表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

レシピ10 そろそろ仕上げ。パフェグラスから上の部分はいいところを見せちゃいましょう



 露店通りも最後の方になってしまった。


 最後の店は子供が好きそうな小さなおもちゃの店だった。


「さすがにこれは別に必要ねえ……」


 イエーガーがそう言いかけた時、シャルトリューズはイエーガーの手をふりほどき、夢中でその露店へ駆け寄っていった。


「もしかして……これ……! 『やまのどうぶつさんシリーズ』ですか?」


 顔を輝かせたシャルトリューズは露店の女主人に尋ねた。


「あらそうよ。よく知ってるわね、もしかしてコレクターさん?」


「いえ、まだ持っていないんですけど……七年前にこの町のお祭りの日に父と来て、そのときにもここで売ってませんでしたか? 私……その時にすごく欲しかったんですけど、どうしても父に買ってって言えなくて……」


「あらあらそうだったの? 嬉しいわ。どの子が欲しかったの?」


 女主人の問いかけを聞きながら、シャルトリューズは売り場のおもちゃたちを見回した。


「未成熟期のピッペリーなんですけど……あの、シマシマが入ってる……」


「……お前、ガチでピッペリーが好きなんだな……」


 あきれているイエーガーの声は、残念ながらまったくシャルトリューズの耳には届いていない。


 もはやシャルトリューズの興味は100%が『やまのどうぶつさんシリーズ』になってしまい、イエーガーの存在は1%すらもなくなっていたのであった。


「あら詳しいわね。そうなのよ、ピッペリーに(しま)が入っているのを未成熟期と知ってるあなたはなかなかの通ね! ほらここよ。オスとメスがあるわよ、どっちにする?」


「そんなおもちゃにオスメスの区別があんのかよ」


 イエーガーがぼやく。


 シャルトリューズはおもちゃのピッペリーを手に取ると、ひっくり返してみた。


「……ああっ! 大変! ちゃんとついてるわ!

 ちっちゃいのがちゃんとついてる! かわいいっ! 素敵っ! なんてクオリティ!」


「でしょ! でしょ! うちは小さくてもクオリティを大事にしてるの! どこも妥協はしてないわ。縮小比率も正確よ!」


「おい! 女がでかい声でオスのチ●コがかわいいとか騒ぐな! 恥を知れ!」


 赤面して怒鳴ったイエーガーを女性たちは冷ややかな目で見つめた。


「やめてイエーガー。下品なこと言わないで」


「嫌ね、男って。すぐにそうやって品のない考え方するんだから」


 女性二人に睨まれ、イエーガーはたじろいだ。


「……ちょっと待てよ、なんで俺が怒られてんだよ。品がないのはお前らだろうがよ」


 しかし文句を言うイエーガーの存在は、一瞬にして女性二人から消し去られている。


「かわいい! すごいわ! この子すっごくかわいい!」


 シャルトリューズはピッペリーのおもちゃをぎゅーっと抱きしめた。


「そんなに気に入ってくれたんなら、ちょっとオマケしてあげるわ。これくらいの金額でどう?」


 手のひらをパッと開いて提示された金額を察して、シャルトリューズはそっとピッペリーを露店に戻した。


 キャロルのケーキを食べてしまったあとでは、もう買い物ができるような余裕はなかった。


 こんなことなら薬用酒(エリキシル)が売れるなんて皮算用しないで、ちゃんとお小遣いを持ってくれば良かった。


「ごめんなさい。今日はお金がなくて……。

 明日は……来れないんですけど、数日中には必ず……!」


「ごめんなさいね。私、今日ここで売ったらまた別の町に行くのよ」


「……そうですか……。わかりました。縁がなかったってことですよね……」


 名残惜しい気持ちでピッペリーのおもちゃを見つめたまま、シャルトリューズは立ち上がった。


 するとシャルトリューズと入れ替わりに、今度はイエーガーがしゃがみこむとピッペリーをつかんだ。


「これなら買ってやるけど、どうだ?」


 イエーガーが指を3本立てた。

 シャルトリューズは何が起きているのか理解できなかった。


「あら彼氏、そう来なくっちゃね! でもさすがにそれは無しね、450よ」


「300だ。それ以上無理」


「うちも元手がかかってんの。400よ」


「そうすっと俺もマジすっからかんだ。それは無理。せめて320」


「ねばるわね。380」


「察してくれよ美人のオネーサン。330」


「……いいわ。彼女の前だしね、彼氏にいい恰好させてあげる。350よ、毎度あり!」


「……ちっ、350かよ」


 イエーガーは代金を払うと、おもちゃのピッペリーをシャルトリューズに押しつけた。


「これで店も一通り見たし、そろそろ帰るか」


「……え?」


 まだ事態が飲み込めないシャルトリューズに、女主人が耳打ちした。


「素敵な彼氏ね。もう妬けちゃうわ! 仲良くするのよ! あとその子も大事にしてね!」


 シャルトリューズはようやく理解した。


 イエーガーが、自分にこのおもちゃを買ってくれたのだということを――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ