レシピ5 演技と見せかけて実はマジ、をどんどん添加して、お好みの甘さにしていきましょう
イエーガーとシャルトリューズは店の前に到着した。
もちろん標的の店である、おしゃれカフェ『キャロル』の前だ。
(覚悟を決めなさい、シャルトリューズ……!)
シャルトリューズは自分を鼓舞した。
なぜなら作戦はすでに開始されている。
もう引き返すことはできなかった。
二人の編成は手つなぎ状態。それも指を絡めるカップルつなぎだ。
「お待たせしました。……もしやお客様は……?」
意味深な表情をする店員の質問にイエーガーとシャルトリューズは、お互いの方へ体を寄せ合い、笑顔で答えた。
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【ラブ割】メニュー出現条件。
手つなぎ・腕組み・肩抱き、いずれかの条件を満たしたラブラブなカップルでの入店によってイベント発生。
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「「はい! もちろん、ラブラブカップルです♡」」
ばっちり二人で声をそろえた。それを見た店員は微笑みを浮かべて店へとうながす。
「お待ちしておりました。どうぞごゆっくり愛を深めていってくださいませ」
(は……恥ずかしすぎる……!!)
シャルトリューズの動悸が倍の速度になった。異常な発汗も起きている。
イエーガーとつないでいる方の手汗が特にひどい。そしてイエーガーの手汗もすごい。
二人分のダブル手汗で、二人の握られた手の内側は異常な湿度になっていた。
席に案内され、ようやく手つなぎから解放された二人は、速やかに手をほどき、手汗を服でぬぐった。
もちろん、偽カップルだとバレないように、こっそりと。
(この手汗は想定外だったわ……! こんなことなら『腕を組む』を採用するべきだったわ……)
シャルトリューズは後悔した。
しかし未知の『腕組み』への恥ずかしさより、何度か実践済みの『手を握る』を安易に選択してしまった。
まさか手からここまで発汗が起きるなんて思いもしなかった。
山で手をつないだ時は、こんな異常発汗は起きなかったのに。
人前で手をつなぐ行為が、こんなにも緊張するものだということをシャルトリューズは思い知った。
そして案内された席の配置は向かい合わせではなく、カップルシートと呼ばれるソファに二人掛けの仕様だった。座面が狭く、お互いの側面が密着せざるを得ない。
窮屈だが、きっと値段の安いメニューが出てくる以上、この狭さは我慢しろということなのだろう。
シャルトリューズはそう解釈した。
店員が離れた隙を狙って、二人は速やかにアイコンタクトをとる。
「シャルトリューズ、油断するなよ。
カップルじゃないってバレたとたん、【ラブ割】適応なしの金額請求されちまうからな」
声をひそめて、イエーガーがシャルトリューズにささやいた。
「わかってるわよ。ここまで来たら絶対に店を出るまでバレるわけにはいかないわ……!」
シャルトリューズも小さな声でイエーガーにささやいた。
二人はバレないかヒヤヒヤしているが、まわりから見れば、いちゃいちゃしているバカップルにしか見えないのであった。