レシピ12 今夜はあなたに会いたくて、朝になるのが待ち遠しいの♡パフェの完成です
夜――。
シャルトリューズは自室で、手紙と封筒を用意して、イエーガーに渡すパフェのメニュー名を書いていた。
――――このパフェよりも私があなたを好きな気持ちの方がもっとも〜っとおっきくて甘いの……
紙に書かれた文字を目にして、シャルトリューズは驚愕した。
(――え……? なにこれ!? なにこの恥ずかしい言葉……っ!
これをイエーガーに渡すの!?
ありえないわ! だって……これじゃまるで……ラブレターじゃないの……!)
シャルトリューズは速攻で手紙をビリビリに破いた。
思い返せば、イエーガーに向かってこのメニュー名を3回くらい唱えてしまった気がする。
(ありえない!! ありえなさすぎる!! なにを言ってるのよ私は……!
これじゃまるでイエーガーに……す……す……好……っ)
ドガン! ドガンドガンドガン!
動揺を抑えるためにシャルトリューズは机に顔面をぶつけまくった。
「シャルトリューズ? なんかすごい音がしたけど大丈夫?」
心配した父がノックをして部屋に入ってきた。
そして目をひんむいた。
「おでこっ!! またおでこなのっ!? どうしてっ!? また真っ赤なんだけどっ!」
シャルトリューズは動揺を隠すため最高レベルのポーカーフェイスを発動し、あわてふためく父と対峙した。
「父さんを超える薬用酒のレシピを考えてたんだけど、いいアイデアが浮かばなすぎてちょっと脳を刺激してたのよ、たいしたことではないわ」
「それは刺激じゃないよっ! やりすぎだよっ! 脳が損傷しちゃうから絶対にもうやっちゃダメっ!
ねえ、シャルトリューズ、きっと疲れてるんだよ! ゆっくり休んでっ! ね! ね!
あ! そうだシャルトリューズ! シャルトリューズが行きたいって言ってたキャロルの割引券があるんだ! ほら! 全品半額になるんだよっ! これで今度お友達とおいしいの食べておいでよっ!」
父が無造作にポケットから取り出したクーポンをシャルトリューズに握らせる。
シャルトリューズの頭の中で超高速で思考が駆け巡ったが、高速すぎて自分が何を思考しているのか認識できなくなった。
「このクーポン、いくらでもゲットしてこれるからさ! 欲しかったらまた教えて! じゃあシャルトリューズ、おやすみ! 無理しちゃダメだよ!」
シャルトリューズの頭を優しくなでなですると、父は部屋を出ていった。
部屋には呆然と立ち尽くすシャルトリューズだけが残される。
(……と、父さん……? この50%オフのクーポン、どうやって出したの……? いつ? 誰と? 父さんが?
さっき、空耳じゃなければ、いくらでもゲットできるって聞こえたような……)
クーポンを握りしめたまま、シャルトリューズは無性にイエーガーに会いたくなった。
そして無性に話がしたかった。
(大変よイエーガー! 緊急事態よ!
まさかの半額クーポンを出現させた人物がここにいたわ! どうしましょう! 私いろいろと聞き出したほうが良かったのかしら!?
でもなんだかすっごく聞きたくないのよ! どうすればいいの!?
代わりに父さんへ質問してくれないかしら?
ああもうイエーガー! なんで今ここにいないのよ……っ!
ああもうダメだわ! 今日はもう絶対にいろいろ気になって眠れないわ!!
お願いだから早く朝になって……!!)
・・・・・
シャルトリューズの中で、今日は父への畏敬の念が、いろんな意味で深まる一日となった。
シャルトリューズは翌日、もちろんイエーガーに会いに行った。
二人がどんな話題で盛り上がったのかは、きっとご想像のとおりだろう。
二人の関係が、この先どうなるか――。
それはまだ誰にもわからない。
シャルトリューズの恋のレシピは、まだまだ甘さを深めていくのかもしれないのだから――。
お読みいただきありがとうございました。
次回のレシピⅢは、このストーリーの翌日からスタートします。
投稿開始まで今しばらくお待ち下さい。