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レシピ9 甘さだけでは飽きてしまうので、スパイス程度に塩気や苦味もお好みで……



「お前って、こういうのってつけないよな」


 アクセサリーの露店に目をつけたイエーガーが、適当な髪飾りを手に取ると、シャルトリューズに見せた。


「そうね、あまりキラキラしたものを装備すると、山に入った時にラーカスに襲われてしまうの。

 彼らは光るものを攻撃する習性があるのよ、知ってた?

 ちなみにラーカスに襲われたときは目を開けていてはダメよ。覚えておいて。彼らは真っ先に目を潰しにかかってくるの。

 彼らを撃退するにはそれなりの手順というものがあって……あ! それよりもイエーガー、ラーカスって分かる? ラーカス属ラーカス科の鳥類で、とても知能が高いと言われているの」


「……お前、ほんと知能の高い獣が大好きだよな……」


 イエーガーはうんざりした表情でシャルトリューズから目をそらした。

 そして手に取った髪飾りをそっと元の場所に戻す。


 シャルトリューズがもはや髪飾りに毛ほどの興味も示さないことは、分かりすぎるくらいに分かってしまったからだ。


「すごいのよラーカスって。ちゃんと人間のことを観察していて、その行動の意味を理解しているみたいなの。

 ラーカスと会話ができたらいいのにっていつも思うの。

 きっと私たちなんか足元にも及ばないような叡智を秘めている気がするのよね。あとはね、ラーカスのすごいところは……」


「よし、次の店に行くか……」


 イエーガーはシャルトリューズを無視して次の店に向かった。



 隣の露店は刃物の店だった。


「ここは用はねえな」


 イエーガーがそう言って次の店に目を向けた時、シャルトリューズは真剣な表情で刃物が並べてある敷物の前でしゃがみ込んだ。


「この(かま)……すごく良さそうね」


「は? お前、こういうのに興味があんの?」


「今使っている鎌の切れ味が最近落ちてきたの。そろそろ新しいものを買おうかしらって父さんと相談していたのよ」


 真剣な表情でシャルトリューズは鎌を手に持ち、手首のスナップを効かせて振っている。


 鎌の刃がヒュンヒュンと音をたてて風を切った。


「お嬢さん、なかなかの鎌使いと見たね」


 露店の店主がキラリと目を光らせた。


「それほどでもないです。天下一鎌大会では準優勝どまりでしたし……」


 さらっとシャルトリューズの口から出てきた謎のワードに、イエーガーが引きつった顔でツッコんだ。


「……なんだよ、その大会は……?」


 しかし露店の店主は、驚愕の表情でシャルトリューズのことを見つめている。


「な……なんだって……? あの鎌大会に出場しただけじゃなく準優勝……?

 そ……そんなすごい方にはぜひうちの鎌を使っていただきたい! どれか気に入ったものはありますか? あなたが買ってくれたって宣伝してもいいですか? お……お名前を聞かせていただいても!

 あ、そうだ! サイン! サインください!」


「……ごめんなさい。目立つのは本意ではないので……」


 申しわけなさそうに眉を寄せるシャルトリューズの腕を、イエーガーはむりやりつかんで立たせた。


「ダメだもう次の店行くぞ。次!」


 イエーガーは強引にシャルトリューズを引っ張ると、刃物の店から遠ざけたのであった。

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