはこんなに自分を卑下することはないのに、彼女への返事を考えるに当たってぼくが彼女に釣り合う人間かという分析が必要であり、しかしその答えはなんど考えても決まって「いいえ」だった。彼女の髪の毛は蛍光灯の下では一層黒く見え、肌はなめらかな薄い絹のようでいて、スカートのドレープがふわりふわりと影を変えながらそよいでいた。
ぼくはいまここで答えを出さないといけないのだろうか。数日時間をもらい、その間に彼女がやっぱりいいやと思ってくれた方が、彼女のためになるのではないだろうか。彼女がぼくと一緒にいる利点がぼくには分からなかった。ふつううれしさが勝つであろう場面で、冷静にそんなことを考えているじぶんへの嫌気がふつふつと出てきていた。
「だめ……ですか?」
彼女は衣擦れさせながらくちびるをぬらし、聞いてきた。だめかどうかをぼくに委ねてほしくなかった。ぼくはむしろ聞きたいんだ。ほんとうにぼくでいいのかと。
つまりこの考えは、ぼくは実際彼女と一緒にいてみたいという思いから来るものであり、ぼくは単にじぶんの自信のなさのせいで彼女と一緒になることをうしろめたく考えていただけなのだ。けれど、どうなるかなんてことはいま考えても仕方ないということも分かっていたし、そう思うと、結論にはまったくたどり着けそうに無かった。
彼女は本気で言っているのだろうか。直接聞いてみたかったが、意を決して想いを伝えてきてくれた人に対してその気持ちはほんとうかと質問するのは、あまりにも相手を尊重していないばかな考えのようであって、きっと、彼女を信じるしかないんだろうと思った。この子がほんとうはなにを思うのかということは常に見えないところにあり、ほのかに光が差し込んだとしてもそれは奥底を照らすほどのものではないのだから、いまこの瞬間からぼくが彼女の言動を受け止めるかどうかというのが、なんと返事をするのかということであろうと思った。
彼女はいじっていた毛先を指ではさんで口の前に持っていき、そこでぱらぱらと散らし始めた。すごくかわいかった。焦げ茶色の瞳に入り込む蛍光灯が目を潤わせていて、視線の移動がとてもよく分かった。どこか一点を見てはぼくの方をするりと見て、ぼくがなにを言うのか待っているようだった。
なにごともやってみないと分からないはずだ。そうだろう。考えすぎてもなにも変わらないままなんだ。ぼくはじぶんに勢いをつけた。
「ぼくでよければ、おねがいします」
ことばはほんのすこしでもものすごい力を持つ。これまでを簡単にくつがえし、これからを決めてしまったのだ。この日からぼくと彼女は付き合うことになった。




