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白昼夢11

お久しぶりです。最新話です。

乾燥か花粉か、なまじ体調が良くないのですが皆さんはどうぞお体を大切にしてお過ごしください。肺炎はとにかく苦しいです。

 少女に連れられるがまま歩き続け、日が暮れる前には一軒の民家にたどり着くことができた。

 少女の手が玄関の取手に触れる。その瞬間カチャン、と微かに施錠の開く音が聞こえた。

 そして扉を開け、まとに中へ入るように促す。

「え。今、鍵を開けた?」

 まとの問いかけに返事はない。ただ中へ入るよう、指をさして促すだけだった。

 促されるまま、渋々敷居を跨ぐ。しかし、少女がまとの後ろに続くことはなかった。

「貴方は、中へ入らないの?」

 不思議に思い、家の中から問いかける。少女は首を横に振るだけだった。

「そんなこと言わないでさ、おいでよ」

 そう言って、少女に手を伸ばす。すると、存外にも少女はまとの手を握り返した。

 そして難なく敷居を跨ぐ。

「なんだ、入れるじゃん。……!」


 少女の行動を前に、まとはある事を思い出した。

 それは理多とふたりでいた時のこと。勝美がふたりの元へ現れ、玄関越しに助けを求めていた瞬間。

 ──あの時、勝美は自ら敷居を跨いだか?

 まとの記憶が正しければ、勝美はまとが受け入れるまで敷居を跨がなかった。

 否、跨げなかったのだろうか。

 同時に理多がどこか不機嫌そうな、険しい表情をしていたことも思い出した。

 怪異は受け入れるまで敷居を跨げないのなら、あの時とんでもない事を仕出かしたのではないか?

 そして、まとはあの惨劇に見舞われた。どんな因果があるのかわからないが、結果的にまとは死んだ。


 ──勝美は人間じゃない。

 不意に、そんな考えが脳裏をよぎった。今更どうすることも出来ないが、妙な確信があった。


 少女が不思議そうに、呆然とするまとの顔を覗き込む。視線が合ったような感覚がして、まとはそこで我に返った。

 様子の可笑しいまとを心配してか、少女はまとの手のひらに文字を書いて気持ちを伝える。

『ど う か し た ?』

 彼女の優しさを嬉しく思い、まとは心配させまいとかぶりを振る。

「ううん、なんでもないよ。私は大丈夫だから」

 玄関を閉じ、鍵をかける。ふたりはその家で夜をやり過ごすことにした。


 夜をやり過ごしている間、まとはその家にあったソファーに寝転んだ。少女に膝枕をしてもらって。

 膝枕をしてもらっている間、まとは少しだけ眠ることができた。

 男に殺された出来事や、勝美へ抱いた疑念などで精神的な消耗が激しかったのだろう。

 この時には少女が人間かなど、どうでも良くなっていた。あんなことがあったのに。

 お面越しだが少女に見つめられながら、まとは静かに寝息を立て始めた。


 しばらくして、まとは眠りから目覚めた。──酷く荒々しい状態で目を覚ました。

 最初は静かに眠っていた。しかし次第に表情は歪んでいき、苦しそうにうなされ始めた。

 最終的には奥歯を噛み締めたせいで呼吸もままならず、汗がじっとり纏わりつく状態で飛び起きた。

 眠りから覚めても、荒く浅い呼吸を繰り返す。ここが現実だと気づくまで、多少の時間が掛かった。

 不意に少女を見遣る。彼女はじっとしていたが、まとの左手を握りしめていた。

 同時に左手に感じる感触を知覚する。

 いつからそうしていたのか、おかげで呼吸は落ち着きを取り戻すことができた。

 幾分か落ち着きを取り戻したとき、ひとつの考えが脳内をよぎった。


 ──勝美は人間ではない。であれば、謎の男は果たして怪異なのか?

 勝美は白髪の若い男に長いこと追われていると言っていた。なぜ勝美を追っていたのか、それは勝美の正体を知っていたからでは?

 だとすると、あの男は人間の可能性もあるのでは?

 これまで遭遇してきた異形は、どれも人とかけ離れた姿形をしていた。目前にいる少女でさえ、人と似て非なる部分がある。

 ところが、勝美はどこからどう見ても人間だった。人のように振る舞い、人のように血を流していた。

 会話に違和感もなく、ここに迷い込んだ当時のことも覚えていた。嘘の可能性もあるが、理多とまとが経験した境遇と共通点も多かった。

 なぜ、理多とまとに近づいてきたのだろう。男に追われていると言っていた、それもまとを殺した男に。

 もしや、謎の男と勝美にはなんらかの手がかりがあるのではないか? それに今更気づくなど、なんと遅いことか。


 少女からお面越しに見つめられている事も気にせず、まとはなにもない空間を見つめた。

 気づきを得たかと思えば、結局は振り出し以前に放り出された状態。

 なにから進めたらいいのか、溜め息が零れた。

「はぁ……、外に出たくないなぁ」

 外に行きたくない、危険なこの状況から逃避したい、蓄積された負の感情が不意に溢れ出してきた。

 それを払拭するように、少女がまとの頭を撫でる。

「私ね、家族がいるんだ。当たり前だけど。お母さんとお兄ちゃん、お父さんは単身赴任で他県にいるの」

 なんの気なしに家族のことを話し出す。少女が聞いているのかわからないが、構わずに話を続ける。

「夏休みになったらね、バイトをするつもりだったんだよ。十月はお母さんの誕生日があるから、プレゼントを買いたかったんだ」

 本当なら残り数週間で、まとは高校生活で初めての夏休みを迎えるはずだった。

 ここにくる直前も、兄の紫音と当たり障りない会話をしていた。

 それが今では、こんな場所で八方塞がりな状況に置かれてしまっている。

 すべては“場所”に招かれたことから始まった。

「私、家に帰れるかな……」

 すっかり意気消沈し、不意に弱音をこぼす。

 ふとした時、些細な瞬間に、あの男に斬り殺された記憶がフラッシュバックする。

 あの男の血走った目が忘れられない。脳裏に酷くこびりついている。

 少女が安心を与えようと触れている時でもお構いなしに訪れる。

 とても恐ろしく、齢十六の少女が背負うにはあまりにも負担が大きかった。これはもう、誰にもどうすることも出来ないのだろう。


 少女がまとの手のひらに、ぽつりぽつりと文字を書き連ねていく。

『い え に か え っ た ら』

『か ぞ く の こ と を お し え て』

 励ますでもなく、慰めるわけでもなく。現状のまとに寄り添った言葉を選んだつもりなのだろう。

 怪異のくせに。それがなにより、まとの弱った心に小さな救いをもたらした。

「……私、決めたよ」

 少女の手を握りしめ、まとは自分を奮い立たせる。そして決意した。

「あのね、私を殺した人がいるんだ。その人を見つけたい、お願い協力して」

 握りしめた手にぎゅっと力を込め、お面の奥の空洞を見つめる。返事はないが、まとの意志は伝わっただろう。


「無事に帰れたら家族を紹介するね」

「私の家族にはね、猫もいるんだよ。無愛想だけどすっごく可愛いんだ」

「絶対だよ」


 弱々しくもどこか嬉しそうに、少し微笑みながら語りかける。

 理多が言っていた『約束してはいけない』という話もすっかり忘れ、まとは再び約束した。

お面ちゃんに気に入られたまとちゃんですが、いささかというかまとが魅入られた瞬間の描写が雑すぎないか?という疑問があります。

が。怖い話を読んでいると、やばい怪異に目をつけられた瞬間って本当に些細なんですよね。たまたまそこにいて目があった、たまたま行った心霊スポットがやばかった。本当にたまたま、みたいな瞬間が多いと感じました。

なのでまとちゃんがお面ちゃんに出会ったのも、魅入られたのも本当にたまたまで特に意味はないです。でもあの場面にいたのが男だった場合、お面ちゃんに食い殺されていたと思います。

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