レシピ11 さあもうすぐパフェのできあがり
シャルトリューズは街道をどんどん歩いていくイエーガーを小走りで追いかけた。
「イエーガー。これ、帰ったらお金払うから……!」
「別にいらね。大した金額でもねえし」
「だってさっき、これ払ったらお金がないって……」
「そういう駆け引き込みで露店の買い物は楽しむもんなんだよ。
馬鹿正直に向こうの言い値で払ってたら馬鹿にされるぜ? それにまだ食いもん買って帰るくらいの金なら残ってるしな」
シャルトリューズを振り返ったイエーガーは、楽しそうに笑っていた。
「……いいの? これ、私がもらっても……」
「俺に渡されてもマジでいらねえし、それ」
(――どうしよう……。すごく嬉しい……)
気持ちがどんどんあふれて、どうにかなってしまいそうだった。
さっきまでずっと忘れていたドキドキが急に戻ってくる。
イエーガーの顔が見れなくなる。
「……イ、イエーガー……あの……っ」
シャルトリューズはピッペリーで顔を隠した。
全身がすごく熱かった。もしかしたら顔が赤くなってるかもしれない。
「あ……ありがと。……あの……すごく嬉しい……」
イエーガーがつかつかと距離を詰める気配がした。
「そういうのは、ちゃんと相手の顔を見て言うもんじゃねえの?」
イエーガーの手が、シャルトリューズの手とピッペリーをつかんで、下へと押し下げた。
そして息を飲んだ。
「……ってお前ウソだろ……?
この状況でもやっぱり無表情かよ! ありえねえだろ! この……っ、この顔面アイアンメイルがっ!」
瞬間的に表情筋を最大限に覚醒させ、完璧なまでのポーカーフェイスを発動したシャルトリューズは、無事に通常時の顔面対応に成功した。
家を出てくるときに服用した特製筋肉増強薬用酒の効果である。
「プレートメイルから昇格なんて光栄よ。私も今すごく自分のことを褒めてあげ……」
「褒めるな! 俺は褒めてねえんだよ! 自分でなにを褒めてんだよっ!
お前ほんっとに頭おかしい! つーか顔面が絶対おかしい! どうなってんだよお前の顔面!」
叫ぶだけ叫んだあとに特大級のため息をついたイエーガーが、諦めたように頭をかいた。
「金は返さなくてもいいけど、貸しだからな。
お前が今日持ち込んだ薬用酒が売れたら今日の礼でなんか奢れよ?」
「分かったわ。なら、今日もらった割引券でパフェを食べましょう」
「あー……なんだっけ、あの恥ずかしい名前のパフェだろ?」
「そう。『このパフェよりも私があなたを好きな気持ちの方がもっとも〜っとおっきくて甘いのよ♡パフェ』ね」
二人の間に不自然な沈黙が発生した。
「…………長いな。もっかい言ってくれ」
「たしかに長いわよね。『このパフェよりも私があなたを好きな気持ちの方がもっとも〜っとおっきくて甘いのよパフェ』よ」
「…………もっかい」
「だから! 『このパフェより……』
……ねえ、もしかして紙に書いた方が覚えやすい?」
「……紙に書く? あー……いいかも。今度書いてくれ」
「あんたって実は記憶力が悪いの? この程度の文が覚えられないなんて、ちょっとびっくりよ」
「……俺も……お前の頭の悪さに心底びっくりしてるよ……」
「私のどこが頭が悪いの? そんなこと言われたの初めてよ。具体的にどういうところでそう認識したのか説明して」
「そー! ゆー! と・こ・ろ――――――っ!」
なぜイエーガーが怒っているのか、残念ながらシャルトリューズにはさっぱり理解できなかった。