レシピ3 でも二人きりになると、友達とはしない深い話とかしちゃったり……をバランスよく乗せていきましょう
隣町までの道のりは、整備された街道を歩くだけの、比較的楽な行程だ。
父と行くときは、樽が5,6個あるので、荷車を使っていく。
そんな道を、なぜか今日はイエーガーと二人で歩いている。
とても不思議な感覚だった。
シャルトリューズは大きな樽を背負うイエーガーへ声をかけた。
「ねえ、ところでお友達と一緒にいなくて良かったの?」
イエーガーが仲間たちと挨拶もせずに別れたことや、仲間たちに何も説明もせず、自分と同行していることが、シャルトリューズは気になっていた。
「別に友達じゃねえよ。ただつるんでるだけで、仲がいいわけでもないしな」
「……それは残念ね、あんたかまってちゃんなのに」
「かまってちゃんじゃねえよ! お前いい加減にしろよっ! しかもかわいそうな顔で見んな!」
怒鳴られてもシャルトリューズはまったく意に介さない。またひとつ疑問が生まれた。
「私はもともと人と考え方がズレてるみたいで……だから一人になってしまうことが多いのだけど……。
一緒にいるのに仲良くないって不思議ね。
じゃあどうして一人じゃなく、その人たちといつも一緒にいるの?」
シャルトリューズはじっとイエーガーを見つめた。
イエーガーは眉をしかめると、シャルトリューズから顔をそむけた。
「……別に、たまたまだよ。他に居場所もねえし、同じような考えしたやつらがたまたま同じような場所に集まってるだけさ」
「同じような人がいるって、うらやましいわ。
私は……努力してるつもりだけど、どうしても同年代の人たちと、うまく溶け込めないの。
きっと、がんばりが足りないか……がんばる方向が間違っているのかもしれないけど……。
人と仲良くするって、とても難しいわ」
「どうした? 珍しく弱気だな」
「別に弱気ではないわ。改善する手段が思いつかないという話をしているだけ。
まわりが楽しそうに話をしているのを聞いていても、私にはそれがどうして楽しいのか理解できないの。
理解するためにいろいろ質問すると、かえって不愉快にさせてしまうみたいで……場が白けてしまうというか……。
それで気づくの。『ああ、この介入方法は失敗なのね』って」
ぷっとイエーガーが吹き出した。
「お前って真面目っていうか、不器用っていうか……」
「私、なにか間違ってるかしら?」
まさか笑われるとは思っていなかったので、シャルトリューズは少しだけイエーガーをにらんだ。
「『楽しそうに見える』だけで、本当に当人たちが楽しいと思ってるかどうかは分かんねえってことさ。
本当は楽しくなんかねえけど、適当にその場のノリだけで合わせてるだけかもしれないぜ?」
「楽しくなくても楽しそうにしてるってこと? どうして? その必要性は?」
「さあな。そういうことしてるやつに聞いてみなくちゃ分かんねえさ。
――あ、待った。本当に聞くなよ? 嫌われるぞ」
シャルトリューズはイエーガーの言葉を忘れないように頭の中で反芻した。
家に帰ってから、ちゃんとよく考えてみようと思った。
父なら疑問に答えてくれるだろうか。
「ねえ? イエーガーは? 毎日楽しい?」
「なんだそのガキみたいな質問は。お前は? 毎日楽しいか?」
質問返しで答えられてしまったが、不思議と嫌な気分にはならなかった。
「私は……レシピを考えてるときとか、実験してるときとか、毎日すごく楽しくて忙しいわ。
楽しくないのに楽しいふりをしてる人たちって、普段はなにをして過ごしてるのかしら。興味深いわ」
イエーガーが笑った。
「お前は本当にお前らしいな」
「なにそれ。どういう意味?」
「教えねえ。……まあ、でも、今のは褒めたつもり」
(褒めた……?)
しかしシャルトリューズは、どんなに考えても自分のどこを褒められたのかは分からなかった。